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【抑肝散】レビー小体型認知症の妄想・幻覚に対する改善効果/論文の意義

公開日:2014.07.09
カテゴリー:特集・漢方の実力

西洋医学では対処法に乏しく困っている領域
レビー小体型認知症の妄想や幻覚・幻視の症状を改善する-抑肝散(よくかんさん)

 高齢化の進展とともに認知症の患者が増加していることは良く知られていますが、認知症もいくつかの病態に分類されます。代表的なものがアルツハイマー型認知症で、海馬とよばれる脳の記憶を司る部分などにアミロイド、タウとよばれるたんぱく質の一種が蓄積して神経細胞を破壊することで認知機能が障害されます。これに次いで多いのがレビー小体型認知症というものです。レビー小体は、神経細胞内に発生する円形の異常な構造物で、元々、ふるえなどの運動症状を呈するパーキンソン病の患者の中脳黒質という部位で発生することが知られていました。このレビー小体が大脳皮質など認知機能に関係するところでも発生するのがレビー小体型認知症です。
 レビー小体型認知症もアルツハイマー型認知症も認知機能が低下して記憶が難しくなるなどの症状は同じですが、いくつかの違いがみられます。1つにはレビー小体型認知症では初期から幻覚、幻視などが起こることです。とりわけ幻視は実際にはそういうことはないにもかかわらず、具体的に「玄関に子供が立っている」など極めて生々しい光景を患者さんは口にします。
 また、レビー小体がパーキンソン病でも生じることに関連して、レビー小体型認知症でも安静時の手足の震えや歩行障害といったパーキンソン病と類似の症状がみられます。この症状で転倒することもあり、高齢者では転倒による骨折を引き金に寝たきり状態になる恐れすらあります。
 このレビー小体型認知症の治療では塩酸ドネペジルなどの認知症治療薬以外に、幻視・幻覚の緩和として抗精神病薬、パーキンソン様症状の緩和に抗パーキンソン病薬などが用いられます。
 現在、総合南東北病院(宮城県岩沼市)で漢方医学センター長を務める岩崎鋼先生らのグループはレビー小体型認知症の患者の妄想や幻視・幻覚と言った症状に漢方薬の『抑肝散』が有効であると報告しました。この報告は日本国内で認知症の治療に携わる専門医の多くが会員となっている日本老年精神医学会が発行する英文学術誌「Psychogeriatric」の2012年12月号に掲載されました。

背景:レビー小体型認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する抗精神病薬投与は、精神症状の緩和の一方で運動障害の悪化懸念があり、より安全で有効な薬剤が求められている

 認知症では一般的に記憶障害などの脳の認知機能障害を中核症状、幻覚、妄想などの心理症状や暴言、暴力などといった行動症状を周辺症状(BPSD)と分けています。レビー小体型認知症に特徴的な幻覚・幻視などの症状は、BPSDに分類され、患者本人以上に介護する家族や医療従事者の負担を激増させるものとして知られており、その負担軽減は認知症の長期的な治療・ケアの面からは大きな課題とされています。
 レビー小体型認知症でも幻視・幻覚の緩和として抗精神病薬を用いることがあるのは前述したとおりですが、この場合、脳から筋肉へつながる錐体外路と呼ばれる経路に障害を及ぼしパーキンソン病様の運動障害を悪化させることがあります。このためレビー小体型認知症での抗精神病薬の投与は専門医でもそのさじ加減は極めて難しいとされ、より副作用の少ない薬剤が望まれています。
 『抑肝散』は「当帰(トウキ)」、「茯苓(ブクリョウ)」、「川芎(センキュウ)」、「釣籐鈎(チョウトウコウ)」、「蒼朮(ソウジュツ)」「柴胡(サイコ)」、「甘草(カンゾウ)」の7種を構成生薬としており、従来から虚弱体質の人で神経が高ぶる神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症に使用されてきました。これらの生薬は中枢抑制作用や鎮静作用を有しており、その観点からアルツハイマー型認知症でのBPSD緩和のためにも用いられることが増えています。
 今回、岩崎先生らはレビー小体型認知症の患者さんたちに『抑肝散』を服用してもらい、その結果を検討しました。有効性の評価にあたっては国際的な評価基準である神経精神症状評価(NPI)、NPI 下位尺度(妄想、幻覚、興奮/攻撃性、うつ、不安、無感心、易刺激性/不安定性、多幸、脱抑制、異常行動)、さらに介護者の負担レベルを評価する国際基準・Zarit介護負担尺度を用いています。いずれも算定するスコアが低くなれば、患者の症状改善あるいは介護者の負担軽減が実現できたとしますが、『抑肝散』を4週間服用したレビー小体認知症患者さんでは、いずれも時間とともに低下し、明らかな改善が認められました。
 また、副作用は一部の患者でむくみ、消化器症状などが認められましたが、重篤なものではなく、錐体外路系の障害はありませんでした。ただ、低カリウム血症でけいれんとBPSDの悪化をきたした症例があり、この点は十分注意が必要です。
 今回の研究では全般的に『抑肝散』はレビー小体型認知症のBPSD治療で、抗精神病薬に比べ有効かつ安全である可能性が示されています。

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