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認知症の周辺症状を漢方で改善

公開日:2012.10.05
カテゴリー:症状別得意分野

人口の高齢化にともなって患者数が増えている「認知症」

 年を取るごとに、誰でも経験する物忘れはごく自然な老化現象ですが、認知症は単なる物忘れとは違い、記憶力や判断力などの認知機能が低下していく病気です。たとえば「昨晩食べたおかずを覚えていない」というように一部分だけ思い出せないのは単なる物忘れですが、食事をしたこと自体忘れてしまうのが、認知症です。認知症は現在、人口の高齢化に伴い、日本には300万人以上の患者さんがいるとされています。
 認知症には、大きくわけて「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」の3つがあります。その中で患者数が最も多いのが「アルツハイマー型認知症」。日本人の認知症患者のうち、約半数はこのタイプの認知症だといわれています。

介護者の負担を増やす認知症の周辺症状

 「アルツハイマー型認知症」の特徴は、もの忘れから始まることが多く、数年から数十年かけてゆっくり進行していくということ。進行とともに「いつ」「どこ」がわからなくなる見当識障害、判断力や理解力の低下などの症状が現れます。
 「脳血管性認知症」は、脳梗塞や脳出血など、脳の血管に何らかの障害がおこることによって発症、「レビー小体型認知症」は、脳の神経細胞の中にある種のたんぱく質が固まってできる「レビー小体」という特異な物質が原因で起こる認知症です。
 認知症の症状には、知的機能が低下した影響が直接現れる中核症状と、それに伴って生じる周辺症状があります。中核症状は、認知症患者さんならば必ず現れる症状ですが、周辺症状は、「行動・心理症状(BPSD)」とも呼ばれ、幻覚や妄想、うつ、睡眠障害などの精神症状と、攻撃的な言動や徘徊、過食や拒食などの行動障害がありますが、症状の出方や程度は人によって差があります。介護者の負担を増大させ、患者さん自身の心とからだの状態を悪化させることからも、周辺症状治療の重要性は注目されています。

精神症状 ・幻覚(幻視、幻聴など)
・妄想(物盗られ妄想、被害妄想、嫉妬妄想など)
・睡眠覚醒障害(不眠、レム眠行動異常)
・感情面の障害(抑うつ、躁、不安、興奮など)
・人格面での障害(多幸、脱抑制、易怒性、アパシー(無気力・無関心状態)など)
行動障害 ・攻撃的言動(暴行、暴言)、焦燥、叫声、拒絶
・不適切・無目的な言動(仮性作業、不潔行為、徘徊、収集行為など)
・食行動の異常(異食、過食、拒食など)

プロフェッショナルの【眼】

認知症の周辺症状の改善には漢方薬が有効

筑波大学大学院 人間総合科学研究科
教授 水上勝義 先生

 認知症の周辺症状は患者さんだけでなく、介護する人たちにとっても大きな問題となっています。なかでも易怒性、興奮、攻撃的言動は介護者を最も悩ませ、患者さんの在宅生活を困難にします。
 これまで、これらの症状の治療には、向精神薬などが用いられてきました。しかし、体がスムーズに動かずに転びやすくなったり、ボーっとしやすくなったりの副作用が出るために、食事をする、歩くなどの日常の動きでさえ困難になってしまう場合も数多くありました。
 そこでここ最近、周辺症状を改善してくれる薬として効果が期待されているのが漢方薬の「抑肝散(よくかんさん) 」です。漢方の世界では「肝の高ぶりは怒りや興奮などの精神神経症状をもたらす」と考えられており、このお薬はそれらを抑えることからこの名前がつけられています。もともと抑肝散は、子供の夜泣きや疳の虫を治すための漢方薬でしたが、現代では年齢を問わず不眠やイライラなどの症状を抑える薬として使われています。
 認知症患者さんに対しても、抑肝散は、イライラや興奮症状、攻撃性、幻覚、不眠などの症状に対する効果が報告されています。漢方薬で症状が改善すれば、あらたに向精神薬を用いる必要がなくなりますし、また向精神薬の量を減らすこともできるため、副作用を抑えることが可能です。また保険医療機関で処方される漢方薬は金銭的負担も含めて高齢者にとって非常に適したお薬といえます。
 ただし、漢方薬といっても薬ですから副作用に一定の注意が必要です。また抑肝散は認知症の中核症状に対する薬剤ではありませんので、抑肝散=認知症と早計に判断するのではなく、患者さんの体質や症状を見極めて薬を決めることが大切です。そのためにも医師の診断を受け、適切な治療を受けてください。

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