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可能性広がる漢方薬 新型コロナにおけるエビデンス構築の意義と今後の展望

公開日:2023.07.14
カテゴリー:病気と漢方

軽症・中等症の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対し、症状を緩和する従来の治療のみの場合と葛根湯(かっこんとう)と小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)を併用した場合とを比較した日本東洋医学会主導の多施設共同での無作為化比較試験。本記事の前編にあたる「新型コロナの重症化を抑制する可能性のある漢方薬 そのエビデンス構築までの道のり」ではこの試験の経緯やその苦労などについて研究の中心となった東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座特命教授の髙山真先生にお話を伺いました。後編ではこの研究結果の意味することや今後この結果を実際の医療現場でどのように活用するかについて髙山先生に話を伺いました。(村上和巳)

認められた解熱効果と期待される重症化抑制効果

―発表された研究結果1)では、主要評価項目である発熱、咳、痰、倦怠感、息切れなどの症状のうち、少なくともひとつの症状が改善するまでの期間において、従来の治療のみの人と漢方薬を併用した人とでは有意差は認められなかったという結論でしたが、この点はどう評価していますか?

髙山 確かに結果はその通りです。ただ、今回の主要評価項目は複合的なもので感染者によって発熱症状のみの人、発熱、咳、痰のいずれもある人などのばらつきがありました。そのため各症状別に統計学的にばらつきなどの調整をしたうえで、症状を緩和する解熱薬や咳止め薬などの従来の治療のみ行った人とそれに漢方薬2種類を併用した人を比較した結果では、解熱までの期間は漢方薬2種類を服用した人では約1日短縮しています。これは統計学的な有意差がある結果、つまり有効だったといえるものでした。

―重症化への進展についてはどうでしたか?

髙山 従来の治療だけの人と漢方薬を併用した人での比較では、呼吸不全へ進行した人の割合は漢方薬を併用した人の方が低かったのですが、統計学的に見れば有意差はないという結果となりました。一方、入院率で比較すると、漢方薬を併用した人の方が低く、この部分は統計学的には有意差がある、つまり入院率を減らせたという結果でした。ただし、入院=呼吸不全ではなく、入院そのものが担当医個人の様々な判断、いわばバイアスも入りやすいため、論文にはデータを記載していません。

今回の臨床研究の対象としたのは、厚生労働省が作成した「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」で定めた重症度基準で軽症あるいは中等症Iに分類された人ですが、参加者は重症化しやすい65歳以上の高齢者は予想以上に少ないのが実状でした。

この中で重症化リスクのある人を医学的判断で抽出するならば、中等症Iでワクチン未接種者と考えることができます。そこで治療開始時に中等症Iでワクチン未接種の人だけで、漢方薬の併用有無で呼吸不全に進行した人の割合も比較してみました。

その結果では漢方薬を併用した人では、従来の治療のみの人に比べ、呼吸不全への進行率は半分以下でした。ただし、これも統計学的な有意差は認められませんでした。もっともよく知られているように統計学的有意差は症例数が多いほど出やすく、症例数が少ないほどで出にくいという法則があります。この比較では合計60人くらいの中での比較でしたし、算出された統計学的有意差を見る限りでは、症例数の少なさが及ぼした影響はあると考えています。

漢方薬服用でも忘れてはならないワクチン接種

―ワクチン未接種でより重症度の高い人で重症化への進行が抑制された可能性があるとのことですが、漢方薬の服用とワクチン接種の有無に関してのお考えは?

髙山 ご存じのようにワクチンを接種済みでも感染・発症してしまう「ブレイクスルー感染」は一定の頻度で発生します。今回の臨床研究の参加者に占めるワクチン接種者は約10%ですが、研究参加者以外にも新型コロナの感染者を診療していると、ワクチン接種済みの人は接種していない人に比べ、明らかに症状改善までの期間が短縮していることを実感します。診療経験が増えれば増えるほど、感染者の経過表を見ながら解熱までの期間などをワクチン接種の有無で予測できるようになるほどです。

今回の結果は、「たまたま何らかの事情でどうしてもワクチン接種できない人の重症化リスクを軽減できるかもしれない」ということであって、「今回の2種類の漢方薬があればワクチン接種はしなくてもよい」と考えるのは間違っています。改めて申し上げますが、ワクチン接種は極めて重要で、ブレイクスルー感染を起こした場合の症状軽減にも有効です。

研究結果を左右した複数の要因とは?

―今回の新型コロナでは短期間で変異株の入れ替わりが起きています。

髙山 私たちの研究の参加者は、武漢株流行期からオミクロン株流行期まで含まれ、最も多いのがデルタ株流行期です。

この中で見ると、デルタ株では重症化による肺炎、オミクロン株では喉の痛みなど上気道の症状が顕著など、特徴的な症状や重症化率が変化しています。また、デルタ株登場期にはワクチン接種も積極的に行われています。このように新型コロナを取り巻く環境要因が大きく変化しているにもかかわらず、こちらの葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用という介入方法は一貫して不変でした。その意味で変異株の入れ替わりが結果に少なくない影響を与えただろうとは想像しています。

―その他に今回の研究で感じた限界点はありましたか?

髙山 もうひとつの問題は、投与開始まで時間を要していることです。当時は新型コロナが疑われる症状が出た人が保健所に連絡を取り、翌日あるいは翌々日のPCR検査を案内され、検査結果が判明するのは早くて検査の翌日。そこで陽性と判明後、ホテル療養などに移行してようやく私たちが感染者にコンタクトできるという状況でした。この結果、発症から投与開始まで6日間ほど経過していることがほとんどでした。

葛根湯も小柴胡湯加桔梗石膏も急性症状の抑制を念頭に置いた処方で、遅くとも発症から4~5日ぐらい服用することが望ましいのですが、実際にはそうはなりませんでした。この点もこの研究の限界です。

クリアした副作用の懸念

―副作用などの安全性についてはどのような状況でしたか?

髙山 漢方薬を併用した人では胃上部の不快感や痛風、手の皮膚炎などが報告されましたが、併用しなかった人との比較で統計学的有意差はありませんでした。つまり漢方薬を併用したことで副作用が出やすくなるということはありませんでした。

また、臨床研究開始前に、この併用では、新型コロナによる肺炎が悪化する可能性があるのではないかと心配する医療者もいました。というのも、小柴胡湯は慢性肝炎患者での肝機能改善の適応として認められているのですが、1990年代にウイルス性のC型肝炎患者の治療で使われた結果、肺炎の1種である間質性肺炎による副作用が報告され、中には死亡例もあったからです。

しかし、この副作用は当時C型肝炎の治療で主流だったインターフェロンという薬剤との併用の場合に限定して起きたものです。また、このケース以外でその恐れがあるかは事前に論文を検索しましたが、小柴胡湯をかなり長期間にわたって服用しているケースの中でごくわずかの報告がある程度でした。

そもそも今回の臨床研究では14日間の服用限定ですし、実際に漢方薬を併用した人たちで間質性肺炎は報告されていません。また、先ほどお話ししたように重症化抑制の可能性が示されたことを考えれば、この懸念はほぼ払しょくされたと考えています。

実際の治療で漢方薬をどう使うべきか

―様々な限界があったとは思いますが、それも踏まえて結果をどのように総括していますか?

髙山 手前味噌と言われるかもしれませんが、端的に言えば、今回の結果からこの2種類の漢方薬の服用はある程度効果があったと考えています。実際、様々なばらつきを調整すれば熱を下げる効果は認められました。

まだ、生薬成分がウイルスに及ぼした詳細な影響までは検討はできていませんが、複数の変異株の感染者を総合して今回の結果が得られたということは、最初にお話ししたような一部で報告されているウイルスの根源的な働きに作用を及ぼしていると考えています。

ただし、劇的な効果ではないのは明らかです。そもそも漢方薬の場合は含まれている生薬成分の一つ一つの効果は強力ではないものの、様々なところに作用して全体的に症状を改善するというものがほとんどですので、この結果は特段不思議には感じません。

―すでにウィズ・コロナ時代に突入しています。この結果は実際の診療にどのように生かせるのでしょうか?

髙山 現在のオミクロン株では当初と比べれば死亡リスクはかなり減少し、感染者の多くが重症化に至らずに治ります。

ただ、誤解のないように申し上げておきますが、オミクロン株でも風邪とは比較にならないほど症状がつらいことがほとんどです。一部にある「オミクロン株による新型コロナはただの風邪」という言い方はあまりにも乱暴です。

この前提で症状の軽減に一定の効果があり、入院に至ることを防ぐことができる可能性がある薬があれば、存在意義は少なからずあります。その候補のひとつが今回の葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用と考えています。

特にオミクロン株では喉の痛みや鼻づまり、鼻水といった上気道の症状が目立ちますが、今回使用した小柴胡湯加桔梗石膏は、もともとが扁桃炎、扁桃周囲炎を適応とする治療薬なので、オミクロン株に特徴的な症状を直接的に軽減する効果が期待できます。

一方でその後の使用経験から、発熱と寒気のみの症状ならば、小柴胡湯を抜いた葛根湯と桔梗石膏の併用でもかなり症状が改善する人がいます。これに激しい咳などの症状が加われば、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏という使い分けも可能だと思っています。

―新型コロナに対する既存の治療薬とのすみ分けはいかがですか?

髙山 まず今後も新たな変異株の登場は起こり得ますが、いわゆる西洋薬の新型コロナ治療薬では変異株による効果の変化が指摘されています。特に中和抗体薬ではこの傾向が目立ち、オミクロン株が主流となってからはかなり効果が落ちています。そうした時に症状の軽減を期待してまずこうした漢方薬を試してみるという位置づけが考えられます。

また、比較的変異の影響を受けにくい抗ウイルス薬は現状で複数ありますが、重症化リスクを有する感染者を対象とするものがほとんどです。また、薬の飲み合わせによる副作用(相互作用)の問題から、併用が不可能な薬の数が多く、事前に厳格なチェックが必要です。この投与に至るプロセスが煩雑なうえ、結果として併用薬を一時中止あるいは他の薬へ変更できないケースもあり、その場合は治療に苦労します。

しかもこれらの抗ウイルス薬は当面は無償扱いですが、いずれこの措置は終了し、自己負担となる見込みです。これらの治療薬の現時点の薬価から計算すると、その場合の患者の自己負担額は3割負担で3万円程度とかなり高額です。

このように考えると、ワクチンを2回以上接種して基礎的な免疫は備わっているものの、ブレイクスルー感染を起こし、比較的若年で重症化リスクがない人にとっては、今回の葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の服用で症状を軽減させ、社会生活への復帰を早める選択肢も検討できるのではないでしょうか。薬価に関しても5日間の服用ならば自己負担額は3割負担でも600円弱で、費用対効果も高いと考えています。

漢方薬が新型コロナウイルス感染症に対しての症状緩和や重症化の抑制、さらに経済的なメリットも期待できるということで、今後の研究にも期待しています。

参考
  1. Takayama S, et al. Front Pharmacol. 2022; 13: 1008946

髙山真(たかやま しん)先生
東北大学大学院医学系研究科 漢方・統合医療学共同研究講座 特命教授/東北大学病院 総合地域医療教育支援部 副部長、准教授/同病院 漢方内科 副診療科長
1997年宮崎医科大学 医学部医科学科卒業。山形市立病院済生館で研修医、山形県立新庄病院内科、石巻赤十字病院 循環器科を経て、2010年東北大学大学院医学系研究科博士課程修了、ミュンヘン大学麻酔科ペインクリニックへ留学。2012年より東北大学大学院医学系研究科 総合地域医療研修センター 准教授。2015年東北大学病院 総合地域医療教育支援部・漢方内科 准教授・副診療科長。2019年より東北大学大学院医学系研究科 漢方・統合医療学共同研究講座 特命教授。専門は、総合診療、循環器内科、漢方医学、地域医療。

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