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私たちは漢方とどう向き合うべきか これからも漢方薬を保険診療で使い続けていくためにできることとは

公開日:2023.11.29
カテゴリー:漢方ニュース

厚生労働省は統合医療を「近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせて更にQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させる医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」と定義しています。また、漢方は伝統医学の範疇に含まれるとされます。

統合医療には、効果があると報告されているものからそうでないものまで多種多様ですが、なぜ多くの人が漢方のみならず相補(補完)・代替療法に心惹かれるのでしょうか。そして、これらとどのように向き合うべきなのでしょうか。漢方・統合医療の社会薬学を専門とする日本薬科大学の副学長/教授の新井一郎先生にお伺いしました。

西洋医学への不満も一因? 漢方に惹かれる背景


日本薬科大学 副学長/教授 新井一郎先生

「統合医療」における、相補(補完)・代替療法・伝統療法とは、その国で行われている通常医療以外の療法のことを指します。わが国では、西洋医学が通常医療ですので、相補(補完)・代替療法・伝統療法は「西洋医学に基づく医療ではないもの」ということになります。国は、漢方を含めて鍼灸、鍼、ヨガ、アロマ、その他を含んだ広い意味で使っています。一方、「東西医学の融合」をテーマに掲げている日本薬科大学では、基本的に「統合医療≒西洋医学主体の医療と日本の伝統医学である漢方医学が持つ未病と治療の概念の融合」という狭い意味で使っています。

私は、患者さんの、「患者ではなく病気そのものや診断を重視しがちな現代医療(近代西洋医学)に満足できていない状態」が、患者中心・症状への治療重視という点で漢方医学やその他の治療法に向かわせるケースもあるのではないかと思っています。その一方で、西洋医学での治療と、保険で認められている範疇での東洋医学での治療を同じ医師が行うことができるのは日本だけで、統合医療として理想的な形が実現できる土壌があるともいえると思います。

ただ、漢方薬ならば国の承認を得ていたり、医師や薬剤師が処方したりしますので安全性がある程度担保されますが、それ以外のもの、怪しいもの、詐欺めいた「民間療法」に手を出し、西洋医学での治療をやめてしまうところまで行ってしまうケースもあります。

本来の治療の妨げにならない範囲であれば、本人の意思を尊重すべき

例えば、末期がんで、医療者から十分な情報を提供され、理解し、西洋医学でできることはすべてやったが、それでもまだ何かあるのではないかともがく。もしくは本人はもう運命を受け入れているけれど、家族が耐えられなくてもがくことがあります。その気持ちはよく分かります。

ご本人がやりたいと思っていることを、むげに否定することはできません。特に精神科的な症状に対してはプラセボ効果が高いので、その人にとっては価値がある可能性がありますから。

しかしながら、自分が極限に達して、正常な判断ができないようなときにこそ、怪しいもの、詐欺めいたものに魅入られやすいのです。そういう弱った人を狙ったマーケットができていますのでご注意ください。

自分の人生は自分で決める権利があります。末期がんに限らず、現代医療による本来の治療の妨げにならない、費用や時間に問題が生じない範囲であれば、本人の価値観を尊重するほうがよいと私は考えています。

これからも漢方薬を保険診療で使い続けていくために、私たちができること

日本は低い自己負担で高い水準の治療を受けることができる健康保険制度をもち、かつ世界でも珍しい「伝統薬である(医療用)漢方薬に健康保険が使える」国です。ほかにも鍼灸・マッサージの一部には健康保険が使えますが、統合医療の多くは保険適用外です。統合医療を選ぶのは個人の自由ですが、国の税金を投入するかどうかはまた別の話です。日本に限らず、国は基本的に「国民の税金は、効くもの・エビデンスがあるものに使うべきだ」というスタンスをとっています。

漢方薬の薬価が下がる一方で、原材料費が値上がりしているため、多くの方に使っていただかないとメーカーは生産体制を維持できません。漢方薬の一部には科学的なエビデンスがありますが、そうでないものも多くあります。これからもエビデンスを出していき、医師が納得して処方できるようにすることでマーケットを拡大していかないと、健康保険制度の中で漢方薬が生き延びていけなくなります。

医師だけでなく、一般市民の中には「きちんと効くという証拠のある薬を使いたい」と考える方々がいらっしゃるはずです。しかし、エビデンスを読み解くための医学的な知識がないと、結果的には宣伝やイメージで選んだり、知り合いからの「これを使ったらとても効いたよ」という口コミに頼ったりせざるを得ない状況になります。

ですから『QLife漢方』のように、漢方薬のエビデンス情報をやさしくかみ砕いて一般の方に伝える取り組みは大切なことだと思います。

漢方薬や統合医療を一緒くたにして良い・悪いと議論をするのはナンセンスです。納得のいく選択をしていただくためにも、世の中の医療情報を見分ける目(ヘルスリテラシー)を養ってほしいと思います。そのことが結局、漢方薬をこれからも保険診療で使い続けていくことにつながるのですから。

新井一郎(あらい いちろう)先生
日本薬科大学 副学長/教授 
1982年 富山医科薬科大学(現・富山大学)大学院薬学研究科博士課程前期修了、1998年 博士(薬学)。
1982~2014年株式会社ツムラ。2014年より日本薬科大学教授。2004年より日本東洋医学会 EBM委員会委員(2015年より、診療ガイドライン・タスクフォース Chair)。2018年、2021年、WHO西太平洋地区 伝統医学 テンポラリー・アドバイザー。2023年7月より現職。
著書に「漢方薬のストロング・エビデンス(じほう)」など。

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