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後編:不眠に悩む人、睡眠薬を減らしたい人に、漢方薬がおすすめの理由

公開日:2023.02.13
カテゴリー:病気と漢方

前編では、コロナ禍で不眠を訴える人が増えている現状、不眠症の種類や原因、また治療における睡眠薬の使い方の問題点などについて伺いました。特に、現在の処方の主流であるベンゾジアゼピン系睡眠薬については、その依存性の高さや健康被害の多さなどから処方制限も行われており、副作用の少ない漢方薬への期待は高まっています。年々増えているという「もっと自然に眠りたい」という要望に、漢方治療はどのように応えるのでしょうか。その具体的な方法について、引き続き青山杵渕クリニック所長・杵渕彰先生にお話を伺いました。

不眠治療に漢方薬を使うメリット

不眠症の治療は、睡眠薬などの薬物療法が主となっているのが現状です。しかし、前編で見てきたように、睡眠薬は倦怠感やふらつきなどの副作用が生じるリスクがあるほか、長期的に見れば耐性(だんだん効かなくなる)や依存性(やめられなくなる)が問題となることもあります。そのため最近は「なるべくお薬を使わずに治したい」「いま飲んでいる薬をやめたい」と希望する患者さんが増えてきているといいます。そして、そんなときに役立つのが漢方薬であると杵渕先生は話します。

「漢方は不眠の原因となるストレスや不調を取り除き、自然な眠りにつく手助けをしてくれます。イライラや興奮、不安や緊張、心身の疲れなどを和らげることによって、眠りに入りやすくなる、という感じです。睡眠薬のように脳を強制的に鎮静させたり筋肉を弛緩したりする作用は持っていないので、即効性はありません。その代わり、ふらつきや転倒、せん妄や日中の眠気などの副作用を心配することなく服用できるのがメリットです」(杵渕先生)

また、依存性の高い睡眠薬においては、自己判断で薬を急に中断することなどによる「離脱症状」が出てしまうことも問題となっていますが、漢方薬にはそのような心配もありません。むしろ、睡眠薬を減らしたいときには、漢方薬を併用するとうまくいく場合もあるそうです。

「特にベンゾジアゼピン系睡眠薬は、長期間飲んでいる場合、急にやめてしまうことで不眠、動悸、イライラや不安感などの離脱症状が起きる可能性があります。ゆっくり時間をかけて少しずつ減らしていく必要があるのですが、この時に漢方薬を併用することで、離脱症状が和らぐこともあります」(杵渕先生)

不眠に対する漢方医学的分類と処方

では、不眠の治療に用いられる漢方薬は具体的にどのようなものがあるのでしょうか。以下、漢方医学的分類と、実際の処方をお伺いしました。

興奮していて眠れないもの(心熱)

「不眠の原因がイライラや興奮であったりする時の症状は、入眠障害(寝つきが悪い)が多くなります」

不安で眠れないもの(胆虚)

「不眠の原因が不安の場合は、熟眠障害(ぐっすり眠れない)が多くなります。神経質で体格が良い人には柴胡加竜骨牡蛎湯、体力のない、華奢な虚証の人には補剤を使うことが多いです」

心熱と胆虚の混在

「イライラ・興奮と、不安が両方あって不眠の原因となっている場合もあります」

疲れすぎ、体力低下で眠れないもの(虚労)

「心身ともに過労の状態。入眠・熟眠ともに障害がある場合が多いです」

睡眠への正しい理解、生活習慣の改善も大切

しかし、いくら漢方薬を飲んでいても寝る前にカフェインを大量に摂取したり、長く昼寝をしたりするなど、不眠を悪化させるような行動をしていては症状は改善されていきません。不眠の症状を緩和させたいときは、「睡眠についての正しい知識を得て、生活改善も同時に行うことが大切」と杵渕先生は指摘します。

以下、杵渕先生が患者さんへ睡眠に関する指導を行う際に参考にしているという、睡眠障害対処の12の指針1)をご紹介します。

1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分

睡眠の長い人、短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない
歳をとると必要な睡眠時間は短くなる

2. 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法

就床前4時間のカフェイン摂取、就床前1時間の喫煙は避ける
軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニング

3. 眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない

眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝つきを悪くする

4. 同じ時刻に毎日起床

早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる
日曜に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなる

5. 光の利用でよい睡眠

目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン
夜は明るすぎない照明を

6. 規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣

朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く
運動習慣は熟睡を促進

7. 昼寝をするなら、15時前の20~30分

長い昼寝はかえってぼんやりのもと
夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響

8. 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに

寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減る

9. 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意

背景に睡眠の病気、専門の治療が必要

10. 十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医に

長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談
車の運転に注意

11. 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと

睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる

12. 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全

一定時刻に服用し就床
アルコールとの併用をしない

睡眠状態を自分でモニタリングしてみるのもおすすめ

また、眠りに関して悩みを持つ人は、自分の睡眠状態を記録してみるのもおすすめだと杵渕先生は言います。最近は、眠るときにスマートウォッチを装着するタイプだけでなく、枕の横にスマホを置くだけで眠りを記録できるアプリもあり、手軽さが増しています。睡眠時間と深さが確認できるもの、呼吸音やいびきを録音するもの、眠りの浅いタイミングでアラームを鳴らすものなど、機能の種類も豊富です。

「アプリの多くは、体の動きをスマホのセンサーが感知して、データとして記録するもの。脳波や呼吸などを細かく計測する専門機関のデータほど正確ではないですが、ある程度は信頼できると思います。私も毎日アプリを使って睡眠データをとっていますよ。グラフ化されると確認しやすいですし、睡眠を改善したい患者さんにも使ってもらっています」(杵渕先生)

理想的なのは「“少し浅い眠りから入って、深い眠りになり、また浅い眠りになる”という1~1.5時間のサイクルを一晩に何回か繰り返す」という波形の睡眠だといいます。十分寝ているはずなのに朝起きるのがつらい、などという人は、一度自分の睡眠状態を客観的に見てみるのもよいかもしれません。

受診の目安は不眠が2週間以上続く場合

最近は「睡眠負債」(毎日の睡眠不足が少しずつ蓄積すること)という言葉が盛んに使われていることもあり、どんな世代の人も睡眠に関するトラブルに対して過敏に反応する傾向があると杵渕先生は感じるそうです。

「必要な睡眠時間は人それぞれ。体力がある人ならば、2~3日眠れなくても、そんなに心配することはありません。『睡眠負債が心配で…』という患者さんもいるのですが、睡眠不足はそこまで蓄積しないので心配しなくて大丈夫。むしろ、眠れないことを気にしすぎて、睡眠に対して恐怖を感じてしまうことがよくありません。夜になると緊張したり不安になったりして、さらに不眠の悪化に繋がってしまうからです」(杵渕先生)

杵渕先生が受診の目安とするのは、不眠で日常生活に支障が出る状態が2週間以上続いたとき。眠れないことにプラスして、日中の眠気がひどくなったり、集中力が低下したり、めまいや立ちくらみが起きたりすることがあれば、迷わず受診してほしいと訴えます。

「不眠症は精神科や心療内科で扱いますが、精神科へ行くのは気が引けるという人はまずかかりつけ医に相談してみるといいでしょう。私のような漢方医でもよいです。最近は、睡眠専門外来というのもできていて、睡眠に関する医療技術はすごく進化しています。睡眠薬だけではない、さまざまな治療方法があるので、ぜひ相談してみてください」(杵渕先生)

参考
  • 内山真編:睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版, じほう, 東京, 2019

杵渕 彰(きねぶち あきら)先生
漢方医学研究所 青山杵渕クリニック 所長

岩手医科大学卒。東京都立松沢病院(都立広尾病院兼務)、東村山福祉園、柏木診療所、財団法人日本漢方医学研究所所属 日中友好会館クリニック所長などを経て、2001年4月に青山杵渕クリニック開設。日本精神神経学会専門医。日本東洋医学会専門医。日本医師会認定産業医。

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