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いまづ先生の漢方講座 <ビジネスパーソン編> Vol.5 生活スタイルが変わったことで増えてきた不調~運動量低下編~

公開日:2023.02.28
カテゴリー:病気と漢方

新型コロナウイルス感染症の流行で、私たちの生活スタイルは大きく変わりました。コロナ禍での生活も4年目に突入し、生活様式も心構えも完全自粛からウィズコロナへと変化しつつあります。Vol.4では、このような環境の変化に対応しきれず、ストレスから体調を崩す人が増えているということをご紹介しました。Vol.5となる今回は、「生活スタイルの変化による不調」を引き起こす、もうひとつの原因を解説。漢方医学での対処法も含めて、引き続き、芝大門いまづクリニックの今津嘉宏先生にお話を伺います。

コロナ禍が長引く中で一番心配なのは「運動量の低下」

コロナ禍の3年間で私たちの生活には実にさまざまな変化がありました。人との間隔をとる、マスクの着用や手洗いや手指の消毒の徹底などの一人ひとりの基本的感染対策に加え、買い物、娯楽・スポーツやイベント参加、公共交通機関の利用や食事のスタイル、そしてテレワークやローテーション勤務などの新しい働き方の導入…。しかしそれらによってもたらされた一番の変化は「運動量が減ったこと」だと今津先生は話します。

「通勤で駅まで歩く、階段を上り下りする、買い物の荷物を持つ、趣味の集まりに行くなど、日常生活の中のちょっとした活動が減ったために、皆さんが思っている以上に運動量が低下しています。この『体を動かさない生活』による影響は、相当深刻です」(今津先生)
さらに、「運動不足だけど、体重は増えないように気をつけているから大丈夫」という方も注意が必要であると、今津先生は警鐘を鳴らします。

「患者さんに『体重の変化はどう?』と聞くと、『変わっていません』と答える人が多いです。こんなに生活が変わって動かなくなっているのに、体重が変わっていないということは、“筋肉量が落ちて脂肪量が増えている”だと考えられます。もちろん、太り過すぎはよくないのですが、体重の増減よりも運動不足の健康リスクを気にしてほしいのです」(今津先生)

筋肉量が減ることにより、さまざまな不調が出てくる

日々の活動量が減ることで心配なのは、体重の増加よりも「筋肉が減り、筋力が低下してしまうこと」と指摘する今津先生。健康な高齢者が2週間、あまり動かない生活を送ると、脚の筋肉量が3.9%減少したという報告1)もあり、その影響は深刻です。働き盛りの世代でも、リモートワークが続いている人などは油断できません。

「背筋を伸ばす筋肉が衰えることで背中が丸くなり、お腹に脂肪を抱えて前かがみになっている…最近はそんな姿勢の患者さんが多くお見えになります。そして、肩こり、腰痛、膝痛、むくみがひどい、疲れやすい、息が切れるといった症状があるとおっしゃいます。皆さん病気かと心配されますが、診察して他に疾患がない場合、これらの不調は『運動不足』『筋力低下』が原因にあることが多いのです」(今津先生)

体の冷えにより、「しもやけ」の患者が増加!

また、運動量の低下により現れる不調として、「冷え」も多いといいます。運動不足は血液の循環が悪くなるうえ、筋肉量が減ることにより体内でつくられる熱も少なくなるからです。今津先生のクリニックでも、2002年ごろから「冷え」を訴える患者さんが多くなったと言います。

「冷えの訴えの中でも、2022年の秋冬において一番驚いたのが「しもやけ」(=凍瘡:とうそう)の患者さんの多さ。男性も女性も、毎日10~20人は来ていましたね。手足だけではなく、耳が痛い、鼻が痛いと訴える方もいました。それくらい体中が冷えてしまったのでしょう。筋肉量が減ることで、気候の変化にもついていけなくなっていると感じています」(今津先生)

冷えは万病のもと!「養生」を生活に取り入れよう

漢方医学では、体の冷えを『冷え症』というひとつの病気としてとらえ、重要視しています。冷えには漢方薬ももちろん役立ちますが、運動不足や筋力低下で起こる不調に今津先生がおすすめするのは「養生」。養生とは、日々の生活習慣を見つめ直し、不摂生を改め、健康を目指して行う生活管理の方法です。今回はその中から、冷えをとり、体を温めるための養生法を2つお伺いしました。

「深呼吸」を3回1セットで、毎日気づいた時に行う

深呼吸のポイントは以下の3つ。

  • ゆっくり吸って、ゆっくり吐く。
  • 1回目より2回目、2回目より3回目が長くなるように。
  • 吸うときは必ず鼻から。

冷たく乾いた空気をそのまま口から吸うと、気管や肺の粘膜に悪影響を与えます。しかし鼻から吸うと、副鼻腔を通ることによって、空気は温度37℃前後、湿度80~100%に加温・加湿されるのです。もちろん、細菌・ウイルス・花粉などの不純物も、鼻の粘膜でとらえられます。吸うときは鼻から、を意識しましょう。吐くときも鼻からが理想ですが、難しければ口から吐いてもOKです。

「姿勢が悪かったり、ストレスが多かったりすると呼吸が浅くなってしまいがち。特に女性は、男性に比べて胸式呼吸をしている人が多いので、深呼吸で『腹式呼吸』をしましょう。腹式呼吸だと横隔膜という体の中の大きな筋肉を使うので、深呼吸でも汗が出るくらいの運動になります。酸素も行き渡り、体が温まるでしょう」(今津先生)

起床時に「白湯」を飲む

「24時間のうちでもっとも体温が低下しているのは起床時なので、朝起きたら白湯を飲むのがおすすめ。なぜかというと、お腹の中から温まるからです。人間の場合、体の中の血液はおよそ1分で1周します。最初に胃の中に温かいものを入れてあげると、胃の周りの血液が温まり、その血液が1分で体中をかけめぐって、全身の体温を上げてくれるでしょう。外から温めても、体の中まで温まるのは時間がかかるので、中からのほうが効率的というわけです」(今津先生)

いきなり激しい運動は禁物。少しずつ体を動かそう

ここまで読んで「筋肉量を増やすために運動するぞ!」と意気込む方もいるかもしれませんが、今津先生は「いきなり運動を始めてはダメですよ」と患者さんに伝えているそうです。理由は、「筋力が落ちているときに新しい運動を始めると怪我をするから」、「激しい・疲れるような運動は長続きしないから」だと言います。まずは、落ちてしまった筋力を元に戻す気持ちで、以下のような運動に取り組んでみるのがおすすめです。

早歩きをする

スーパーや駅に行くのに、いつもは5分かかっていたとしたら、しばらくの間は「4分」で行けるようにしてみましょう。その次は「3分」で行けるように。タイムを計るとモチベーションが上がります。

片足立ちをする

片足で立ってみましょう。目安はだいたい2分くらいです。信号を待っているときや料理中、皿洗い中、歯みがき中など、「ながら」で行うのがおすすめです。
「クリニックに来ている80代の方におすすめしたところ、最初はできなかったものの、2週間後にはできるように。皆さんも2週間がんばればできます!」

肩まわりを縮めて伸ばす

縮める

  1. 両腕をまっすぐ前に伸ばす。手のひらは上向き(小指が内側)。
  2. 両腕を左右に広げる。肩甲骨を寄せるようにして10~20秒キープ。
  3. ゆっくり戻すと、身体が温かく感じられるはず。

伸ばす

  1. 両腕を上にあげる。手のひらは後ろ向き(小指は内側)。
  2. 上にひっぱりあげる気持ちで伸ばす(パートナーにひっぱってもらってもOK)
  3. ゆっくり10秒ほど数えると、肩が温まり、コリが楽になります。

※呼吸を止めずにやることで、上半身の血流が一気によくなり、指先まで温かさを感じます。
先に縮めるほうをやると、収縮して固くなっている筋肉が伸ばしやすくなるでしょう。

自分にあった方法で、無理なく続けることが大切

まず大切なのは「筋力が落ちていることを自覚すること」であると、今津先生はおっしゃいます。

「活動量の低下で筋肉が減り、脂肪が増えた今の状態での運動は、“重たい荷物を持って登山する”ようなもの。最初から『1万歩あるこう』『ジムで運動するぞ』なんて無理すると続かなくなってしまいます。ポイントはいかに日常生活の中で動くか、です。

でも、はじめは『三日坊主でもいい』という気持ちで、とにかくやってみてください。飽きたらどんどん次の動きをやればいいのです。動かないから筋力が衰え、衰えたから動けない、という負のスパイラルに陥らないよう、一緒に筋力を維持していきましょう」(今津先生)

参考
  1. Breen L, et al. J Clin Endocrinol Metab 2013; 98(6): 2604-2612

今津嘉宏(いまづ よしひろ)先生
芝大門いまづクリニック院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。日本がん治療認定医機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。

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