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「生薬の重量自給率12%」をどう捉えるべきか

[漢方ニュース] 2011/01/28

 日本における漢方薬の原料である生薬は、そのほとんどを中国から輸入している。食料自給率の低さが問題視されるなか、漢方薬の分野ではどのような対策が立てられているのか。日本漢方生薬製剤協会の広報委員長の中島実氏、生薬委員長の浅間宏志氏にお話を伺った。

漢方は独自に発展してきた日本の伝統医学。


日本漢方生薬製剤協会広報委員会委員長
中島 実氏
QLife:
まず、「生薬」とは何を指すのか、教えて頂けますか。
中島:
生薬とは、漢方薬を構成する原料のことを言います。日本では、健康保険適用で148処方、一般用では210処方の漢方製剤が認められています。これを構成する原料生薬は100数十種類になります。また、生薬そのものも185種類が薬価基準収載されています。
QLife:
日本の処方と、中国の処方は同じなのですか?
中島:
まず押さえて頂きたいポイントは、「漢方は日本の伝統医学である」ことです。約1800年前の中国には「傷寒論(しょうかんろん)」などの医学書がありました。これには、例えば葛根湯(かっこんとう)なら「七つの生薬から成り、それぞれの生薬の構成比率を定め、適応の症状は寒気や自然発汗がないこと、首から肩のこりなど」といったことが記されています。この「傷寒論」が奈良時代のころ日本へ入ってきた。そこから、日本人の体質や風土に合わせ独自に発展してきたものなのです。

江戸時代になると、日本にはオランダから西洋医学が入ってきましたね。当時はそれを「蘭方」と呼びました。そこで、日本独自に発展してきた医学を、中国の漢の時代に体系化されたことから「漢方」と呼ぶようになったわけです。一方、中国で独自に発展してきた伝統医学は中医学と呼ばれ、そこで使われる薬は中医薬あるいは中成薬と呼ばれます。つまり、元は一緒なので似ているけれど、それぞれ独自に発展した医学体系なんです。

生薬自給率は12%。基準を満たすものを安定生産することは難しい。


日本漢方生薬製剤協会生薬委員会委員長
浅間 宏志氏
QLife:
漢方薬の原料である生薬は、主にどこで生産されているのでしょう。
浅間:
日本漢方生薬製剤協会の2008年度調査では、日本の医薬品の原料として使用された生薬の数量は、総計で年間約2万トンです。このうち自国で調達できた割合、つまり自給率は12%。大半を外国から輸入しており、なかでも中国は全体の83%と圧倒的に多いですね。
QLife:
生薬を中国以外の国で栽培するのは、難しいのですか?
浅間:
そうですね。寒い地域や暖かい地域、山奥や沿岸部など、生薬の種類によって適した環境条件が異なるんです。気候や土壌によって、医薬品の原料となりうる生薬を栽培できる地域が決まってくるということですね。例えば人参(にんじん)なら吉林省、桂皮(けいひ)なら広西壮族自治区というように。他の地域で同じ名前の植物が採れることもありますが、調べてみると含有成分が少なかったりして、医薬品の原料には適していないことが多々あります。
QLife:
自給率を上げるため、日本で栽培する動きはないのでしょうか。
浅間:
他の地域で生薬を作る場合、含有成分が基準値になるかを調べるために試験栽培をしてみなければなりません。ですが、原料として基準を満たしたものを安定的に生産できるか否かを決定するまでには、少なくとも数年の研究が必要です。可能になったとしても、それだけコストがかかり、製品の価格に跳ね返ってしまう。つまり、数量ベースで十分な生薬を確保することは、日本では非常に難しいと言えます。そのため、もともと生薬が採れる地域で栽培量を増やす効率のよい栽培が行われます。例えば甘草(かんぞう)は、中国の他にはモンゴル、ロシアでも栽培可能です。しかし今まで日本が伝統薬として扱ってきたものは中国の西南地域、砂漠地帯で採れるものなのです。
QLife:
いちがいに「自給率を上げればよい」という問題ではないのですね。
浅間:
自給率を何のために上げるか。それはあくまでも「製剤の安定供給」が目的だと思うのです。これを実現するためには、自給率を上げることもそうですが、原産地である中国との関係をしっかり築き、継続していくことが大前提だと思います。その上で大切なのは、地域によって違う生薬の成分や安全性が、日本薬局方の基準、販売各メーカーの基準をクリアすることです。

生薬の安全性は生産段階からメーカーの管理下に置かれる。

QLife:
中国で栽培された生薬について、日本はどのような品質管理をしていますか?
中島:
まず成分の含有量からお話しますと、日本で販売される漢方薬やエキス製剤に使う生薬の成分の含有量は、日本薬局方が定める基準をクリアしなければなりません。もちろん日本で栽培した生薬についても同様です。その上で、各メーカーがさらに自社基準を定め、均一な製品の安定供給を図っています。例えば同じ葛根湯でも、A社とB社では原料生薬の調達ルートが異なるので独自の基準を持っているということです。
QLife:
安全の面はいかがでしょう。
中島:
安全性、例えば重金属、残留農薬、害虫などについても、基準が設けられ安全性を担保しています。生薬はまずこれをクリアする必要があります。さらにメーカーごとに独自の基準を設け、生薬及び製品の安全性を高めています。つまり、まず国レベルで生薬の品質基準が満たされ、さらにメーカーによって厳しい品質基準・管理のもとに作られているということです。
QLife:
生産段階から、日本のメーカーの管理が行われているのですね。
中島:
その通り。生薬の確保と生産管理は、各メーカー独自の戦略で対応しています。例えば中国の現地の農家と契約したり、土地を借りてメーカー管理のもとに生産したり、卸業者を通じて購入するなどです。これらもまた、それぞれの企業努力で実施されています。
QLife:
品質、安全面についてはよく分かりました。では、十分な量の生薬を確保するためには、どのような対策がありますか?
浅間:
生薬の輸入量は、これまでおおむね安定しています。2008年に農薬入り餃子事件があり、中国からの食品の輸出が一時止まりました。そのときは検査の徹底を理由に、生薬の輸出も一時止まりました。結果的には数ヶ月で輸入を再開することができましたが、その後、日本漢方生薬製剤協会で訪中団を結成し、中国へ申し入れを行いました。日本では自国で医薬品として十分な検査を実施していることを伝え、生薬の安定供給を要請しました。以来同様のことは起こっていませんが、何かあったとしても対応策がすぐに立てられるので、突然漢方薬が供給できなくなることはまず考えにくいですね。
QLife:
最後に、協会から一般の漢方薬ユーザーへ向けて、メッセージをお願いします。
中島:
2001年に文部科学省から医学部教育のガイドラインが発表され、2004年には医学部・医科大学全80大学で漢方医学教育が実施されるようになりました。その後、教育はさらに充実してきていますので、漢方への理解がある医師が増えてきました。西洋医学を学んだ医師が、漢方医学に基づいた診察を行い、漢方薬を処方するケースが増えてきているということですね。漢方治療がとても身近になってきたと言えます。その一方で、未だ「漢方薬には副作用がない」と誤解されている方が多くいらっしゃいます。しかしそれは間違いで、漢方薬にも副作用があります。また同じ病名でも、人によって適合する漢方薬は異なります。ですから、自己判断で服用するのは避けて頂きたいと思います。漢方薬は、お医者さんや薬局の薬剤師さんに必ずご相談のうえ服用して頂きたいですね。我々も引き続き、医療関係者の方々と共同し、漢方医学についての啓発活動を行って参ります。
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