【連載】Vol.4 アロエ(蘆薈) │くらしと生薬

[病気と漢方] 2022/03/25
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日本のくらしに古くから根づいている生薬。たとえば、ショウガやニンジンなど、私たちの身近にあるような植物も、生薬として用いられています。薬学者であり、漢方医学の歴史にも造詣が深い帝京平成大学薬学部の鈴木達彦先生に、生薬と私たちのくらしとの結びつきについて語っていただきます。今回のテーマはアロエ(蘆薈:ろかい)です。

医者いらずと呼ばれる民間薬

アロエは「医者いらず」とも呼ばれる代表的な民間薬のひとつであり、身近な有用植物です。比較的温暖な地域では、今でも庭先で栽培されているのを見かけます。日本の気候でも育ちやすいのは寒さに強いキダチアロエという種類が中心で、外来種ではありますが日本に導入された歴史は古く、沿岸部などでは野生化しているものもあります。切り取った茎を挿し木のようにしておくと殖やすことができ、霜に当てるのを避ければ比較的栽培は容易です。
アロエの仲間は多肉植物で、葉縁に棘を持つ葉は肉厚となっており、葉の内部側はゼリー質となっています。ゼリー質には水分が多く保たれていて、葉をカットすると粘液がしたたってきます。民間療法では、火傷をした場所にゼリー質の部分を当てたり、したたる液汁を水で薄めたりして胃薬として用いています。蒸留酒につけ込んで薬用酒として飲んだり、アロエ酒にグリセリンなどを加え化粧水として使ったりすることもあります。近年は、ゼリー質を食用としたり、ジュースとして飲んだりもします。ただし、食用とするには葉に含まれる粘液はとても苦いので、大部分を取り除かないとならないでしょう。後に述べるように生薬として用いるのは粘液であり、この部分に有効成分があるとされています。

下剤以外の用途にも利用されてきた

今日の日本薬局方では、キダチアロエや食用とされることが多いアロエベラとは異なる、ケープアロエなどが薬用種とされており、葉から出る汁を乾燥させて得られる黒い樹脂状のかたまりを蘆薈(芦会・ろかい)と称して生薬とします。粘液を固めた蘆薈は口に含むと強烈な苦みと、粘りを感じます。
蘆薈は「ロエ」、または「ルエ」とも読みますので、中国に導入されたアロエは蘆薈と音訳されたとされています。アロエはアフリカ南部などの比較的乾燥した地域が原産地と考えられており、生薬としての利用はヨーロッパ伝統医学がとても長い歴史を持ちます。含有成分にアントラキノン誘導体のアロエエモジンやバルバロインなどがあり、これらは大腸を刺激して排便を促す、顕著な瀉下活性を持つので今日ではもっぱら下剤と考えられていますが、伝統医学的にはそれよりもかなり広い用途がありました。古代ギリシャのディオスコリデスが記した『ギリシャ本草(De Materia Medica、『薬物誌』とも)』では瀉下作用のほか、催眠作用や吐血や黄疸に対する作用、外用薬として外傷や潰瘍、痔出血や打撲などに利用するとしています。以降も蘆薈は広く利用されてきており、内服薬としては咳や喘息、婦人の月経薬、あるいは鉄剤と合わせて貧血にも用いられ、外用薬としては火傷や切り傷、腫物などの皮膚疾患や、神経痛にも使われてきました。

陰陽のリズムを取り戻す

アロエの効能を植物の特徴から考えてみましょう。アロエの葉のゼリー質には水分や粘液がありますが、これは生育地が乾燥しているために水分を保持しているからだと考えられます。さらに昼夜の寒暖差が大きい、非常に厳しい環境です。植物は光と水、二酸化炭素を使ってエネルギー源を作る光合成をしますが、こうした環境に適応するために特殊な経路を持つようになりました。CAM型経路といって、昼間の高温乾燥した環境で気孔を開いて光合成をしてしまっては水分が蒸散してしまうので、日中は気孔をあまり開かずに、夜間の涼しくなったときに気孔を開いて二酸化炭素を取り込んで濃縮して貯蔵しておくのです。ふつうの植物のように、光に当たっている間に光合成を行うのではなく、昼夜の環境の違いに応じて光合成の過程を2つに分けることで、水分の損失を最小限に抑えています。

東洋思想は、あらゆる事象を陰と陽の2つに分けて考える陰陽論に根ざしています。太陽を陽とするならば月が陰、火を陽とするならば水が陰になるでしょう。陰陽は相対的でありながら、各々が行き交い、バランスを取り合っています。からだのなかでも同じで、外界の環境における陰陽の変化に同調させて、体内の陰陽のバランスを整えることが必要になります。われわれが外界の陰陽の変化を身をもって感じるのは、昼夜の交代でしょう。ところが、現代ではしばしば、昼夜の陰陽のリズムの変化に逆らって生活してしまうことがありです。就寝する時間になっても明るい場所で過ごしたり、スマホやテレビなどの画面を間近で注視したりして、からだを休めることをなおざりにします。このようなことからからだの陰陽のバランスが崩れることもあり得ることです。

アロエは、昼夜の寒暖差が大きい厳しい環境で生育してきた植物で、外界の陰陽の変化に合わせて生理現象を明確に分けています。このような植物を生薬として利用すると、からだに陰陽の変化に同調する必要性を感じさせることができます。蘆薈の利用法を前述しましたが、咳止めに用いるにしても、夜間や早朝など、決まった時間に咳や喘息が起こりやすい場合があるでしょう。月経の異常も昼夜よりももう少し長期になりますが、からだのリズムの狂いが原因かもしれません。皮膚は寒暖などの外界の陰陽を敏感に感じる役割を持ちますが、この働きが失われるために、なかなか治癒に至らない皮膚疾患もあると思います。アロエは陰陽のリズムが失調してしまったときに、再び動き出すきっかけを与えてくれると理解すると上手に使うことができます。いろいろな生薬の効能を調べていると、それこそ鎮咳薬や月経薬として紹介されているものが数多く見つかることでしょう。そのなかのどれが適しているのだろうか、と考えるとき、植物や生薬の性質を捉えることが一助となることもあると思います。

参考

  • 鈴木達彦: 生薬とからだをつなぐ 自然との調和を目指した生薬の使い方, 医道の日本社, 神奈川, 2018
  • 大塚恭男: 東西生薬考, 創元社, 東京, 1993

鈴木 達彦(すずき・たつひこ)先生
帝京平成大学薬学部 准教授

1975年、千葉県生まれ。東京理科大学薬学部薬学科、東洋鍼灸専門学校卒業。博士(薬学)、薬剤師、鍼灸師。現在は帝京平成大学薬学部准教授、千葉大学大学院医学研究院和漢診療学客員准教授、北里大学東洋医学総合研究所客員研究員を兼任。第17回東亜医学協会学術奨励賞、第20回富士川游学術奨励賞、2019年度日本東洋医学会奨励賞を受賞。
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