Vol.3 “身体に優しい”漢方・生薬製剤の“不都合な真実” │漢方薬の歴史と未来

[漢方ニュース] 2022/01/31
執筆:糸数 七重先生(日本薬科大学漢方薬学分野講師)

 「天然由来の物だから」「昔から使われているから」、漢方は身体に優しい――そんなイメージをいまだにお持ちの方は、さすがにもう多くはないと思います。トリカブトなど、天然由来のものでも猛毒があるものもあります。トリカブトの根を加工した附子(ぶし)という生薬は、冷えによって誘発される痛みや不調によく用いられます。そして、一般的な漢方処方に配合する他の生薬の1日量が数gオーダーであるのに対し、附子は0.1gあるいはもっと少ない量から使用を開始します。附子中毒の危険があるからです。
 医薬品として用いられる「生薬」の類に限らず、例えばアロマテラピーに用いるエッセンシャルオイルなどは雑貨扱いですが、皮膚や粘膜に対して強い刺激性を持つものもあり、用いるときには揮発させて香りを利用するか、基材に混合することで原液の皮膚や粘膜への付着を防ぐことが強く推奨されています。心身に何らかの影響を及ぼすことを期待して用いる場合は特に、「天然物は“安全で身体に優しい”ものというよりも、“正しく使わなければリスクがある”もの」という認識を前提としてもっておくのがいいかもしれません。

 “長年の使用経験があるから”も同様です。古代、薬が飲めるのはよほど身分の高い人に限られました。中世、近世と時代が移っても、薬はそれなりに貴重品であり、そのために一般民衆は多少の不調に対しては、いわゆる民間薬で治療や予防を行っていたという歴史があります。また、前回も記載したとおり、日本では近現代の医療制度が確立した際に一度漢方は医療の正規教育課程から外され、一般的なものではなくなっていたという経緯もあります。そのため「漢方薬が最も一般的に用いられている」のは現代なのです。いわゆる「証(しょう:その漢方処方を使用すべき身体の状態)が合う・合わない」とは別に、アレルギーなどの情報が出てくるのはこれからかもしれません。
 このように、漢方薬も西洋薬と同様、気をつけて用いる必要のあるものなのは確かなのです。

 ところがその一方で、漢方薬は「西洋薬では達成しえない効果をもたらしてくれるもの」と思われ、そして素人判断で用いられがちです。もちろん、西洋医学でなかなか対応のしづらい症状について、漢方の知識のある医師や薬剤師の判断やアドバイスのもとに正しく用いることで、症状を抑え身体の状態を整えていけるというのは漢方薬の特長です。しかし、一意的な解釈の存在しない(例えば、「気とは何か」という問いには、様々な答えが返ってくることが容易に予想されます)東洋医学用語で説明された漢方薬について、自分に都合よく解釈し勝手な期待を持って使用するのは、だいぶ危険なことです。
 例えば防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん) 。確かに効能効果に「肥満症」とあります。証を表す文言には「腹部の脂肪が多い」ともあります。これは「自分にとってこの腹部の脂肪は余分である、腹筋が見えなくなるような量の脂肪は自分にとって多い」ということを意味しません。「肥満“症”」の言葉が意味するのは――もっと正確にいえば「解釈してほしい内容」は、「(客観的に見て)病的な肥満」です。一時期、医学的見地からすればまったく肥満ではない芸能人などが、テレビ映り的にはもう少しスリムであったほうがよいという判断でもあったのか、防風通聖散を服用して痩せた、というゴシップ的な報道が続いたことがありました。これは漢方薬を販売する立場からすればよかったのかもしれませんが、漢方そのものからすれば問題です。防風通聖散は強力な下剤でもあり、漢方的にいえば「体内の過剰な邪を下すことで諸々の不調を解決する」のが本来の処方の意図です。防風通聖散の証でない人が本当に服用のみで痩せたのであれば、それは下痢により消耗してやつれたのであって、医療従事者の立場からは、健康的に痩せたのではないと言わざるを得ません。もちろん薬のパッケージには、「BMI〇〇未満の人は瘦身を目的として本薬を用いてはならない」などとは書いてありませんから、「(自分にとって)余分な腹部の脂肪を除くために」服用することを明確に止める文言はありません。これは、日本における漢方薬が、いわゆる「科学的な文言」によって使用方法を定義されていないことから生じる弊害ともいえます。漢方薬は一般用医薬品としても販売されており、自由に選んで使うことができます。だからこそ、漢方薬を使用する際には、イメージ的になんとなく納得のいく文言を自分流に解釈するのではなく、ぜひ、漢方をきちんと学んでから――あるいは漢方の知識のある医療従事者のアドバイスを参考にしながら選んでいただきたいと思います。

 漢方薬だけでなく、生薬製剤、民間薬(民族薬)等にも注意が必要です。「安全なのは国産」などというつもりはありませんが、特に外国の生薬製剤や民間薬の流通過程や使用方法について私たちが持っている知識は、国内でしっかりコントロールがなされているものについてよりも、だいぶ精度の落ちるものになります。COVID-19のパンデミック前は、海外旅行先で「日本には入ってこない、貴重な本場の薬」ということで安全性に問題のあるかもしれないものをよくわからないままに購入してしまうというようなこともありました。現在は「現地に行く」ことが難しくなったことで、「安全でないものを購入してしまう危険性」は低くなりましたが、インターネットを介した個人輸入などはより簡便になっています。これは「正確な知識に基づく安全な購入ができるようになっている」ということではありません。「いかにもそれらしい宣伝文言とセットで、実はあまり安全でないものであっても、容易に購入手続きと決済ができるようになっている」ということなのです。

 すでに評価が定まっているケースをいくつか挙げます。
例えば、平成16年4月に厚生労働省医薬食品局から発表された医薬品・医療用具等安全性情報1)によれば、腎毒性を有するアリストロキア酸を含む広防已(ウマノスズクサ科の植物を基原とする)を防已(ツヅラフジ科オオツヅラフジを基原とする)と誤って輸入し、日本薬局方ボウイとして使用したために腎障害を発症したと考えられるケースが報告されています。日本で使用されている生薬とよく似た表記をしていながら基原植物が科のレベルで異なるものは木通と関木通、木香と青木香など他にも存在し、いずれも後者はウマノスズクサ科の植物を基原植物に持ち、アリストロキア酸を含有します。そして現地では「広」「関」等の文字が省略されて流通していることもあります(生薬の組織の違いは目視で確認できるので、生薬に詳しい人であれば自分の欲しいものを判別できるから問題ない、ということのようです)。しかし、日本で普通に生活している限り、生薬の専門家でもなければこれらの見分けはつきません。

 もうひとつ、これも古い話となりますが、平成15年にアマメシバを原料とする粉末や錠剤等の製品が販売禁止となった事例 2)があります。これはアマメシバを原料とする「粉末製剤」を摂取した後に重篤な呼吸器不全を呈した例があったことから販売禁止の措置がなされたものです。アマメシバは本来東南アジアで野菜として一般に調理され、食されています――が、瘦身に効果があるという触れ込みで、「より摂取しやすいように」製剤化されて販売され、それを摂取した人に因果関係の否定できない形の健康被害が台湾で多数生じていました。野菜として食されるときの摂取量は1週間に100~200g程度ですが、健康被害が生じたケースでは1日に植物量に換算して150g相当を摂取しています。日本で起きた事例についても、他の原因が考えられないことと台湾の事例との類似性から、粉末製剤と症例の因果関係が疑われました。なぜそのようなことになったか――日本からはアマメシバがどのように利用されているかという情報が入手しにくく、販売されている「製剤化された食品」に含まれる量が実は危険なのではないかという判断ができなかったからです。同様の例としては、同じく平成15年に報告された、チベット原産のムシゴケを原料としたお茶、「雪茶」の摂取で肝障害を起こした事例3) もあります。

 このように、漢方や生薬製剤を“身体に優しく”使うには、それ相応の知識が必要になります。イメージに惑わされない、賢い消費者でありたいものです。

※:アリストロキア酸
腎毒性や発がん性などが示されている、アリストロキア属の植物に含まれる成分。アリストロキア酸が含まれているハーブや生薬を含んだ健康食品などに関する注意情報が国内外の政府機関から出されている。

糸数 七重(いとかず・ななえ)先生
日本薬科大学講師(漢方薬学科)

1997年、東京大学薬学部卒業。1999年、同大学院薬学系研究科修了。米国ミネソタ大学留学ののち、2003年、東京大学大学院医学系研究科修了、博士号(医学)取得。慶應義塾大学医学部ツムラ寄付東洋医学講座助手、国立医薬品食品衛生研究所生薬部研究員、武蔵野大学薬学部助教を経て2008年より現職。
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