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渡部内科医院 渡部迪男院長

公開日:2016.03.29
カテゴリー:外来訪問

~漢方薬の新時代診療風景~
 漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
 近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
 漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。

「陰陽五行」「気血水」など古代漢方医学の実態を研究

 住宅街の中にある医院ですので、地域にお住まいの方を中心に、感冒やインフルエンザ、胃腸炎などの感染症や、高血圧、脂質異常症、糖尿病など慢性疾患のコントロールを中心に診療しています。同時に、冷え性、月経前症候群、体力不足、過敏性腸症候群、アトピー性皮膚炎や不眠など、体質によるさまざまな症状に対応する漢方診療も行っていますが、こちらについては地元に限らず遠方から受診される方もいらっしゃいます。
 保険適応があるものに限っても100を超える漢方薬が市販されている現代、さまざまな診療に漢方薬が活用されつつあることはとても喜ばしいことです。しかし現在、日本で行われている漢方医療は、症状や病名などに対して、適切な漢方薬を選択するという、漢方薬の薬効のみに着目した方法が一般的となってしまっています。漢方とは本来、漢方医学のことであり、漢方薬の薬効の背景には、古代医学としての医学理論が存在します。薬効のみに従う漢方医療だけでは、決して漢方の本質を十分に生かす診療であるとはいえないのです。そこで、当院では『傷寒論(しょうかんろん)』、『黄帝内経(こうていだいきょう)』、『本草記(ほんぞうき)』といった中医学の古典的書物を紐解き、そこに現代的な視点を加えて、陰陽五行の実態を探りつつ、その理論に基づいた古代漢方医学の実践を目指しています。

医学とは、元来「人体の仕組み」を探ること


著書も多数ある渡部院長

 古代漢方医学と現在国内で広く実践されている漢方医療を大きく分けるのは、その根底にある人体への視線です。日本の漢方医学は、江戸時代に『傷寒論』に基づいて医学の手引書をまとめた吉益東洞(よしますとうどう)の影響を大きく受けています。吉益東洞は当時天才的革命児との呼び声が高かった人物ですが、既に形骸化し曖昧化しつつあった、古代医学理論を大きな決断のもとに捨て去り、生薬や漢方薬の効能のみを活かす診療方式を採用しました。その当然の成り行きとして国内では、医学としての古代理論の多くが失われてしまったのです。またその結果、医学の成立に欠かせなかった、人の身体全体の実態や病態を把握するという視座が抜け落ちてしまいました。古代医学理論の根底には、命が存在します。全身とその生存の原理である、命そのものを見詰め直すこの視線は、臓器や細胞などの、個別の器質的な異常を重視する西洋医学にも欠けている視線です。
 医学とは元来「人間の身体の仕組み」を探ること。そのために、西洋ではルネサンス期の死体解剖からはじまり、身体の各部を詳細に調べることに力を注いできました。これに対し、東洋医学では身体の各部を詳細に調べることと同時に、人間の自然の営みを観察することにも注力しました。人が人らしく生きるためには人体の構成要素である個別の臓器や組織だけではなく、全身の基本システムである、「陰陽五行」の実態を知ることが欠かせないもの。特に陰陽に関する視点が重要です。現代日本の漢方医学や西洋医学には、こうした人間自身が全体で示す、その生態が抜け落ちてしまっているのではないでしょうか。そして、そこをカバーすることができるのが古代漢方医学であると、私は考えています。

現代社会が失った「人間」への視点を取り戻すために

 古代漢方医学が前提におくのは、命に基づく人体の自然な仕組みとその営みです。太陽が昇ると目が覚め、お腹が空く、食物を食べると活力が湧いて狩りなどの仕事に精を出すことができる、仕事に精を出すと疲労を感じ、夜が来たら眠って昼間の疲れを癒す。また、人が生まれて育ち、社会に役立ったのちに老いて死んでいく……こうした人間の自然な営みのすべてが、医学理論の基本を構築し、「陰」と「陽」の概念で理解されました。しかし、昼の疲れを夜の睡眠で癒すといった人体の自然の摂理は、現代社会が失いつつあるものでもあります。人間らしさから乖離した社会が形成されつつある時代の流れのなかで、こうした古代漢方医学の視点は必要不可欠となるはずです。不眠や頭痛、便秘や皮膚炎など、確かに症状はあるのに、西洋医学的な検査によって原因が究明できないケースは多々あります。従来の医者が見放すような原因不明の症状にも、人間そのものを総体として見つめる、古代東洋医学に基づく漢方医療であれば、対応することができる場合も多いと考えています。

気血水システムを強化する漢方医療はいわば「身体のインフラ整備」


このベッドに横臥して腹力を測る

 全身を日本列島に例えると、心臓や肝臓といった五臓は各地に点在する街であり、気血水の流れは街と街をつなぐ交通網、上下水道、電気やガスなどの配線や配管などのインフラであると言えます。古代理論に従えば人間には生命維持を支える「先天の気」、活動を支える「後天の気」という二つの生体エネルギーが存在します。古代漢方医療では、漢方薬の効能と医学理論の両者を活用し、漢方薬を適宜組み合わせながら、これらのエネルギーの流れである気血水システムを整備し強化するのです。
 当院ではまず、問診と腹診(腹力)、脈診によって、特に虚実の判定を行い、弱っている部分や流れの滞りを察知して、必要な漢方薬を処方します。体の機能低下が起こっている人は、多くの場合、ストレスや多忙などから、身体と心に過剰な負担のかかる日常生活を送っています。忙しいからと睡眠を犠牲にする人や、冷え、姿勢の悪さを改善しようとしない人には、どんなに漢方薬を用いても体力が戻ることはありません。当院ではご自身の身体を自分のものとして実感し、大切に使うための体操や食事、生活上の心がけなどの情報も提供しています。こうした情報は、特に現代社会において生き方を見失いがちな若い世代の方には必要なものだと思います。全身を対象とする漢方診療はやる気と根気が必要ですが、時間をかけながら継続することで体質改善が可能になります。

渡部内科医院

医院ホームページ:http://www.watanabenaika.e-doctor.info/

京浜急行本線「金沢八景」駅よりバス15分ほど、JR「鎌倉」、「大船」の各駅からもバスでアクセス可能。神奈中バス、京浜急行バスの「大道」及び「西大道」バス停からは徒歩3分。横浜横須賀道路「朝比奈IC」から車で5分ほど。静かな住宅街の中にある、地域密着型の医院です。
詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科、漢方内科

渡部迪男(わたなべ・みちお)院長略歴
福岡県福岡市出身
東京大学医学部医学科卒業
東京大学医科学研究所勤務後に開業
■所属・資格他

日本内科学会、日本東洋医学会、医学博士

■著書

現代システム漢方入門、現代システム漢方入門(第2編)、古代漢方医学入門(すべてたにぐち書店)、命の医学(新風舎)

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