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東邦大学医療センター佐倉病院 長尾建樹院長

公開日:2016.12.14
カテゴリー:外来訪問

~漢方薬の新時代診療風景~
 漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
 近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
 漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。

慢性硬膜下血腫に有効な漢方薬

 外科医の醍醐味と言えば、手術で病気を治すことです。その道を志した私にとって、漢方薬は遠い世界の話であると感じていました。しかし、漢方医学には、我々が医学部で学んだ西洋医学よりも遥かに長い歴史があり、日本で医療を行う者としては無視できないと漠然と考えていました。機会があれば、いずれは漢方薬を使用できるようになりたいと思っていた矢先、慢性硬膜下血腫に対する漢方薬の有効性の報告があったことを知りました。そこで私は手術後の血腫残存例に対し、五苓散という漢方薬の使用を試みました。
 漢方の基本的な考え方に「気・血・水」の概念がありますが、漢方では脳浮腫や水頭症は「水」の異常とされています。五苓散には体の中に溜まった水を排出する作用があり、体内の水の流れを良くするのです。水頭症のような病気は手術で治すものと思われてきましたが、脳神経外科と東洋医学の漢方は無関係ではないのです。
 五苓散を使用したことにより、術後の残存血腫が次第に縮小したことを確認できました。以来、慢性硬膜下血腫に対して五苓散を手術直後から使用することにより、高確率で再発を防止できるようになりました。さらには、手術をするほどではないけれど、血腫拡大の可能性がある患者さんに対しても五苓散を使用することによって、治療できた症例を経験するようになりました。

脳神経外科学の世界でも有効性が認められる

 現在、大学病院の院長を務める傍ら、日本脳神経外科漢方医学会評議員としても活動しています。20年以上の歴史を持つ同学会の学術集会でも、五苓散の慢性硬膜下血腫に対する多数の有効性が報告されています。また、硬膜での利水作用や細胞膜のアクアポリンとの関係など基礎的研究も多数報告されており、硬膜および血腫被膜の水分バランスを調整することで慢性硬膜下血腫の増大を抑制すると言われています。五苓散にみられる利水・利尿作用は、脳腫瘍などで生じる脳浮腫に対しても有効です。
 従来の治療で使用されてきた高浸透圧利尿剤やステロイド剤と比べると効果はマイルドですが、副作用はほとんどみられません。安全に長期間使用できる薬であると言えます。

今後も様々な症例に対する効果が期待されている

 現在は多くの脳神経外科医が慢性硬膜下血腫に対して五苓散を使用するようになってきました。しかし、その五苓散の作用は多様であり、そのメカニズムも未だ完全には解明されていません。近年、脳脊髄液が漏出する脳脊髄液減少症にも有効であることが報告されていますが、それ以外にも水頭症など脳脊髄液に関連する病態や脳実質の病変での効果も期待されています。
 また、五苓散以外では呉茱萸湯という漢方をよく処方しています。脳脊髄液減少症に対して五苓散を使用し、さらに呉茱萸湯を追加すると頭痛を良好にコントロールすることができるのです。これは、頭痛が強い症例に対して使用しています。頸部から肩にかけての緊張や痛みを伴う場合も多く、こういった症状に対しては、筋肉の急激なけいれん等の症状に対し処方される芍薬甘草湯の併用が有効な時もあります。

脳神経外科での漢方使用を広げていきたい

 私自身は、五苓散のおかげで漢方への道が開けました。今では、消化器症状や呼吸器症状を合併した他領域との合併症状に対しても、抵抗なく漢方薬を使用できるようになってきました。漢方の世界では現在も常に新しい報告がなされ、情報が更新されていきます。今後も漢方治療の研鑽を積み重ね、脳神経外科領域での適応を広げていくことが目標です。
 今後も東洋医学と西洋医学の良さを取り合わせ、人々の安心と安全に繋がる確かな医療技術の提供を行って参ります。

東邦大学医療センター佐倉病院

医院ホームページ:http://www.sakura.med.toho-u.ac.jp/index.html

京成電鉄「ユーカリが丘駅」、JR「四街道駅」より病院送迎バスに乗車。ユーカリが丘駅からは約7分、四街道駅からは約20分で病院に到着。自然豊かな場所に位置し、敷地内にはコンビニやカフェも併設されている。地域の中核病院として、高いレベルの医療を提供している。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科、呼吸器内科、神経内科、小児科、外科、心臓血管外科、脳神経外科、整形外科、産婦人科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線科麻酔科、循環器内科、消化器内科、消化器外科、救急科、腎臓内科、神経精神科、糖尿病・内分泌・代謝内科

長尾建樹(ながお・たけき)院長略歴
1980年 東邦大学医学部卒業、東京女子医科大学付属病院脳神経外科学教室入局
2012年 東邦大学医療センター佐倉病院 脳神経外科 教授
2014年 東邦大学医療センター佐倉病院 救急センター部長
2015年 東邦大学医療センター佐倉病院 病院長
■専門分野

脳神経外科学、救急医学

■公的活動

日本脳神経外科学会評議員、日本脳神経外科漢方医学会評議員

■受賞歴

第20回日本脳神経外科漢方医学会 会長賞 東京(2011年)

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