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小児科医に訊く! 子どものための漢方服薬指導Tips

公開日:2023.08.08
カテゴリー:病気と漢方

近年、子どもの診療における漢方処方が注目されています。
「子どもに使われる主な漢方処方って?」「子どもは漢方薬が苦手なはず」「漢方薬を飲みやすくする方法は?」子どもに対する漢方治療のさまざまな疑問・誤解・ノウハウについて、さかざきこどもクリニックの坂﨑弘美先生にお話を伺いました。

小児科でよく使われる漢方薬の種類

「基本的に、西洋薬が効かなかったり、適した薬がなかったりするときが漢方薬の出番だと考えています。こうした背景も踏まえ、小児に対してはメンタル系の不調に多く使っています」

こう話す坂﨑先生は、続けて具体的な処方について言及します。

「例えば、不安が強く、しくしく泣くタイプなら甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう) を、多動で癇癪が強い「キレやすい」タイプなら抑肝散(よくかんさん) を使うケースが多いです。また、華奢で虚弱なタイプの子どもの腹痛には小建中湯(しょうけんちゅうとう) が有効な例も多くみられます」

「子どもは漢方薬が苦手」という誤解

大人でも飲みづらさを感じる人がいる漢方薬。子どもにとっては特に飲みづらいという印象があるかもしれませんが、坂﨑先生は「決してそんなことはない」と話します。

「生後から1歳ぐらいまでは特になにも考えず飲んでくれることが多いですね。そこで漢方の味を覚えてもらうのが一番スムーズかもしれません。また、6歳以降は薬を飲むことの大切さを理解することで、飲みづらさを感じても頑張って飲む子が多い印象です」

一方、一番苦労するのは2~5歳くらいだと坂﨑先生は話します。

小児の月齢と服薬の難易度

広瀬滋之. TSUMURA Medical Today「小児科領域と漢方医学」より作図

「自我の目覚める年齢であり、さらにいえば、甘いお菓子やジュースにさんざん慣れ親しんできた頃ですから。でも、ご安心ください。年齢によらず、工夫すれば漢方は飲みやすくなります」

以降、坂﨑先生による漢方服薬に関する工夫ポイントをいくつかご紹介します。

子どももこれで飲みやすい!漢方服薬の工夫ポイント①

『褒めて、褒めて、さらに、褒めて』

坂﨑先生が心掛けていることのひとつは、「漢方薬が飲めたら大袈裟なくらいに褒める」ことだといいます。

「とにかく大げさなほど褒め倒します。『え!? 飲めたん?ホンマに?すごいわー!ふつう飲まれへんでこんなん!』という感じで」

そこには、先生独自の考えがあるといいます。
「最近のお子さんは、あまり褒められていない気がして…それで自己肯定感の低い子が多いようにも感じています。だから、少なくともお母さん、お父さんには、漢方薬に限らず、いろんな面で褒めて、褒めて、褒めてまくってあげて欲しいと思います」

褒めるのは子どもだけではありません。坂﨑先生はさらに、服用させた保護者にも必ず「さすがです~!」とねぎらうそうです。
一方でまた、飲めなかった場合でも保護者や本人を責めないことが大切だといいます。

子どももこれで飲みやすい!漢方服薬の工夫ポイント②

『まずは飲んでもらうことが最優先』

漢方薬は飲み方に関して、食前もしくは食間の服用などいくつかのルールがあります。ただ、坂﨑先生は、厳密に守らなくても問題ないと言います。

「もちろん食前で飲めたらいいですが、難しければ食後でも、食事中でも、飲みやすいタイミングで構いません。また、1回の服用量についても、もし多くて飲めない場合は、飲める分だけで大丈夫です。とにかくまずは飲んでもらうことが最優先なので」

子どももこれで飲みやすい!漢方服薬の工夫ポイント③

『オーダーメイドの漢方アレンジ』

漢方薬を飲むうえでの最大のネック、それはまさに漢方薬ならではの独特な味わいでしょう。

「甘くて飲みやすい処方もありますが、酸味や苦味が強く、少なくともおいしいとは感じない、我慢しないと飲めない、という処方があるのも事実です」

坂﨑先生がふだん保護者に提案している、漢方薬と混ぜることで飲みやすくなるオーダーメイドの漢方アレンジには具体的にのようなものがあるそうですが、今回はその中でも先生が特にベストマッチと考えている組み合わせをいくつか挙げていただきました。

表 漢方薬と相性のよい食材
処方箋で処方できるもの マルツエキス 西洋薬
おやつ アイス ヨーグルト 練乳 ジャム あんこ はちみつ(1歳以上) チョコクリーム
飲み物 ぶどう・りんごジュース CCレモン カルピス ヤクルト ココア ミロ
おかず カレー スープ みそ汁 マヨネーズ のりの佃煮 たこ焼きソース
調理過程で混ぜるもの ホットケーキ クッキー ゼリー ハンバーグ
服薬補助剤 服薬ゼリー オブラート

ベストマッチ ケース①

小建中湯 + ミロ(麦芽飲料)
「麦芽糖が入っているので小建中湯(建中湯類)と相性がよく、混ぜると大変おいしくなります。エキス剤の顆粒とよく混ざり合うので、顆粒同士を混ぜてそのまま食べること(服用)もできます」

ベストマッチ ケース②

抑肝散 + コーンスープ
「これはもう本当にベストマッチですね。というのも、スーパーでいちばん安いコーンスープに混ぜて、いろんな先生方にも味見してもらいましたが、『これって上等のコーンスープに混ぜてるからおいしいんですか?』と大好評で。コーンスープの味を抑肝散が引き立ててくれる、相性抜群です」

ベストマッチ ケース③

小青竜湯 + マヨネーズ
「五味子という生薬の酸味をうまく隠してくれるのがマヨネーズです。これは患者さんのお母さんから、『これで飲めるようになりました』と教えてもらったケースですね」

多種多様な漢方アレンジが存在する一方、最も重要なポイントは、「あくまでもオーダーメイドで」対応することだと坂﨑先生は指摘します。

「続けるうえで大切なのは、お子さんの味の好みに合わせること。そして、普段から家にある食材や調味料などを用いることです」

皆、意外に漢方薬に慣れていく

いろいろな工夫、特にアレンジによって漢方薬の飲みやすさは格段に向上します。その反面、いつまでアレンジを続ければいいのかと疑問を持ったり不安に思ったりする保護者もいるかもしれません。

「それはあまり考えなくてもいいと思います。というのも、たいてい1か月ほどで、アレンジなしで飲めるようになる子が多いからです」

理由として坂﨑先生は、「どんなアレンジでも完璧に味をカバー、マスクするのは難しく、少しは漢方薬の味が出てしまう」という点を挙げます。

「そうして段々と、個人差はありますが、1か月ほどで慣れていくという感じですね。あとは、1か月くらいすると、だんだん面倒になって手を抜き始める保護者が増えるというのも関係しているかもしれません」

このように、漢方薬を飲める子は慣れていく反面、どうしても飲めない子もいるとのことです。

「飲めない子はどうやっても飲めません。だから1~2回試してみてだめなら、苦手意識を持たせないよう、しばらくこちらからは勧めないようにしています。服薬の必要性が理解できるようになったらその時に再チャレンジするようにしています」

(取材・文:岩井浩)

坂﨑弘美(さかざき ひろみ)先生
さかざきこどもクリニック 院長
1988年大阪市立大学医学部卒業。同年、大阪市立大学医学部付属病院小児科学教室に入局。
和泉市立病院小児科、大阪掖済会病院小児科を経て、2004年 10月さかざきこどもクリニック開院。日本小児科学会認定小児科専門医、日本小児科医会地域総合小児医療認定医、日本小児東洋医学会運営委員、日本小児漢方懇話会理事。「フローチャートこども漢方薬」「漢方♥外来ナンパ術」「漢方♥外来 先生、儲かりまっか?」など著書多数。

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