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子どもの成長と漢方薬(1)発達障害に漢方薬が役立つ? その理由と役立て方

公開日:2022.03.28
カテゴリー:病気と漢方

発達障害は、外見からはその特性がわかりにくいうえ、症状も多様です。そのため子どもたちは、生きづらさを感じていることも少なくありません。そうした発達障害の子どもたちが抱えるつらさの軽減に漢方薬が役立つと、たんぽぽこどもクリニック院長の石川功治先生は話します。発達障害に漢方薬がどのように役立つのか、詳しく教えていただきました。

多様な特性がみられる発達障害

発達障害とは、生まれつきの脳の働き方の特性により、特徴的な行動や情緒の動きがみられることをいいます。千葉県野田市にある石川先生のクリニックには、多くの発達障害を抱える小児が通院しています。発達障害の代表的な特性として、以下のものが挙げられます。

  • 言葉の発達の遅れやコミュニケーション障害、こだわりの強さや感覚の過敏さが見られる=自閉症スペクトラム
  • 落ち着きがなく衝動的な行動が多い、集中が続かない、不注意が多い=注意欠如・多動症(ADHD)
  • いわゆる「行間を読む・空気を読む」のが苦手=アスペルガー症候群
  • 知的発達に遅れはないものの、読む、書く、計算するといった学習に必要な特定の能力に困難がある=学習障害(LD)

このほかに、HSP(Highly Sensitive Person)と呼ばれる、感受性がとても豊かで音やにおいといった刺激や他人の感情などに敏感に反応する気質を併せ持つ人もいます。
「発達障害では、症状が単独で現れるケースはほとんどありません。当院に通院している多くの子が、自閉症スペクトラムと学習障害、アスペルガー症候群とADHDといったように、複数の症状を同時に抱えています」(石川先生)

発達障害の難しい点は、症状や特性の現れ方が実に多様なところです。そのため周囲だけでなく本人も、特性を抱えているのに気づきにくいことが少なくありません。

「発達障害かも」と思ったときは、まず客観視

「発達障害を疑って受診をされたら、当院ではまず『子どもの日常生活チェックリスト(QCD)』1)や『ADHD RS-Ⅳ 日本語版』2)などを用いて、症状を可視化しています。日常生活や不注意・多動性・衝動性などについて、お子さんの様子をもっともよく表していると思われる評価に○をつけていくと結果が数字(スコア)になって現れます。それはお子さんが抱える困難の可視化ともいえ、保護者が子どもの状況を客観視しやすくなるというメリットにつながります」(石川先生)
こうしたチェックは、発達障害の治療を行っている医療機関で行ってもらうことができます。

〈チェックリストの設問例〉1, 2)

  • 速やかにベッドから起きられますか?
  • 夕食のときに落ち着いて会話できますか?
  • 夜中に目覚めることなく寝ていますか?
  • 面と向かって話しかけられているのに、聞いていないように見えることはありますか?
  • 気が散りやすいですか?
  • ほかの人がしていることをさえぎったり、邪魔したりすることはありますか?

「チェックリストの設問以外にも、特徴的な症状があります。私が多いと感じるのは『服や下着の肌への当たり方を気にする』『特定の肌触りの衣服しか着ない』など、身につけるものへのこだわりです。また『大きな音が嫌い』『ひとりでいるのを好む』という傾向もみられます」(石川先生)

発達障害は治療したほうがいい? 漢方薬が役立つのはなぜ?

石川先生は子どもの発達障害の治療に、漢方薬を積極的に使用しています。成長途上の子どもは、不調が心にも体にも生じて症状が多様化、複雑化し、西洋薬だけでは対応できないケースがあるからだそうです。
「そうした場合や、症状が強く西洋薬では改善しない、西洋薬はまだ使いたくないといった場合には、漢方薬が向いています。西洋薬と併用することもあります」(石川先生)
発達障害の改善に役立つ漢方薬としては、下記のようなものがあります。

甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)
構成生薬の「小麦(しょうばく)」「大棗(たいそう)」「甘草(かんぞう)」による「安神(あんしん)作用」という精神安定作用があり、多動や寝付きの改善が期待される。甘いので小児でも服用を嫌がりにくい。
抑肝散(よくかんさん)
甘麦大棗湯では効果が得られなかった多動の小児に用いる。構成生薬の「柴胡(さいこ)」は、イライラや落ち着きのない症状の改善に有効。
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
精神不安からくる「あせり」を改善する「竜骨(りゅうこつ)」「牡蛎(ぼれい)」と安神作用のある「大棗」のはたらきで、発達障害児が抱えやすいイライラや不安を改善する。チック(本人の意思とは関係なく、不規則で突発的な体の動きや発声が繰り返されること)にも効果的。

なお、発達障害を治療することの必要性について、石川先生はこう話します。
「発達障害は生まれもった特性ですが、症状の出方によっては日常生活に支障をきたします。そのため、強く出ている症状があれば、それを抑える治療をしたほうがよいでしょう。特にコミュニケーション障害は、年齢が上がるほど支障が大きくなります。子どものときから治療をすることは、将来お子さんが社会人になったときに困らないための準備といえます」

石川先生いわく、漢方薬は発達障害以外の子どもの不調や病気の改善にも有効とのこと。ただし、保護者が不安を持つこともあるそうです。
そこで次回は、子どもの漢方薬服用に関する疑問についてお聞きします。

参考
  1. 後藤太郎ほか. 小児臨 2011; 64: 99-106
  2. 市川宏伸ほか監:診断・対応のためのADHD 評価スケール ADHD‒RS(DSM 準拠)チェックリスト,標準値とその臨床的解釈 初版第5刷, 明石書店, 東京, 2016

石川 功治(いしかわ こうじ)先生
たんぽぽこどもクリニック 院長

医師。医学博士。獨協医科大学医学部卒業、大学病院・総合病院での勤務を経て、獨協大学医学部大学院を修了し、医学博士を取得。1999年、医療法人社団泰慎会たんぽぽこどもクリニックを開設。子どもを取り巻く環境の変化に合わせた医療の提供に取り組む。

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