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前編:「オーラルフレイル」と漢方 ~口の機能低下が健康に与える影響~

公開日:2023.03.30
カテゴリー:病気と漢方

「フレイル」とは加齢により心身が衰えた状態を指しますが、そのフレイルのきっかけともなる“ささいな口の機能の衰え”を「オーラルフレイル」と呼ぶことはご存じでしょうか? 滑舌が悪くなったり、硬いものが食べられなくなったり、食事の際にむせるようになったりといった、口に関する様々な衰えを放置したままにすると、フレイルを引き起こし、要介護状態に陥るリスクが高くなることがわかってきました。そこで今回は、口腔機能の重要性や、オーラルフレイルの症状・原因、漢方での対処法などについて、小澤歯科醫院院長の小澤夏生先生に話を伺います。

「オーラルフレイル」とは?

フレイルとは、虚弱や衰弱、脆弱などを意味する「Frailty」(フレイルティ)に由来する言葉で、体力面に限らず、精神心理面や社会的な虚弱性も含めた、総合的な老年症候群(加齢による老化に伴うさまざまな症状)であるとされています。オーラルフレイルは、「Oral」と「Frailty」を合わせた造語で、「口のフレイル」を意味します。口まわりのささいな衰えを放置したり、適切な対応を行わないままにしたりすることで、口の機能低下、食べる機能の障害、さらには心身の機能低下まで繫がる“負の連鎖”が生じてしまうことに対して警鐘を鳴らした概念です1)

オーラルフレイルは、特に“フレイルの入り口”であるとし、「フレイル予防に対する口腔機能の維持・向上の重要性を、医科(医師)または多職種が容易に認識できる」ことを目標に、概念が設定されました1)

「つまり、この概念を知ることで、ご本人はもちろんですが、まわりの家族や、医療・介護の現場の人たちが『口腔領域のささいな機能低下を見逃さない』と意識してくれることが大事。私は老人ホーム等に訪問診療もしているのですが、この言葉のおかげで、『口腔ケア・機能の維持は大事なものなのだ』という意識が、メディカルドクターや施設長、看護師さん、栄養士さんたちの中でも、かなり高まってきたと思います」(小澤先生)

はじまりのサインは気づきにくい「ささいなトラブル」

オーラルフレイルは、以下のような段階を経て進行するとされています1)

第1レベル <口の健康リテラシーの低下>

社会的な環境変化(退職、引っ越しなど)、家庭での役割の変化(子どもの巣立ちなど)などから、自己の容姿・健康への興味が薄れる。「口腔の健康に対する自己関心度(口腔リテラシー)の低下」を経て、歯周病リスク・歯の喪失リスクが高まる段階。

第2レベル <口のささいなトラブル>

ささいな口の機能低下(滑舌低下、食べこぼし、むせる、噛めない食品の増加など)に伴う、食を取り巻く環境悪化の徴候が現れる段階。「食べにくい硬いものは避け、柔らかいものに」という食事選びや、老化による影響もあり、症状が進む。微細であることから自覚することなく潜在的に機能低下が進むことも多いが、対策を取れば健常な状態に戻れる。

第3レベル <口の機能低下>

口腔機能の低下が顕在化(咬合力低下、舌運動の低下、咀嚼・嚥下機能の低下、口腔乾燥など)し、サルコぺニアやロコモティブシンドローム、低栄養状態などへ陥る段階。「口腔機能低下症」の診断がつく人もいることから、このレベルは歯科診療所で対応する。

第4レベル <食べる機能の障害>

摂食嚥下機能低下や咀嚼機能不全から、要介護状態、運動・栄養障害に至る。「摂食嚥下機能障害」として診断がつく段階であり、専門的な知識を有した医師、歯科医師などが対応。摂食嚥下リハビリテーションとして、標準化された評価および対応が整備されている。

このように、オーラルフレイルのレベルが進むにつれ、身体的フレイルに対する影響度が増大していきます。ただし、各レベルで適切な対応をとれば、まだ症状の改善が可能であることも示されています。

そのため、早期発見・早期対応が重要なのですが、オーラルフレイルの始まりが「口のささいなトラブル」であることから、本人や家族などが「気づきにくいのが難点」と小澤先生は指摘します。

「口腔機能の低下は初期のころには自覚しにくいもの。ですから、周りの人が意識的に見てあげてほしいのです。例えば、『食べ物の好みが変わっていないか』、『食べる量が減っていないか』、『食事時間が長くなっていないか』、『むせていないか』、『口が乾燥して臭っていないか』、『聞き取れない言葉はないか』など。また、むせてはいないけれど『食事の間に声が変わる、かすれる』というのは、少しずつ気管のほうに誤嚥している可能性があります(不顕性誤嚥)。また『食欲がない』というのも、何か不具合があって食事が楽しくなくなってきたのかもしれませんし、うがった見方をすれば、すでに誤嚥をしていて体調が悪いのかもしれません。口まわりのことで少しでも気になることがあれば、気軽に歯科医へ相談してほしいと思います」(小澤先生)

対象は50歳以上。新しく導入された「口腔機能低下症」

これまで一般の歯科医院での治療は、虫歯や歯周病によって失われた形態を元に戻すことに主眼がおかれ、口腔機能に関する取り組みは、地域の介護予防事業や介護保険による対応にとどまっていました。

しかし、フレイル対策が重点化された2018年に、新病名として「口腔機能低下症」が保険収載され、口腔機能の低下に対して医療的な対応が可能に。「計測機器などを用いて定量的に評価することで、口腔機能低下の早期発見・早期対応を行えるようになったことの意義は大きい」と小澤先生は話します。

「口腔機能低下症は、おもに50歳以上を対象に、咬合力検査・舌圧検査・咀嚼能力検査など7項目の口腔機能評価を行い、3項目以上の項目で低下が認められた場合に診断します。個人の状態に合わせた管理計画を立案し、虫歯治療などに加えて、栄養指導や口腔機能を改善させるための訓練・指導を行い、継続的な管理を行っていくのです。

検査結果を見ていると、医院に来ている患者さんたちは、70代でもそこそこの良い数値が出ていますよ。皆さん、外来まで自分で歩いて来られていますから。ところが老人ホームなどに訪問して計ると、ガクッと数値が落ちます。歩くことに支障を来しているような、生活の自立が低い方の舌の力や咀嚼の力は、すでに失われているのです。オーラルフレイルは、身体的フレイルの前段階だということが、よくわかります」(小澤先生)

コロナ禍で増えるリスクも…若い人も要注意!

このように概念が少しずつ広がり、対応策も増えているオーラルフレイルですが、ここ数年は、新型コロナウイルスの影響で生活環境が大きく変化したため、かえってオーラルフレイルのリスクが高まっているのだと言います。

「口まわりの筋力は、よく噛んで食べることや、人と会話することで保たれています。コロナ禍の外出自粛や集会の禁止により、食事を簡単に済ませたり、話し相手がいなくなったりしたことで、口の動きが極端に減り、筋力も落ちていると推測できます」(小澤先生)

また、オーラルフレイルで心配なのは高齢者ばかりではありません。「コロナ禍では若者や子どもたちにも同様のリスクがある」と小澤先生は警鐘を鳴らします。

「オンライン授業やテレワークで1日中ほぼ外に出ない人、ゲームやSNSばかりして人と接することのない人、また、ずっとマスクをつけていて、頻繁におしゃべりしたり大きな声で笑いあったりする機会の少ない子どもたちも、口の機能の衰えが早まる可能性があります。

口の健康というと、歯の本数を気にして、虫歯や歯周病を治して…という近視眼的なことになりやすいのですが、本当はもっと生活に即した広い視野が必要。特にオーラルフレイルは老化・筋力低下に、独居などの社会的な要因や、うつなど精神心理的な要因が加わることで進んでいきます。ですから、外出する用事を作ったり、人と話す機会を持ったり、“社会とつながり続けること”が口の機能の維持にとても大切なのです」(小澤先生)

放っておくとフレイルや要介護になりやすく、死亡リスクも上昇

コロナ禍が続いたことで増加が懸念されるオーラルフレイルですが、放っておくと、生活の質を落とすだけでなく、様々な危険があるとされています。実際、口腔機能の低下が、全身の健康状態や社会生活にも大きく影響を与えることが、多くの疫学研究からわかってきました。

東京都板橋区在住の65歳以上の健診受験者491例を対象とした調査では、咀嚼機能低下が2年後のフレイルの発現と関連することが明らかになりました2)。また、千葉県柏市在住の高齢者2,011例を対象にした45か月間の追跡調査では、オーラルフレイルの人は、健常な人と比べ24か月間の身体的フレイル発生2.4倍、サルコペニア発生2.1倍、45か月間の要介護認定2.4倍、死亡の発生2.1倍増加3)など、死亡リスクが高まることや、フレイル・要介護になりやすいことがわかったといいます。

「オーラルフレイルになると、食べられないものが増え、食欲の低下や偏食が起きます。すると、栄養が不足したり、偏ったりすることで、全身の筋力が低下し、フレイルのリスクが高まります。これが、体への直接的な影響です。

そして、オーラルフレイルの影響で深刻なのは、先ほども少し述べたように『まわりと疎遠になり、日々の活動量が低下してしまう』こと。例えば、町内会や友人付き合いの場でも、食べにくい食品が出たり、口臭が気になったり、滑舌が悪くて会話中に何度も聞き返されたりすると、億劫に感じることが多くなってきます。そうして外食、外出、会話などの頻度が少なくなり、それらを楽しむことができなくなっていくと、おのずと生活範囲が縮小し、活動量が減ります。すると、身体機能や認知機能の低下なども進み、フレイルが急速に悪化。要介護状態や寝たきりへと進行しやすくなってしまうのです。常々、『口は社会とつながっている』と感じています」(小澤先生)

そんなオーラルフレイルに対して、小澤先生はなんと30年も前から、東洋医学の考え方と漢方薬で対処をされてきたそうです。アプローチ方法や具体的な処方も含めて、Vol.2でも引き続き、小澤先生にお話を伺っていきます。

参考
  1. 日本歯科医師会:歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版
  2. 堀部耕広. 歯科学報 2021;121(2): 173
  3. Tanaka T,et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2018; 73(12): 1661-1667

小澤夏生(おざわ・なつお)先生
小澤歯科醫院 院長
東京歯科大学卒業。歯学博士。慶應義塾大学医学部 非常勤講師。日本歯科東洋医学会 専門医・指導医・理事。日本口腔内科学会 専門医・指導医。日本歯科心身医学会 指導医。

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