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食事が摂れない高齢者に「水」を調整する半夏厚朴湯が有効

公開日:2018.10.19
カテゴリー:漢方ニュース

日本病院薬剤師会関東ブロック 第48回学術大会のシンポジウムで講演

 現在、食事が摂れなくなった高齢者への対応については、さまざまな議論が行われています。とりわけ腹部から胃まで内視鏡を使って小さな穴を造り、そこからチューブを通して直接胃に栄養剤を入れる「胃瘻(いろう)」の造設については、医療措置として適切かどうかが問われるようになっています。

 大東文化大学スポーツ・健康科学部看護学科准教授の北田志郎先生は、日本病院薬剤師会関東ブロック第48回学術大会のシンポジウムで講演し、食事を摂りにくくなった高齢者に対する漢方薬の処方では半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、六君子湯(りっくんしとう)、大建中湯(だいけんちゅうとう)が主に用いられると話しました。この中でも半夏厚朴湯については、医学的根拠となるデータが充実していると説明しました。

 北田先生は、食事が摂りにくくなった高齢者では、その証から「水」の多さが原因になっていることが少なくないとし、部位に応じて使い分けることが望ましいとしました。具体的には、「水」の多さが主に口や喉の場合は半夏厚朴湯、胃の場合は茯苓飲合半夏厚朴湯、腸の場合は大建中湯とし、これ以外に逆流が強ければ半夏瀉心湯、食欲がなければ六君子湯が適していると解説しました。

半夏厚朴湯が「肺炎発症の抑制に有効」というデータも

 半夏厚朴湯は、半夏(はんげ)、茯苓(ぶくりょう)、厚朴(こうぼく)、 蘇葉(そよう)、生姜(しょうきょう)で構成されており、一般的に「体力中等度をめやすとして、気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、のどのつかえ感」に使用されます。

 北田先生は、「ヒステリー球」と呼ばれる、「のどの奥の異物感」や「のどが詰まって水も飲みこみにくい」などの症状を訴える咽頭部異常感症により食事が摂れなかったり、頻繁に痰がでたりするような高齢者に半夏厚朴湯を使用すると説明しました。さらに、半夏厚朴湯が適している事例として、(1)喉元で痰がゴロゴロして口の中によだれがたまっている、(2)舌苔が白く厚い、という場合を挙げ、逆に「口の中が乾燥していて舌苔が消失している場合にはむしろ有害に作用することがある」と説明しました。

 半夏厚朴湯は日本老年医学会が策定した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」でも紹介されています。食物を飲み込む際にそれが食道ではなく誤って気管に入ってしまうことで肺炎を起こす誤嚥性肺炎の既往をもつ患者さんで、偽薬(プラセボ)と半夏厚朴湯における、嚥下(食物を口で咀嚼して飲み込むこと)反射に対する影響を比較した二重盲検比較試験で、半夏厚朴湯が有意に嚥下反射を改善したデータがあることから、「誤嚥性肺炎の既往をもつ患者における嚥下反射、咳反射を改善させ、肺炎発症の抑制に有効である」と記述されている、と北田先生は説明しました。

生活情報が多く手に入る在宅医療は漢方薬の得意分野

 続いて北田先生は、自身が経験した半夏厚朴湯が有効だった60代男性の事例を提示しました。この男性は在宅療養中で脳梗塞発症の後遺症で右片麻痺、失語症、嚥下障害があり、何度も誤嚥性肺炎を起こしていました。過去に胃を切除する手術をしていたこともあり、栄養は経鼻チューブで摂っていました。最初の診察時は薄い痰を大量に吐き、脈診では一拍ごとの感触が、玉が転がるようにどくどくと脈打つ「滑脈」、舌はやや腫れていて、舌の縁に歯の痕があり(歯痕)、色は淡暗で舌苔がやや厚いという状態でした。

 訪問看護での口腔内のケアと嚥下リハビリテーションに加え、半夏厚朴湯を1日5gで服用開始したところ、痰が目立って少なくなりました。約8週間後には経鼻チューブ交換時にむせ返るようになりました。このむせ返りは嚥下反射が復活した証拠です。そのため口から食事を摂ることを開始。そこから4週間で経鼻チューブによる栄養摂取を止めて普通に食事を摂るように切り替えることができたそうです。

 北田先生は、在宅医療では一般的に先端医療機器の導入が困難で、患者さんに関する診療情報も必要最低限になっているものの、逆に漢方薬の処方に必要な患者さんの生活情報などは多く入手できることから、在宅医療では特に漢方薬が有効な手段であるとの考えを述べました。(村上和巳)

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