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いまづ先生の漢方講座 <ビジネスパーソン編> Vol.4 生活スタイルの変化で増えた不調と漢方~ストレス増加編~

公開日:2023.02.02
カテゴリー:病気と漢方

新型コロナウイルス感染症の流行で、私たちの生活スタイルは大きく変わりました。そして、コロナ禍での生活も4年目に突入し、さまざまな規制や行動制限が緩和されつつあります。在宅勤務の割合が減ったり、会議がリモートから対面になったり、年末年始の会合が再開されたり。生活様式も心構えも完全自粛からウィズコロナへと変化しつつありますが、このような環境の変化に対応しきれず、心身の不調を訴える人が増えているようです。気づかぬうちに抱えてしまった不調にはどのように対処したらよいのでしょうか。「頭のてっぺんから足の先まで」をモットーに毎年1万人以上の患者さんと向き合う、芝大門いまづクリニックの今津嘉宏先生にお話を伺いました。

気持ちがゆるみ始めた2022年の秋から患者が増えている

2022年の秋以降、今津先生のクリニックには患者さんが増えているそうです。

「感染リスクの高かった今年の春までは、皆さんピリピリと気を張って、不調にも気づかず頑張っていたのですね。それが、流行の株が変わり重症化リスクが下がった夏くらいから、気持ちが緩みはじめました。皆さんコロナにある程度慣れて、ふっと力を抜いた瞬間、自分の不調がポロポロと見えてきた感じだと思います」

患者さんが訴える症状は、頭痛、胃もたれ、便秘、下痢、月経不順、だるさなど。中でも多い症状は、「睡眠障害」と「消化不良」であると今津先生は話します。

「特に2022年の11月くらいから、睡眠の質が悪くなった人が増えました。自覚のない人も多いのですが、6時間布団に入っていたとしても、少しの物音や寝返りで目が覚めている人や、何度もトイレで起きる、起きた後に眠れない人などは、『よく眠れている』とは言えません。深い眠りがないと、頭も体もリセットできないので疲れがたまったままになってしまいますまた、同じ時期から『食欲がない』『食べてもすぐお腹がいっぱいになってしまう』『食後に胃がもたれる』と、消化器症状を訴える人も増えている印象です」

不調の原因は、心身が受ける「ストレス」であることが多い

2022年は気候も不安定で、猛暑のあとも10月まで暑い日が続き、秋を感じることがないまま11月からいきなり冬の寒さになりました。この気温の急降下が身体に堪えた人も多かったと思いますが、「不調の原因はそれだけではない」と今津先生は指摘します。

「気温の低下と共に体調を崩した人は、今までのような“コロナ感染への恐怖”とはまた別の、身近で小さなストレスをたくさん抱えている人が多い印象です。出社の再開で満員電車に再び乗るようになったり、同僚や友人との感染リスクの捉え方の違いに悩んだり、WEBと対面のコミュニケーション方法の違いに戸惑ったり。2年かけてようやく慣れた生活スタイルがまた変わり、脳が受け取る情報量が急激に増えたことによって心と体が対応できなくなっている状態です。すると、まずは睡眠の質が悪くなっていきます。

さらに、ここ数年は人付き合いが希薄だったからか、ちょっとしたことでメンタルが傷つきやすくなっている人も多いように思います。しかも、それを相談できるような友人付き合いや飲み会・食事会などは自粛したまま……という場合は、それらのストレスを発散する時間も場所もありません。本音を我慢したり、孤独を感じたりすることが、さらにストレスを増長させているのです」

ストレスを抱えると、自分の身体の“弱い部分”に症状として現れてくる

解消できないストレスは、心にも体にも蓄積されていきます。そして、抱えきれなくなったストレスは、身体のもともと弱い部分に症状となって現れてくるのだと、今津先生は説明します。

「ストレスがかかって最初に出る症状は、その人にとって身体のいちばん弱いところであることが多いです。胃がもたれるという人は普段から胃が弱めな人。また、もともと腸が弱い人は下痢や便秘という症状が出やすく、敏感肌や乾燥肌の人は湿疹や肌荒れとなって出てきます」

また、「プレッシャーのかかる場面では胃がキリキリする」、「緊張するとお腹がゴロゴロ鳴る」というように、ストレスや緊張、不安などを感じたときは、胃腸にトラブルが発生することが多いですが、このメカニズムには、私たちの意思とは関係なく、体温や呼吸の維持、発汗や消化の働きなどを調節している“自律神経”が関係していると今津先生は話します。

「胃や腸は、迷走神経で脳とつながっているので、その時の脳の状態と連携しやすいのです。ちなみに迷走神経とは、自律神経のブレーキ役である副交感神経に含まれる神経。これが内臓の働きをコントロールしているので、脳がストレスを感じて自律神経のバランスが乱れると、食欲がなくなったり、緊張や不安でみぞおちのあたりに痛みを感じたり、食後に胃がもたれたり…ということが起こってしまうのです」

ストレスによる体の不調は気づきにくく、西洋薬では治りにくい

ストレスが積み重なり、身体の症状となって現れてきた場合、やっかいなのは「それがストレスによる不調だと気づかないこと」であると今津先生は話します。

「自分にストレスがかかっていることを自覚するのは難しいですし、身体の症状がストレスによるものだとはなかなか気づかないものです。ですから、頭痛がするから脳神経外科へ、目の奥が痛いから眼科、胃腸に不具合があるから胃腸科など、それぞれの専門病院へ行く方が多い。そこで検査をしたけれど異常はなかった、原因がわからない…と、困ってから来る患者さんが後を絶ちません。ストレスで自律神経のバランスを崩すことにより、身体には多様な症状が出るということを、ぜひ覚えていてほしいと思います」

そのような、「検査しても悪いところはないが、痛みや違和感は現れている状態」について、「西洋医学的なアプローチでは治療が難しいときほど、漢方薬の出番」であると今津先生は強調します。「漢方医は症状を診るだけでなく、その原因がどこにあるのかを診て、薬を処方します。漢方薬はつらい不調を根本から改善するのが得意なのです」

以下、先生におすすめの漢方薬をお聞きしました。

ストレスによる体の不調におすすめの漢方

メンタルの不調は、気・血・水(き・けつ・すい)の「気」の異常(気虚・気滞・気逆)が原因と考えます。
気とは、目には見えない生命エネルギーのこと。「元気」や「気力」、そのエネルギーを作り出す「消化機能」のことを指す場合もあります。

気虚

気が足りなくなる「ガス欠」のような状態です。消化機能が衰えて、エネルギー不足になり、疲労や倦怠感を覚えます。エネルギーを補うため、人参の入った漢方を用います。

もうちょっと効果を高める場合は「参耆剤」(じんぎざい)を使います。人参と黄耆(おうぎ)を含み、強力な補気作用があります。

気滞

エネルギーがうまく循環せず、気が停滞してしまう状態です。胃がパンパンに張ったり、ガス腹になったりし、食欲が落ちます。その気をため込むと、怒りになったり、驚きになったり、不安になったり、落ち込んだりもします。
処方では、エネルギーが破裂しそうな場合は鎮めて、落ち込んでいる場合は引き上げるというように、真反対のことをしなくてはなりません。こういうときは「柴胡(さいこ)」を主な配合成分とする「柴胡剤」を使います。

(症状が軽い→重い順)

このほか、イライラが強い人は以下の漢方薬もおすすめです。

血のうっ滞を改善し、流れを改善する効果のある、「駆瘀血剤」(くおけつざい)も使えます。

気逆

気エネルギーが、体の上から流れて足の末端まで行き、また戻ってこなければいけないのに、循環せず逆流してしまう状態。頭痛、めまい、冷えのぼせ、げっぷ、喉のつまりなどがおきます。こんなときは、気の流れをよくする効果のある「桂枝」(シナモン)が入っているものを使います。また、下の2つはいずれも甘草を含みますが、甘草には甘みがあり、精神的なストレスをとる、ホッとする効果もあります。

半夏厚朴湯は「気滞」の薬ですが、気逆の治療にも使います。「蘇葉」=赤シソが入っており、気の巡りをよくするといわれています。

コロナ禍が長く続いてきたこと、また生活スタイルが刻々と変化していることで現れてきた不調には、今回の「ストレス」のほかにも原因が考えられるそう。次回は、その原因と対策について、引き続き今津先生にお話を伺います。

参考
  • 今津嘉宏:仕事に効く漢方診断, 星海社, 東京, 2016
  • 今津嘉宏:健康保険が使える漢方薬の事典, つちや書店, 東京, 2022

今津嘉宏(いまづ よしひろ)先生
芝大門いまづクリニック院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。日本がん治療認定医機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。

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