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「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会2023」コロナ以降の医療におけるフレイル等の課題と漢方薬の必要性

公開日:2024.04.11
カテゴリー:漢方ニュース

2024年2月19日(月)、KKRホテル東京にて「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会2023」が開催されました。
「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会(以下、ビジョン研)は日本東洋医学会と日本漢方生薬製剤協会の共催で2016年8月に発足。超高齢社会の日本における国民の健康と医療への漢方の継続的な貢献のため、より一層の漢方医学の研究・教育の推進、さらには漢方製剤等の有効性・安全性・品質に係わるエビデンスの集積、原料生薬の安定確保、製品の安定供給等、さまざまな課題解決を目的に掲げ、日々取り組んでいます。
ビジョン研は毎年開催されており、8回目となった今年は「コロナ後の医療における課題と漢方薬の必要性」がテーマとして取り上げられました。

伝統医学における東アジアのリーダーとの自覚を持って進む

会の冒頭では、日本東洋医学会 会長の三谷和男先生より、研究会提言に基づく進捗報告がありました。同提言は、がん領域、高齢者医療、品質確保と安定供給等、漢方医療を取り巻く課題と対応策に関する内容を取りまとめたものです。2017年3月17日に発表後、提言に基づく研究会の開催において議論を重ねるうち、漢方薬の必要性がより一層見直されてきている現状を踏まえ、2021年2月に更新が行われました。

まず教育という側面からは、日本全国82の大学医学部・医科大学において漢方医学の講義が実施され、医歯薬および看護の各学問分野における漢方医学教育の教育モデルコアカリキュラムの策定が進められる中、医師国家試験への漢方医学の出題要望書を厚生労働省へ提出したこと等が報告されました。
次に、日本東洋医学会が主導で実施した研究として、COVID-19患者に対する漢方薬投与に関する多施設ランダム化比較試験における漢方薬の治療結果が示されました。このほか、2024年1月1日発生の能登半島地震において、避難所での体調管理への漢方の活用や適正使用についての提案を、ホームページから行ったことも報告されました。
また、研究者への追い風となる出来事として、機関英文誌『Traditional & Kampo Medicine』の国際展開等により、漢方医学の業績が研究者の国際的価値(インパクトファクター、引用数増)向上に寄与しやすくなったこと、さらに、日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development; AMED)に公募演題が採択された件が報告されました。
最後に、オックスフォードで2023年9月に開催された、日本漢方の国際的なシンポジウム(the 6th ISJKM(International Symposium for Japanese Kampo Medicine))に日本東洋医学会 会長として招待された経験等を踏まえたうえで、「東アジアの伝統医学のリーダーは日本という自覚を持って進んでいく」と締めくくりました。

超高齢社会における新たなフレイルの尺度と漢方薬の可能性

続いての講演は、ビジョン研世話人で、東北大学病院 総合地域医療教育支援部・漢方内科 特命教授の髙山真先生を座長に、3名の先生方が演者として登壇しました。

中央大学保健センター教授 石田和之先生は「日本東洋医学会提言書検討委員会 漢方フレイルスコア」と題し、ビジョン研の提言実現に向け、日本東洋医学会が組織した提言書検討委員会・政策提言委員会の活動について紹介しました。
同学会が策定・提案した「漢方フレイルスコア」は、フレイルに関する取り組みにおける、臨床での治療効果の評価スケールです。その目的は、①フレイルに対する各種漢方薬の有効性を検証する症例集積研究のための指標とする、②フレイル治療として、高齢者1人1人の証に最適な漢方薬を選択するための治療ガイドラインの作成も目標とする、の二点です。また、同スコアは「特殊な機器・設備を必要とせず、どのような規模の施設においても利用可能な統一的指標とする」ことも条件としています。
石田先生の発表に対し、座長の髙山先生は「古くから概念として用いられてきた虚証という考え方をスコア化した非常に画期的な取り組み」とコメントしました。

続いて「補腎剤の抗フレイル効果-from bench to bedside-」と題した、大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授 萩原圭祐先生による講演が行われました。
萩原先生はCOVID-19によりフレイル患者が増加したことや超高齢社会におけるフレイル対策が急務であること、また、漢方の古典にフレイルに相当する記載があること等に言及。そのうえで、牛車腎気丸に関する自身の研究について発表しました。
具体的には、漢方の腎虚概念に基づく新たなフレイル判定・薬効評価の尺度(Japan Frailty Scale:JFS)の開発、および、JFSを用いた牛車腎気丸の抗フレイル効果について、現時点で良好な研究結果が得られていることを報告しました。また、今後もさらなる牛車腎気丸の抗フレイル効果のエビデンスを蓄積し、フレイル対策に貢献したいとの考えを述べました。

最後が、東京大学大学院医学系研究科 老年病学 准教授 小川純人先生による、演題「サルコペニア・フレイルに対する漢方薬補剤の可能性」です。
小川先生は講演の冒頭、フレイル対策に向けた漢方として、特に補剤の中でも今回は補中益気湯を取り上げると言明。続けて、わが国における要介護、要支援の要因としてフレイルが非常に大きな要素を占めていることを指摘し、補中益気湯による各種フレイル症状の改善にかかわる研究結果を紹介しました。具体的には、補中益気湯の投与により、テストステロンの分泌促進、骨格筋萎縮の改善、抗インフルエンザウイルス作用、NK(ニューキノロン)細胞活性の低下抑制などが示唆されたと報告しました。

フレイルへの漢方活用推進および国産生薬の安定供給に向けた提言

講演終了後のディスカッションでは、医療医薬の関係団体、研究機関、アカデミアに所属する先生方から、それぞれの分野における知見に基づいた発言や意見交換がなされました。

そうした中、富山大学和漢医薬学総合研究所 副所長・教授の東田千尋先生は、フレイルが複数の臓器にかかわる複雑な病態である点を指摘したうえで、多成分系の漢方薬であっても、その薬物動態を明確化することは基礎研究において非常に重要であるとの考えを示しました。実際、人参養栄湯(にんじんようえいとう)や五味子(ごみし)などを用いた試験が行われていることを例に挙げ、そうしたデータを積み重ねることが、フレイルに漢方が使われていく要因になるだろうと述べました。

レギュラトリーサイエンス(※)に携わる立場にある、国立医薬品食品衛生研究所 生薬部 部長の伊藤美千穂先生からは、効能効果の読み替えに関する研究についての報告がありました。
同研究では、フレイルという言葉自体が効能効果として認められるための準備も進めているとしたうえで、これが実現すれば漢方処方がより使いやすくなる等のメリットを挙げつつ、「臨床の場にいる先生方にもぜひご支援いただきたい」と発言しました。

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 薬用植物資源研究センター センター長の吉松嘉代先生は、ビジョン研の提言の柱のひとつ「漢方製剤等の品質確保と安定供給に向けた取り組み」を研究対象としている立場から、原料生薬の供給実態ならびに問題点を報告しました。
日本における原料生薬の自給率はここ10年変わらず10%程度と低く、栽培を海外に依存しているため種苗自体が少ない、篤農家と呼ばれる栽培のプロが高齢化し後継者も不足している、などの課題を抱えています。そうした厳しい実態に加え、最も大きな問題として吉松先生は、「生薬栽培のみでは農家の経営が成り立たないこと」を指摘し、農林水産省をはじめとした国としての国内生薬生産への法整備等の取り組みの必要性を訴えました。

(※)科学的知見と、規制などの行政施策・措置との間の橋渡しとなる科学。

漢方薬の更なる貢献には国家、国民による支援も重要

研究会終了後に開催された報道関係者を対象とした記者会見では、「天然物の多成分系である漢方薬の作用のメカニズムについてエビデンスを得ていくには?」という旨の質問に対し、国立医薬品食品衛生研究所 名誉所長の合田幸弘先生は、漢方など、いわゆる天然物の医薬品についても、新規の効能効果を取るための臨床研究が実施できるような仕組みづくりが重要とし、その障壁となる薬価の問題にも触れつつ、ある一定レベルの臨床研究で結果を出せば、新しい効能が明確に認められるという国としてのルール制定が最も重要だろうと締めました。

また、「本講演にてフレイル、サルコペニアの改善に対する漢方薬の可能性が示されたが今後の研究の出口・目標設定は?」旨の質問に対し、総合司会・代表世話人であり、東京都健康長寿医療センター理事長ならびに国立長寿医療研究センター理事長特任補佐である鳥羽研二先生は、厚労省のデータヘルス計画でも取り上げているポリファーマシーの問題に触れ、「10剤以上併用のスーパーポリファーマシーの場合、およそ2割の方に薬物による有害作用が出るとされるが、エビデンスを得るための臨床試験等は実施されていない状況であり、複数の効能が一剤でまかなえる漢方薬の普及は、ポリファーマシー対策という面でも有用。そうした事実に対し、国民や政治家がより高い価値を見出すことで普及が促進されていく、それが私の最終的な目標」と述べました。

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