いまづ先生の漢方講座 Vol.5 マスクの下のニキビに悩む女性

[病気と漢方] 2021/01/29

 「頭のてっぺんから、足の先まで」をモットーに、外科医としての経験も活かしながら、さまざまな症状に悩む患者さんの診察にあたっている今津嘉宏先生。シリーズ「いまづ先生の漢方講座」では、多くの人が気になる病気や症状に対する漢方薬の使い方について、実例を挙げながら解説していただきます。

Case4マスクの下のニキビに悩む女性

 いまやマスクは、人前に出るときに必ずといっていいほど着けているもの。もはや肌の一部ともいえるのではないでしょうか。当初の目的は感染予防でしたが、現在では、周りへの配慮や、自分自身の精神的不安を和らげる側面もあるでしょう。昨年は梅雨の長雨から解放された後は猛暑が続き、秋に入っても体調不良を訴える方が多くおられました。そのような中、30歳代の女性が来院されました。

マスクの下のニキビに悩む女性

思春期の頃にはなかったのですが、withコロナの生活になって、マスクの下にニキビができるようになってしまいました

皮膚科を受診したところステロイド軟膏が処方されたのですが、副作用があると説明されて、何だか塗るのが怖くて…

 ステロイド(副腎皮質ホルモン)薬は、皮膚疾患に用いられる代表的薬剤です。皮膚の炎症を改善する作用があるため、自己免疫疾患から虫刺されまで、守備範囲の広い薬剤です。確かに副作用もありますが、治療効果が高く、マスクによる皮膚炎に効果的です。しかし、治療効果を理解する前に、副作用の話を聞いてしまうと心配になってしまう方が多い薬剤でもあります。

テレビで、肌に漢方薬が良いと言っていたので…

 新聞やテレビで漢方薬が宣伝されると、試しに購入する方がいらっしゃいます。また、友人から“あなたの症状は私と同じだから、これを使ってみては?”と漢方薬を譲り受ける方もいらっしゃいます。どちらも、なかなかの勇気をお持ちと感心するやら心配になるやら。

知らない漢方薬を使って何かあったら、と心配でお伺いしました

 確かに顔の肌のトラブルは、女性にとって大問題です。そこで、マスクを外して肌の状態を見せていただきました。診察するときは、地肌の状態を観察する必要があります。しかし女性の場合、化粧がその妨げになる場合が多いため、髪の生え際や耳の後ろなどまで見せていただきます。マスクを取った彼女の顔は、クッキリとマスクの形に肌が紅(あか)くなっていました。

女性の診断

 皮膚は、防護服の役割を担っています。防水加工がされていますし、外敵から身体を守ってくれます。皮膚が紅くなっているのは、炎症を起こしているからです。この炎症の原因が、皮膚の外側からくるものなのか、皮膚の内側からくるものなのか、考える必要があります。

 例えば、髪の生え際や耳の後ろが紅くなっていたり、湿疹が出ていたりするときは、シャンプーやリンスなど、髪を洗うときに使うものに関係することが多く、赤みが顔全体に広がる場合は、顔に使うものに関係することが多くあります。男性の場合は、ひげ剃りの範囲に関係があったり、女性の場合は、月経周期と関係があったりすることもあります。

 この女性の場合は、3つの原因が考えられます。

 1つめは、マスクの素材や化粧品による接触性皮膚炎です。マスクの素材には、ガーゼ、不織布などが使われています。そのうち不織布は、化学繊維と呼ばれる化学薬品から作られています。多くの化粧品も同様に化学薬品からできています。それらが肌に触れると、人によっては皮膚炎の原因となります。

 2つめは、高温多湿というマスク内の環境による変化です。皮膚には常在菌が存在しますので、環境の変化で常在菌の状態が変化し皮膚炎の原因となります。

 3つめは、マスクの摩擦による擦過傷です。物理的な刺激が皮膚炎の原因となります。

女性の治療

 女性のマスクの下の皮膚炎は、マスクの素材による接触性皮膚炎だと判断しました。マスクは冬の乾燥した空気から肌を守ってくれます。しかし、高温多湿の気候でのマスクの使用は、肌のコンディションを乱すことにつながり、さらに汗と化粧品による刺激が加わると、炎症を起こすこともあります。

 顔の皮膚(角層)は、約2週間ではがれ落ち、再生しますので、化粧をしばらく控えることが近道です。日中、こまめにガーゼを変えるなどして、マスクの下を清潔に保ちます。帰宅後、弱いステロイド薬を塗り、朝になったらよく洗い流せば、3~4日で発赤が消えていきます。ステロイド薬の副作用が心配な方には、この方法をおすすめしています。

 しかし、彼女の場合は、ステロイドに恐怖感があるため、その方法でも使うことができませんでした。そのため、湿疹・皮膚炎に効果がある黄連解毒湯(おうれんげどくとう) を2週間分、処方させていただいたのです。

 9月に入ったある日、マスク姿の彼女が再度来院されました。

紅色が数日で薄くなってきましたので、ホッとしました。これまではマスクについた汗と化粧品が肌への刺激になってしまっていたと思います。教えていただいたとおりマスクの下にガーゼを入れてこまめに変えるようにしたら、ほとんど気にならなくなりました

 と笑顔でお帰りになりました。

漢方から見た皮膚炎の治療

 「皮膚は内臓の鏡」と言われるように、糖尿病、高尿酸血症、高脂血症などの生活習慣病から自己免疫疾患、悪性腫瘍など、様々な病気が原因で皮膚に症状が現れます。

 漢方医学で皮膚の治療をする場合は、六病位(ろくびょうい)を活用します。六病位とは、熱性(熱を帯びる)の病気の進行の変化の概念で、病気の経過を6つの段階(ステージ)に分けて考えます。大きくは「生命力が十分にあり、体が熱を出して病邪(病気)と戦っている「陽病」から、生命力が弱り、病邪が体内に入って悪寒を引き起こしている「陰病」の状態に進み、悪化していくと考えられています。さらに、それらはそれぞれ3つの段階に分けられます(図)。

図 六病位(病期の経過の6つの段階)

六病位で使われる漢方

 皮膚に炎症が起こると、発赤、腫脹、発熱などが起こります。このとき、炎症を引き起こす体内物質は、皮膚表面だけでなく、体全体で様々な変化を起こしています。この状態が、六病位の第1ステージの太陽病です。ここでは、身体をあたため、汗をかかせる効果をもつ麻黄(まおう)を含む葛根湯などを用います。服用後、24~72時間経過すると、炎症を引き起こす体内物質の働きは落ち着き、同時に皮膚の炎症も落ち着きますが、治癒する場合と、消化器系を中心に不安定な状態が続く場合があります。後者の時期が「少陽病」となります。少陽病には、体にたまった熱を冷ます効果を持つ柴胡剤(さいこざい)や、利水剤などを用います。その後、炎症を引き起こす体内物質に対抗する体内物質の働きによって、皮膚の炎症は落ち着いてきますが、ここでも治癒しない場合は、体の中が依然不安定な状態であると考えられます。この期間が、「陽明病」から「太陰病」の時期です。陽明病や太陰病では、体をあたためながら解毒する効果のある荊芥(けいがい)や防風(ぼうふう)を含む漢方薬を用います。慢性的な皮膚の変化は、炎症を引き起こす体内物質とそれに対抗する体内物質のアンバランスがきっかけになって起こります。そこからさらに、徐々に回復へ向かう「少陰病」と、悪化していく「厥陰病(けついんびょう)」へと分かれていきます。少陰病と厥陰病では、不安定となった体をもとに戻すために気血水を整える漢方薬を用います。

今津嘉宏(いまづ よしひろ)先生
芝大門いまづクリニック院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。日本がん治療認定機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。

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