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季節の養生 冬 腹八分目が健康の秘訣

公開日:2020.12.25
カテゴリー:病気と漢方

 寒さも本格的になった師走。多忙な年末は肉体的・精神的に疲れやストレスがたまりやすいもの。暴飲暴食を抑えられない方も多いのではないでしょうか。出かけることもままならない状況では、年始もずっと家で飲んだり食べたり…となってしまうのも想像にかたくありません。

 人類の長い歴史を振り返ると、飢餓との戦いだった時代が長く、現代のような食糧に満ちあふれている時代はまだまだ短いものです。そのためヒトの体は飢餓に対しては対応できるものの、食べ過ぎや飲み過ぎには対応できないままでいます。飲食物は体と心を作るためにとても大事なものですが、過ぎると私たちに害をも与えてしまいます。生活習慣病も、飽食の時代ならではの病気だといえます。

江戸時代の書物から見る腹八分目のすすめ

貝原益軒(かいばらえきけん):江戸時代初期から中期にかけての儒学者で医師
『養生訓』で養生は脾胃(ひい)、すなわち胃腸からとし、腹八分目、少食の効用からそれらを心がけるべきだと説いています。「食べ過ぎると脾胃を傷つけ諸病を引き起こす」「少しの量を食すると脾胃に隙間ができ気が巡りやすくなり消化がしやすくなる」と記しています。
横井也有(よこいやゆう):江戸時代中期の儒学者で俳人
『健康十訓』で少食多噛(しょうしょくたぎょう)を推奨しています。少ない量をたくさん噛んで食べることが健康のひとつであると説いています。

 どちらも「食事は大事だが、少ないと思うくらいの量を食べるのが健康を維持するのに必要」と説いています。また両者ともに当時としては長寿といえる80歳を超え生きたことからも、身をもってそれらの効果を示したと考えられます。

年末年始の養生

疲れを残さずエネルギーを蓄える

 冬は寒さから血行が悪くなり、エネルギーの消耗が激しくなるため、あまり活発にならないことがよいとされています。クマなどは冬眠をして春になるのを待っていることが知られていますが、我々はそうはいきません。自分自身で体を冷やさず、エネルギーを消耗しないよう注意しましょう。エネルギーを蓄えるための保湿や防寒、栄養と睡眠時間の確保も大切です。

ストレスをためない

 行事や帰省などの多忙や人間関係の気遣いが続く年末年始。たまったストレスが暴飲暴食や体内時計のずれを引き起こし、さらなるストレスを生むこともあります。朝起きてすぐ朝日を浴びると体内時計が調節しやすくなります。また、寒いと出かけるのが億劫になりがちですが、暖かくして散歩をするだけでも気分転換になります。自分なりのリラックス方法を見つけ、過ごしやすい環境づくりをしていきましょう。

消化を促すために温める

 脾胃は冷たいものに弱いという性質があります。胃腸の調子が悪いときは、生ものなど冷たいものは控えた方がよいでしょう。加熱した温かいものがおすすめです。お腹やお尻を温めることを心がけ、温かい朝食を食した後は湯船に浸かり体を内側から温めましょう。
 

消化を促すために水分を停滞させない

 脾胃は体の水分を運ぶ働きもあるため、不調になると体に余分な水分が停滞し、痰が出てむくみやすくなります。つまり水分の過剰な摂取も脾胃に負担をかけてしまうことになります。脾胃に水分が停滞している状態は漢方用語で「胃内停水(いないていすい)」と呼ばれます。寝返りを打ったときに胃のあたりでポチャポチャという音がする、などはそれにあたります。水分は摂り過ぎないよう注意しましょう。

この季節に役立つ食材

疲れを改善しエネルギーを蓄える食材
  • 皮の黒い食材:ヤマイモ サトイモ ごぼう
  • 塩分のある黒い食材:しじみ 昆布 ひじき
  • 黒い食材:黒ゴマ 黒くらげ 黒豆 黒米
脾胃を温める食材
さんざし
山査子(さんざし)

 山査子(さんざし) みかんの皮  フェンネル(ハーブの一種) シソの葉  麦芽(麦芽製品でも可) だいこん

胃に優しい生薬を「お屠蘇」でいただく

お屠蘇

 これから迎えるお正月の風物詩である「お屠蘇(とそ)」は、健康と長寿を願い継承されている健康行事であり、そのときにいただくお酒を指します。お屠蘇に含まれる生薬(しょうやく)には、体を温め、消化を助ける、かぜの予防や食べ過ぎ防止といった健康維持に役立つものも多くあります。

 お屠蘇は、中国の漢の時代の名医、華佗(かだ)が考案したといわれています。屠蘇には「蘇」という病気や災をもたらす鬼を「屠(ほふ)る」という意味が込められているという説や、邪気を屠(ほふ)り心身を蘇(よみがえ)らせるという説など諸説ありますが、元来、「疫病を予防する」という意味に由来しているようです。

 日本に伝来したのは平安時代初期(嵯峨天皇の時代)だといわれています。病気予防のまじないとして宮中の儀式として採用され、江戸時代には一般庶民に広がったとされています。
 かつては生薬を赤い三角形の絹の袋に入れ、除夜に井戸の内側へ吊るし、元旦に取り出して酒の中に入れお屠蘇を作りました。現代では早朝に生薬を日本酒やみりんに浸すのでよいでしょう。年少者から順に年長者へと飲めば、一年中病気から逃れることができるといわれています。
 元来は大黄(だいおう)、烏頭(うず)など効果や作用の激しい生薬を含むものもありましたが、その後戦国時代に活躍した医師・曲直瀬道三(まなせどうさん)による、オケラ、キキョウ、サンショウ、ボウフウ、ケイシの5種類の配合が主流となりました。

 現在はさまざまな生薬がパックに入った「屠蘇散(とそさん)」が薬局などで販売されているので、手軽に試すことができます。胃をいたわる生薬が入ったお屠蘇で、今年1年の家族の健康を願ってみてはいかがでしょうか。

参考
  1. 王元武ほか. 薬酒の中医学的考察(III) -日本薬酒の特徴-, 日東洋医誌 1991: 41(4); 241-262
緒方千秋(おがた・ちあき)先生
北里大学東洋医学総合研究所 広報・医療相談室室長、薬剤師。

北里大学薬学部を卒業、1年半医療機器メーカーに勤務後、現・北里大学東洋医学総合研究所薬剤部にて30年間、生薬を用いた漢方薬の調剤に携わり、様々な生薬に触れ、また多くの患者様と接してきました。その経験を活かし、現在広報・医療相談室を立ち上げ、これまで以上に患者様に向き合う漢方医療を目指しています。
子供の頃から伝統的なことが大好きで、周りからは少し変わり者扱いをされてきました。小学生で生け花をはじめ、中学生の時に師範を取得し、社会人になったのを機に茶道をはじめこちらも師範を取得しました。今も気づくと伝統医学を専門に扱う薬剤師になっています。一貫して伝統医学を重んじた生活スタイルを保っています。

北里大学東洋医学総合研究所

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