いまづ先生の漢方講座 <ビジネスパーソン編> Vol.3 冷え
現代を生きる私たちは、仕事に家事、育児と忙しい日々を送っています。最近ではさらにコロナ禍ということもあり、小さな不調を抱えつつも病院から足が遠のいている人も多いのではないでしょうか。
しかし、この慢性的な小さな不調が、あなたのさまざまなパフォーマンスの発揮を邪魔しているかもしれません。エナジードリンクやサプリメントに頼ってしまいがちな人は、これを機会に漢方の力を頼ってみてはいかがでしょうか。
3つの原因別に冷えを「治療」する漢方医学
新型コロナウイルス感染症の流行によって、私たちの生活も大きく変化しました。リモートワークの導入も増加し、プライベートでも自粛生活と、家にこもる時間が増えました。そのためか「今年はいつもより冷えが気になる」という人もいるようです。
冷えは、女性に多い悩みだと言われてきました。その理由は、体の違いにあります。人の体は魔法瓶のように熱を逃さない構造になっており、筋肉、皮下脂肪、皮膚といった袋を何層にも重ねています。女性は、男性に比べると内臓脂肪が少なく、筋肉も少ないため、体の熱が外へ逃げやすいのです。しかし、最近では、精神的ストレスや運動不足からか、男性でも冷えが気になるという人も増えています。漢方医学では、「冷え」を「冷え症」という治療対象の症状と捉え、考えられる3つの原因に合わせて薬を処方していきます。それは、水分バランスが崩れて起こる冷え、精神的なものからくる冷え、そして血の巡りが悪くて起こる冷えの3つです。
この3つのタイプには、それぞれマッチする漢方薬が用意されています。
冷えに効く漢方
水分バランスが崩れて起こる冷えについては、まずそのしくみから解説しましょう。
濡れて水分を含んだタオルは、ひんやりと冷たく感じます。それが体の中でも起こっているイメージです。こうした冷えには、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)がおすすめです。当帰芍薬散は、月経不順や月経困難症など、産婦人科領域でよく用いられています。薬理学的には、解熱・末梢血管拡張作用、血小板凝集抑制作用、免疫賦活作用などの効果があるとされています。
精神的なものからくる冷えには、加味逍遥散(かみしょうようさん)です。加味逍遥散は、「のぼせ」や「発汗」などの血管運動神経症状や精神神経症状の改善、関節痛・筋肉痛の改善、抗不安作用などの効果があります。精神的ストレスが症状に関連しているときや、月経前になるとイライラや落ち込みがある場合に効果を発揮します。即効性があるのも特徴のひとつです。
血の巡りが悪くて起こる冷えには、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)です。桂枝茯苓丸は、薬理学的にはホットフラッシュの改善や末梢血管の拡張作用、血液粘度の低下作用などがあるとされています。血の巡りの悪さは水分の停滞とともに、冷えの原因となります。また、自分では冷えているのは「手足だけ」だと感じていても、全身が冷え、巡りが悪くなっている可能性もあります。この場合は、手足だけあたためても意味がありませんので、全身をあたためる対策が必要です。
冷えが続くと、頭痛や肩こり、集中力の低下、下痢・便秘、風邪をひきやすくなるなどの免疫力の低下ほか、さまざまな不調が起こりやすくなります。
これら3つの漢方薬は女性の3大漢方薬と呼ばれ、女性に多く処方されるものですが、男性にも同じようにこれまで説明したタイプに合わせて漢方薬を処方していきます。ただ、冒頭でお話しした構造の違いは頭に入れておく必要があります。
ぜひ漢方医学を利用して冷えのない生活をしてくださいね。
今回の処方
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
加味逍遥散(かみしょうようさん)
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
- 参考
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- 今津嘉宏:仕事に効く漢方診断, 星海社, 東京, 2016
今津嘉宏(いまづ よしひろ)先生
芝大門いまづクリニック院長