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多剤併用しながら10年以上もの間、うつ状態に苦しんでいた女性

[精神科医が使って知った漢方薬の魅力「意外と効くもんだ」] 2011/08/16

多剤併用しながら10年以上もの間、うつ状態に苦しんでいた女性

 10数年前より「会社に行くのが辛い」「起きられない」と抑うつ気分に悩み続けていた40歳の女性。初診時にドグマチール、デパスの処方を受けたが、昼夜逆転や意欲低下も認められるようになり、途中からはリタリン(注:現在はうつ症状には処方不可となっている)の追加投与を受けていた。しかし、「生きているのが嫌」「死にたい」と症状は悪化し、アルコールを多飲したり、薬物を規定以上に服薬してしまうこともあった。その後、トレドミン、パキシルなどの抗うつ薬や抗不安薬・睡眠導入剤などを多剤併用するようになったが、一向に改善が見られない状況が続き、ちょうど1年ほど前に私が担当となった。
 あらためて話を伺うと、「人との距離が取れない」とのこと。社会適応がうまくいかないために前述の症状が出ている可能性が考えられたため、薬物療法のみでなく認知行動療法(「認知」や「行動」上の問題点を明確化しそれを修正することで、適応力を高めていく治療法)を導入した。3か月経過した頃に話を聞くと「認知行動療法で話すと少しは楽。でも薬は効いているのか分からないので、最近はあまり飲んでいない。」とのことだった。そして精神面が安定を見せ始めた一方で、「今は(精神面よりむしろ)体の症状の方が辛い」とのお話が出た。具体的には、むくみ、頭が重い、下痢に悩んでいるという。さらには、今まで内服していた睡眠導入剤のマイスリーのせいか、夜間に知らないうちに電話をかけているといった夢遊症状が出現していた。私は、思い切って今までの薬を全て中止し、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) とアナフラニール1錠のみを使うこととした。
 すると2週間後の再診で、「朝の気分が良くなった。生活サイクルが良くなった」と言う。職場での自分の存在価値に悩みを抱いている時であったが、認知行動療法と漢方薬を併用するようになってからは気持ちが落ち着いたようで、1か月後にはなんと転職を果たした。認知療法を自ら中止。その2か月後には「うつは治った感じ。すごく楽」と笑顔を見せるまでになった。仕事もきちんと続けている。「時々落ち込むことはあるけれど、それを自分でコントロールできるようになった。納得できない内容の仕事があっても、発想を切り替えてやり続けることができるようになった」と清々しい顔で話をしてくれる。10年以上もうつ症状に悩み、アルコール多飲、過量服薬までしていた患者さんとはとても思えない。
 今回のケースは、西洋薬だけの治療から、認知行動療法と漢方薬に変更することでうまくいった例である。まずは認知行動療法で気持ちにゆとりを持つことができるようになり、次に体の症状改善に焦点をあてた漢方薬を使用。その結果、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入剤などを多数内服していた患者さんが、漢方薬と最少量の抗うつ薬で自覚的に「うつが治った」と感じることができるようになった。
 本来、抗うつ薬は不安や焦燥感を取り除くために処方する薬である。ところが、逆にそれらを煽ってしまうアクチべーション・シンドロームが認められたり、倦怠感が見られたり、ときには睡眠導入剤(特にマイスリーなど短時間作用型)で夢遊症状が出現することがある。そのため処方後も丁寧な問診を続けることが重要である。一方で、認知行動療法と漢方薬であれば、体への負担は少なく、妙な副作用の出現もほとんどない。さらに、精神科薬に対してマイナスイメージを持つ患者さんにも受け容れられやすい。
 この患者さんは、体の症状が改善されたことで気持ちも安定してプラス思考となり、仕事をうまくこなせるようになった。このように「体と心は一体」であることを、特に女性の患者さんでは感じることが多い。抗うつ薬ばかりに頼るのではなく、漢方薬で体の症状を改善してみることで全体的な調子が上向き、結果として精神科薬を減量できるようになることは珍しくない。

小松桜(こまつ さくら) 愛世会愛誠病院・漢方外来

2000年順天堂大学卒業。順天堂医院メンタルクリニック科で2009年まで勤務。
不定愁訴や過量服薬、副作用出現の患者さんに対し、向精神薬のみでの対応では加療困難なケースもあり、漢方に興味を持った。
現在の施設で本格的に学ぶようになり、2010年より漢方外来勤務。精神科専門医。
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