漢方について相談できる病院検索 漢方について相談できる病院検索

喉のつまりをはじめ、様々な症状が出現した67歳女性

公開日:2012.03.24

喉のつまりをはじめ、様々な症状が出現した67歳女性

 社交ダンスのインストラクターをしている67歳女性。64歳の時に、眩暈、肩こり、血圧上昇、嘔気、不眠が出現したので自宅近くの心療内科を受診。ドグマチールとソラナックス、ハルシオンが処方され若干の効果が見られた。
 しかし、その翌年の夏、全身倦怠感が認められるようになり、ほどなくして、頸部のコリ、嘔気、食事摂取が困難な状態(空腹感はある)となった。採血を行うも特に異常なく、精神的なものと判断され、抗うつ薬のジェイゾロフトが処方された。
 ところが、1年たっても、状態は好転せず、逆に悪化するようになったので、私が勤務する別のメンタルクリニックを紹介受診した。受診の結果、不眠も認められたため、ジェイゾロフトをリフレックスに変更したところ、副作用で眠気が顕著となってしまったうえ、口渇も認められたため、半分量を処方し経過観察とした。その他にも、何となく喉が詰まった感じや不安感、焦燥感、微熱、眩暈など身体症状の訴えが多く、耳鼻科も受診するも異常は認められず、患者さんは途方に暮れた感じであった。
 多彩な症状の中から「喉の詰まり」をキーワードに半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) を処方したところ若干の効果が見られたが、やがて「胃がどうもスッキリしない」という訴えを。香蘇散(こうそさん) を追加してみたが「少しは良いかしらね~」とはっきりしない返答。1か月様子を見たが、芳しい返答が無いため、「もぐらたたきのように一つ一つの症状を潰していくだけではキリがない!」と考え、半夏厚朴湯を中止し、多彩な症状に加味逍遙散(かみしょうようさん) を試してみた。
 この間も、患者さんは眩暈の専門外来を受診するも結局異常は見つからず、対症療法としてアデホス、メチコバール、セファドールが処方されていた。
 香蘇散と加味逍遙散で2か月ほど経過観察をしていたところ、「何だか動悸や眩暈がなく、気分が晴れてきました」とやっと清々しい笑顔で答えが返ってきた。その翌月には「おかげさまで、とっても良い。娘と久しぶりにお酒も飲めました。家事も出来るし、旅行にまで行ってきましたよ」と本当に嬉しそうに報告してくれた。現在は、リフレックス半錠と、この2種類の漢方のみを継続している。
 薬で一旦副作用を経験すると、他の薬剤に対してもネガティブな感情を持つことが多い。この患者さんもジェイゾロフトで、元来の悪心が悪化したと訴え、他剤内服に対する拒否も強かった。リフレックスを処方する際には、「眠気以外はあまり副作用が出にくい」と何とか説得して、やっと了承を得て開始するも、眠気以外に他の身体症状の訴えも際限なく続くため、それならば、と漢方を提案してみた。すると、漢方に対しては、全く拒否せず、すんなり受け入れてもらえた。
 まず処方したのは喉の詰まりがあり、精神的な不安が強いメンタル受診患者さんに頻用される半夏厚朴湯。若干効果は見られるものの、どうも胃がすっきりしないし、微熱もあって風邪っぽいという状態だった。そこで、殆ど副作用が見られず、気が滅入り気味の患者さんに適応の香蘇散を重ねたところ胃の不快も若干は改善。加味逍遥散に変更して3か月経過した今は見違えるほど元気になり、インストラクターをしている社交ダンスのレッスンも再開した。久しぶりに耳鼻科薬をどうしているか聞いてみたところ「あら、忘れていたわ」と自分でも驚いていた。
 精神科専門の私からすると、副作用や離脱症状などを恐れてなかなか減量・中断することが困難な高薬価の抗うつ薬よりも、比較的安価で副作用の心配が少ない漢方薬で症状が改善してしまう患者さんを見ると、漢方薬の効果に感心してしまう。
 西洋薬にネガティブな患者さんでも、漢方薬であれば内服します、と言ってくれる患者さんは多い。勿論、その逆も沢山いる。立ち位置が全く違うこの二種類の薬剤を自由に使い分けて処方出来るようになったら、もっともっと楽になる患者さんが増えるだろうな、と診察していて実感する。特に女性は不定愁訴も多く、様々な科を受診するものの、異常が見られずに対症療法である西洋薬が何剤も重ねて処方されていくのを見るのはしのびない。こういう時こそ、私が漢方を学んでいる新見正則先生の言葉にあるように「森全体(体全体)を良くして木(症状のある箇所)を治す」漢方の出番だと思う。

小松桜(こまつ・さくら)先生
愛世会愛誠病院・漢方外来
2000年順天堂大学卒業。順天堂医院メンタルクリニック科で2009年まで勤務。
不定愁訴や過量服薬、副作用出現の患者さんに対し、向精神薬のみでの対応では加療困難なケースもあり、漢方に興味を持った。
現在の施設で本格的に学ぶようになり、2010年より漢方外来勤務。精神科専門医。

記事の見出し、記事内容、およびリンク先の記事内容は株式会社QLifeとしての意見・見解を示すものではありません。
記事内容・画像・リンク先に含まれる情報は、記事公開/更新時点のものです。掲載されている記事や画像等の無断転載を禁じます。

外部サイトへ移動します

リンク先のウェブサイトは株式会社QLifeが運営するものではないこと、医療関係者専用であることをご了承ください。