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夏バテにきく、食事の選び方と漢方薬

[オンコロジー(がん)専門医による漢方外来] 2011/08/23

夏バテにきく、食事の選び方と漢方薬

 蝉の声が響く夏の暑いお昼の出来事。
 外をちょっと歩くだけでシャツが身体にまとわりつく日が続いていた。午前中の仕事が一段落したので、久しぶりにのんびりとお昼ご飯をいただこうと一人で近くの蕎麦屋を訪れた。ここには20年以上前から通っているので、仲居さんとも顔見知りだ。

近くの蕎麦屋で・・・

わたし
「店の中は冷房が効いていて涼しいですね」
仲居さん
「そうですねぇ。震災以来、節電、節電で少し設定温度は高めですが、外に比べたら涼しいですよ」
わたし
「さて、この時期は夏蕎麦が出るから楽しみにしてきたんだけれど」
仲居さん
「えぇ、美味しい蕎麦が出来ていますよ」
わたし
「では、盛り蕎麦にしましょう。蕎麦の香りを楽しみたいですから」


 蕎麦が運ばれてくるまで、店の中を見渡してみる。ついつい癖で、お客さんの様子を見ながら時間つぶしに漢方診断をしてしまう。店の隅で壁側に座っている痩せた老人。一人静かにおろし蕎麦を食べている。白髪で薄上着を羽織ってゆっくりと蕎麦をすすっているこの老人は、「寒」証だろう。店の中央の席に座っている太めのサラリーマン。カレー南蛮に七味辛子をかけながら、はねを気にする素振りも見せずに勢いよく食べている。背広姿の大きな背中に汗じみが浮かんでいる様子を見ると、「熱」証と診断した。
 この「寒熱」という漢方理論は西洋医学にはないが、日常生活ではよく用いられている考え方だ。例えば、風邪を引いて熱があるときには氷枕で頭を冷やしたり、寒いときに暖かいスープを飲んだりする。同じように、寒証の人が体調を整えるためには、温かい蕎麦をいただいたほうが良いし、熱証の人は冷たいものを選んだ方が良い。

わたし
「夏蕎麦、美味しいかったですよ」
仲居さん
「ありがとうございます。夏は『蕎麦に西瓜』※1と言って、スイカ好きの方には敬遠されそうで、蕎麦屋としては困ることがありますけれど、暑い時期にお蕎麦※2は口当たりが良いですよね」
わたし
「そうそう、『蕎麦食ったら、腹あぶれ』※3とも言いますが、冷たいおそばの後にはそば湯をいただいて、お腹を温めてあげるといいんですよ」
仲居さん
「はい。ぜひ『蕎麦の花が咲けば、鮎が下りはじめる』までに、またお越しくださいね」
わたし
「ええ、8月中にまたお邪魔しますよ」


※1 食に関する伝承のひとつ。食べ合わせが悪いと言われていた。
※2 蕎麦は、ルチン、コリン、ビタミンE、ビタミンB、D-カイロイノシトールなどを含む(全国蕎麦製粉協同組合)。とくにルチンは高血圧を予防する効果、また毛細血管を強化する効果があるといわれ、トリプシンとブロメラインを組み合わせて変形性関節症に有効性が示唆されている(独立行政法人国立健康・栄養研究所「健康食品」の安全性・有効性情報)。
※3 諺のひとつ。冷たい蕎麦を食べると体が冷え切ってしまうので、温めろ、ということ。

 夏の暑い時期には、食べ方を工夫する必要がある。冷たいものを摂り過ぎると消化管を冷やしてしまい、寒証となる。食欲が湧かず、気力も体力も衰えてくるのが夏バテだ。そんなときは消化管を温めてあげると良い。例えば、温かいお茶やスープを飲んで消化管を温めてから食事を開始する。ほんのちょっとしたいたわりで夏バテも解消することが出来る。また、メニューを選ぶときもひと工夫する。夏野菜は、身体を冷やす効果があり、冬野菜は、身体を温める効果がある。体調と季節に合わせて食材を選ぶのがポイントである。
 夏バテの漢方薬としては、「清暑益気湯(せいしょえっきとう) 」が使われる。古典『医学六要』※4に「夏月無病、宜服補剤」とあり、また、『内外傷弁惑論』※5には、「長夏、湿熱大勝、人これに感じ、四肢困倦、身熱心煩、小便少なく、大便溏し、あるいは渇し、あるいは渇せず。飲食を思わず、自汗するを治す。」とある。体調管理をするには、食事にこだわり、優しく漢方薬に手助けしてもらうのが良いだろう。

※4 いがくろくよう:明(1368〜1662)の張三錫による。
※5 ないがいしょうべんわくろん:南宋(1127〜1279)の李東垣による。

まとめ

  1. 「寒熱」の観点から体調を考える。
  2. 季節の食材をうまく取り入れて、健康を保つ。
  3. 清暑益気湯は「暑気あたり、暑さによる食欲不振・下痢(泄瀉)・全身倦怠、夏やせ(注夏病)、日射病、熱射病、夏まけなど」に適応。

今津嘉宏(いまづ よしひろ) 北里大学薬学部・薬学教育研究センター 社会薬学部門

1988年藤田保健衛生大卒、慶應義塾大学医学部外科学教室入局
東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センターを経て11年4月より現職。外科医の父の戸棚に漢方関係の本が並んでいたのがきっかけで、がん治療に漢方を活用するようになった。
がん治療認定医機構暫定教育医・外科学会指導医・消化器内視鏡学会指導医・東洋医学会指導医など
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