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パニック障害の陰で、ずっと続いていた微熱に悩んでいた女性

[精神科医が使って知った漢方薬の魅力「意外と効くもんだ」] 2011/10/18

パニック障害の陰で、ずっと続いていた微熱に悩んでいた女性

 10数年前から不眠、不安、食欲低下、乗り物が怖いなどの症状が出て精神科に通院している42歳の小柄な女性。最初は近所の診療所でパニック障害と診断され、ドグマチール、ソラナックス、レンドルミンを処方されたそうだ。ところが変化が見られず、逆に眩暈(めまい)や動悸が出てくるようになってしまった。そこでアモキサンやトレドミンの追加投与も受けたが、何も効果がみられないため、私が勤務しているメンタルクリニックへ移ってきたという患者さんだった。
 移ってきたのは初診から数えて2年経過後。それまでの薬をぜんぶ止めてパキシルへ変更し、かつ増量をした結果、若干の改善傾向が見られた。その後は、パキシルと、頓用(症状が出たとき、あるいはひどいときに一時的に用いること)としてソラナックスを組み合わせることで、7年間をある程度安定してすごしていた。そして2年ほど前に、私が主治医になったのだ。
 担当が変わった当初から受け答えが落ち着いている患者さんだったので、パキシルを減量しつつ様子を見ていた。すると2ヶ月経った頃に、ぽつりと打ち明けてきた。「先生。精神科で言っても仕方ないと思って、これまで話したことはなかったんですが、実は微熱がずっと続いているんです。身体がだるくて、特に生理の時は本当に辛いんです」と。辛いというわりには、表情はいつもと変わらない。不調を顔に出さない患者さんだと、精神科診療で身体の変化に気づいてあげるのは難しい。私も全く感づいていなかった。
 症状改善のため、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう) を投与した。すると1ヶ月後には「飲み始めて段々元気になりました。微熱もすっかりとれました。すごく動けるようになってビックリです」と笑顔。半年が経過した頃には「漢方って良いですね。姑の介護も、体が動くから頑張れるし、一言一言にイライラと反応せずに穏やかに過ごせます」としみじみ話をしてくれた。更にそれから4ヶ月後には、「そういえば、生理の時もだるさなく動くことができます」と快調さを語り、「飲み忘れても微熱も出ないし、テキパキ動けます」と自分から柴胡桂枝乾姜湯を減量していってしまった。開始してから1年2ヶ月で、とうとう漢方薬は完全に止めてしまったが、その後も元気に過ごすことができている。一方のパキシルも、もう一段階の減量に成功した。パキシルは離脱症状が出やすく減量が難しいことを考えると、立派な変化だ。
 10年間も崩れたままであった身体のバランスを、漢方薬で改善後は、薬を中止しても良好に維持できている。かつて微熱があって、ぐったりしていた人とは別人のようだ。根本的な体質改善のお役に立ったのだろうと思うと、嬉しい。
 柴胡桂枝乾姜湯は柴胡(さいこ)剤であり、精神面にも大きく作用する。不安やイライラを改善し嫁姑間のあつれきも解消してくれた可能性もある。「漢方って、私たち精神科医の精神療法よりも、もしかしたら効果があるんじゃないかしら」と漢方薬に嫉妬を覚えた一例である。
 精神科に通う患者さんは、身体症状の訴え方が極端であることが多い。症状を細かく切々と話してきて毎回「それは他科に診察してもらってきて下さいね」と伝えなければいけないタイプと、「精神科で身体のことを話しても意味ないだろう」と最初から一切話さない真逆のタイプである。今回の患者さんは後者。ところが私も、漢方薬を使うようになってからは自然と患者さんの身体面の調子を気にかけるようになり、精神症状とあわせて治療にあたるケースもある。今後も細かく体調面までフォローした、丁寧な治療を心がけていこうと思っている。

小松桜(こまつ さくら) 愛世会愛誠病院・漢方外来

2000年順天堂大学卒業。順天堂医院メンタルクリニック科で2009年まで勤務。
不定愁訴や過量服薬、副作用出現の患者さんに対し、向精神薬のみでの対応では加療困難なケースもあり、漢方に興味を持った。
現在の施設で本格的に学ぶようになり、2010年より漢方外来勤務。精神科専門医。
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