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外科におけるサルコペニアと栄養、漢方の意義とは

公開日:2020.03.25
カテゴリー:漢方ニュース

 「和漢薬の資源、品質管理、作用機序、臨床研究などについて科学的視点から最新の知見を討議し、基礎と臨床の橋渡しをすること」を目的に掲げる和漢医薬学会。その第36回学術大会が2019年8月に富山県で開催されました。その中で、京都大学肝胆膵移植外科・臓器移植医療部 准教授(現:聖路加国際病院消化器・一般外科部長)の海道利実先生が「外科におけるサルコペニアと栄養、漢方の意義」というテーマでセミナーを行いました。

肝移植患者さんの状態に合わせたオーダーメイドの栄養療法を

 海道先生が日頃臨床で接する患者さんは、難治例で、健康な身体を維持するための必要な栄養素が足りていない状態(低栄養)の患者さんが多いといいます。そういった患者さんの場合、手術自体が成功しても術後の管理が難しいケースも少なくありません。肝移植における課題は「移植後短期成績の向上」です。短期成績の向上を妨げている要因として問題となるのが術後の感染症です。海道先生らの調査から、術後感染症発症の独立した危険因子として、術前の低栄養が挙げられました。

 この結果から、術後の感染症予防のためには、手術前からの栄養管理が重要であることがわかりました。肝移植の患者さんといっても、手術前の栄養状態は人によってさまざまです。そこで、画一的ではない栄養療法、患者さん一人ひとりの栄養状態を考慮したオーダーメイド型の栄養療法が必要となってきます。オーダーメイド型の栄養療法を実現するには、患者さんの栄養状態を正確に評価することが求められます。そのため、海道先生らはこれまでの肝移植の周術期栄養評価指標に替わる新しい栄養評価法の導入を目指しました。さらに、慢性的にエネルギー不足になりがちな肝硬変の患者さんでは、絶食している時間が短くても身体に及ぼす影響が大きくなることから、絶飲食時間を短縮することを考えました。

 以上を踏まえ、海道先生が率いるチームの治療戦略は、周術期に栄養介入を行い、術後の感染症を制御することで、移植後短期成績を向上させることになりました。栄養管理の両輪は、「正確な栄養評価」と「適切な栄養療法」です。この実現には、医師や看護師だけでなく、移植コーディネーター、管理栄養士、理学療法士、さまざまな医療専門職によるチーム医療が必須となります。

肝移植で注目される「サルコペニア」

 海道先生らがチーム医療で栄養介入に取り組む中で、注目したのが患者さんの「サルコペニア」という病態です。サルコペニアとは「筋肉量の低下や筋力・身体機能の低下」と定義されています。長寿社会を迎え、健康寿命を伸ばすために欠かせない概念として注目されていますが、肝移植をはじめとする外科領域でも重要な意義を持っています。海道先生らは、術前にサルコペニアであった人は、移植後の予後が不良だったということを明らかにしました。

 筋肉量を維持するには、栄養摂取が大切です。肝移植の患者さんでは、術前の低栄養や長時間の手術などにより、腸管の浮腫や腸管麻痺が生じると、経口・経腸栄養摂取が難しくなってしまいます。そこで海道先生らは、術後に大建中湯(だいけんちゅうとう) を投与することで、早期の経口摂取や経腸栄養が可能となり、早期回復が期待できると考え、多施設共同二重盲検ランダム化比較試験を行いました。その結果、大建中湯の投与により、術後に経口・経腸で摂取した栄養の総カロリー増加や、門脈血流の増加が認められました。この結果から、術後の大建中湯投与により、栄養摂取が促進され、早期回復につながることが期待されました。

 また、サルコペニア患者における栄養療法の有無別の生存率を調べた結果、栄養療法を行った群では、行わなかった群と比べて生存率の上昇を認めました。したがって、入院時の体組成評価で、サルコペニアと診断された症例は、栄養介入や術前からリハビリを行うことで、予後の向上が図れると考えられました。さらに肝移植後は1週間に2%筋肉量が低下することから、海道先生らは術後1日目のICUにいるうちからリハビリを行っているといいます。

 こうした取り組みを通じて、肝移植後の生存率の向上が図られたと海道先生は紹介しました。生存率向上の最大の要因はチーム医療であり、さまざまな医療専門職の協力が、移植後短期成績の向上に寄与したと考えられると結びました。

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