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いまづ先生の漢方講座 Vol.2 げっぷに苦しむ老人

公開日:2019.10.23
カテゴリー:病気と漢方
 「頭のてっぺんから、足の先まで」をモットーに、外科医としての経験も活かしながら、さまざまな症状に悩む患者さんの診察にあたっている今津嘉宏先生。シリーズ「いまづ先生の漢方講座」では、多くの人が気になる病気や症状に対する漢方薬の使い方について、実例を挙げながら解説していただきます。

 暑い夏が終わると、「食欲の秋」がやってきます。秋の味覚に箸が進んで、ついつい食べ過ぎてしまう方もいることでしょう。今回は、食べ過ぎからくる消化器の不調に対処する漢方についてご紹介します。

Case2げっぷに苦しむ老人

げっぷが出て困っているという老人がお見えになりました。

1年ぐらい前から寝ていると苦しくなって、目が覚めるとげっぷが出ます

と額に皺を寄せて、眼鏡の奥から大きな目でお話しされる老人は、ほとほと、困っている様子でした。

食べ過ぎが原因と人から聞いたので、食事の量も減らしていますが、一向にげっぷは減りませんし、昼の間も、げっぷが出て苦しく、人前でげっぷが出るのが気になって気になって…

と1日中続くげっぷに悩まされている様子でした。

消化器内科の先生には、逆流性食道炎だと言われて、寝るときは上半身を上げているのですが、この体勢で寝ると腰が痛くなるのでつらいんです

循環器内科では、胸のつかえは狭心症かもしれないと言われて、ニトロをもらいましたが、症状は変わらなかったので、どうしていいのか、もうお手上げです

主治医の先生から呑気症だからと、心療内科を紹介されましたが、その前に一度、診ていただきたいと考えて受診しました

老人の診断

 逆流性食道炎は、食道裂孔ヘルニアが原因で起こる胃酸の逆流による食道粘膜の炎症です。この老人も循環器内科で心臓疾患を疑われていますが、胸焼け、胸の痛みからノドの違和感、咽頭痛などの症状を認めるため、耳鼻咽喉科や循環器内科を受診されることもあります。あまりよく知られていませんが、胃酸による逆流性食道炎よりも、胆汁や膵液の逆流によるアルカリ性の逆流性食道炎のほうが、症状は重くつらいものです。
 すでに逆流性食道炎の治療薬であるプロトンポンプ阻害薬を服用しており、症状の改善を認めていませんでしたので、症状の原因は、胃から小腸にあるのではないかと考えました。主治医は、精神的な問題ではないかと考え、心療内科への受診を勧めていますが、老人の話では、「げっぷがでることが気になってしまって、いろいろと悩みが増えてしまった」とのことでした。いろいろな病院で、いろいろな診療科で検査してもらっても原因がわからず、症状が改善しないことで精神的な負担も出てきたわけです。

逆流性食道炎のガイドライン

 逆流性食道炎については、日本消化器病学会より『胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン』が発刊されています。胃食道逆流症、プロトンポンプ阻害薬抵抗性胃食道逆流症、術後食道炎、Barrett食道など日本人の約10%に認められる病気で、近年、増加傾向にあります。

呑気症、空気嚥下症

Rome III機能性消化管障害では、機能性胃・十二指腸障害を機能性ディスペプシア、げっぷ障害、吐き気・嘔吐障害、成人の反芻症候群に分類し、げっぷ障害を空気嚥下症と極度のげっぷに分けています。

老人の治療

 この老人には、大建中湯(だいけんちゅうとう) 茯苓飲(ぶくりょういん) を処方しました。大建中湯は、山椒、乾姜、人参、膠飴の4つの生薬で構成されている漢方薬です。副交感神経節後繊維からのアセチルコリンの分泌を促すことで、消化管の蠕動運動を促進する作用があります。これによって、胃から小腸への食物などの流出を促します。茯苓飲は、茯苓、蒼朮、陳皮、人参、枳実、生姜の6つの生薬で構成されている漢方薬です。陳皮、枳実は、精神的要因を改善する作用があり、蒼朮にも抗不安作用がありますので、併用することにしました。
 2週間後、1日のげっぷの出る回数が減ってきました。げっぷで夜中に起きない日もあるようになりました。
 4週間後、寝ている間、げっぷが出ることが無くなり、うんと楽になったそうです。精神的にも落ち着いて、奥様からも喜ばれているそうです。

げっぷの治療

 げっぷは、単純に食べ過ぎ飲み過ぎの時や、胃の働きが悪く、食物残渣が停滞するときに起こります。この場合は、ミントなどのように爽快感がある薬剤を選択すると良くなります。漢方薬では、茴香を含む安中散(あんちゅうさん) を用います。胃粘膜の炎症に伴う胃の痛みなどにも用います。

参考
今津嘉宏(いまづ よしひろ)先生
芝大門いまづクリニック院長

藤田保健衛生大学医学部卒業後に慶應義塾大学医学部外科学教室に入局。国立霞ヶ浦病院外科、東京都済生会中央病院外科、慶應義塾大学医学部漢方医学センター等を経て現職。日本がん治療認定機構認定医・暫定教育医、日本外科学会専門医、日本東洋医学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医。

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