市民公開セミナー「もっと知ってほしい『がんと漢方薬』のこと」レポート(中編)
2013年11月24日(日)国立がん研究センター国際研究交流会館にて行われた市民公開セミナー「もっと知ってほしい『がんと漢方薬』のこと」のレポートです。今回は、漢方薬と西洋薬の違いや、抗がん剤の副作用を軽減する六君子湯(りっくんしとう)の実力についての講演内容をご紹介します。
漢方薬と西洋薬の違いは?
西洋薬は新薬の成分発見から発売までがだいたい10~15年なのに対し、漢方薬は1000~1500年の歴史があります。
「大建中湯(だいけんちゅうとう)はアメリカの食品医薬品局(FDA)にも臨床治験薬として認可され、複数の臨床治験が開始されましたし、アメリカのメイヨ-クリニックでも消化管運動の亢進作用が、日本でも手術後の腸の動きがよくなることがわかってきています」
と、医療法人徳洲会札幌東徳洲会病院 先端外科センター長 河野透先生が講演を行いました。大建中湯は、乾姜(かんきょう)、人参(にんじん)、山椒(さんしょう)の3つの生薬からなる漢方薬です。
「大建中湯は、血管拡張作用のある『アドレノメデュリン』という物質を分泌させることがわかっています。これを調べていくと生姜の成分であるショーガオールと、山椒の成分であるサンショールが有効であることがわかりました。単体よりも2つの生薬が組み合わさった時に、消化管運動の亢進作用が発揮されるのです」
また、西洋薬との違いについて河野先生は「相乗効果があるのが漢方薬」と強調します。
「西洋薬は単一成分なので、量を増やしていくと効果を発揮しますが、その分重篤な副作用の危険も高まります。一方、漢方薬は相乗効果により成分の量が少なくても効果があるのが特長です。大建中湯の3つの生薬も単独で服薬するよりも、組み合わせることで相互作用が生まれます。他にも半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は口内炎などの炎症を抑える作用、抑肝散(よくかんさん)は認知症の周辺症状や緩和ケアのモルヒネ投与後のせん妄予防などもわかってきています。現在日本で承認されている漢方薬は約130ありますが、それぞれの作用機序などがどんどんわかってきています」
抗がん剤の副作用を軽減する六君子湯の実力
北海道大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学分野助教 大西俊介先生は、抗がん剤「シスプラチン」の副作用である食欲不振や吐き気を改善することについて講演を行いました。
「現在、六君子湯(りっくんしとう)については国内で進行中の臨床試験が11件あり、ほとんどががん分野の研究です。六君子湯の効能・効果は『胃腸が弱いもので食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく貧血性で手足が冷えやすいものの次の緒症:胃炎や消化不良、食欲不振など』とされており、古くから用いられてきた漢方薬です。利点としては安価であること、長い歴史の中で安全性が担保されていることですが、その一方で科学的根拠が低いことが問題となっていました。しかし、近年六君子湯に関しての臨床研究が進み、『シスプラチン』という抗がん剤の副作用である食欲不振や吐き気を改善することがわかってきています。高齢者にとって、がん手術後の食欲低下は、身体機能の低下や死亡率の増加にもつながる大きな問題となっています。それに対して国内の臨床試験では、西洋薬よりも六君子湯のほうが吐き気を抑えているということもわかっています。また、不安や抑うつが食欲不振を招くこともありますので、こうしたケースに関しても六君子湯が有効ではないかと期待されています」(後編へ »)