<新型コロナウイルス感染症と漢方薬>新型コロナ後遺症治療は改善の実感がポイント

[漢方ニュース] 2022/01/19

新型コロナウイルス感染症の流行は2021年11月、日本国内の感染者数が大きく減少し、ひとつの転換期を迎えています。現在、感染者数は減っているものの、その後遺症に悩む人の数は「むしろ増えている」と、東京・渋谷で新型コロナウイルス感染症による後遺症(以下、新型コロナ後遺症)の診療を行っているヒラハタクリニック院長の平畑光一先生は話します。平畑先生いわく「新型コロナ後遺症は症状が多岐にわたるうえ複雑で、症状が長引いたり、出たり消えたりする」。そのため、一剤で多様な症状に対応できる漢方薬が症状の改善に役立つといわれています。これまでにのべ約3,000人の新型コロナ後遺症患者を診てきた平畑先生に、その治療と漢方薬について伺いました。
(編集部注:本記事は2021年11月取材時の状況をもとにしています)

長引く微熱、倦怠感、食欲不振……新型コロナ後遺症が疑われる主な症状

――新型コロナ後遺症と思われる症状には、どのようなものがあるのでしょうか。

平畑先生(以下、平畑):倦怠感、微熱、疲労感、食欲不振、せきやぜんそくのような症状、下痢、頭痛、胸の違和感や痛みなど、多岐にわたります。最も多いのは倦怠感ですが、皆さん、ほかにも複数の症状を抱えています。医療機関によってはそれらを「心因性」や「自律神経失調症」と診断し、積極的に治療しないこともあります。実際に医師からそう言われて、我慢している方も少なくないでしょう。

新型コロナウイルス感染症後遺症の主な症状と割合

提供:ヒラハタクリニック
【調査概要】対象:2020年11月21日〜2021年11月16日に当院新型コロナ後遺症外来を受診した患者2,936名/方法:問診による聞き取り

――新型コロナ後遺症を発症しやすい方の傾向はありますか?

平畑:女性であることは後遺症発症のリスク因子のひとつだということはわかっていますが1)、当院でも女性のほうがやや多いです。ワクチン接種後の副反応も女性のほうに出やすい傾向があります2)が、それと似ています。年齢に関しては20~50代が比較的多い傾向にあるものの、それは活発に動く世代だからで、年齢が後遺症の発症しやすさに影響しているとは感じません。
それよりも新型コロナウイルス感染症そのものの重症度のほうが重要で、当院では症状が軽かった人ほど後遺症を発症した場合に倦怠感系の症状が重症化する傾向があります。仕事に支障をきたすことも多く、後遺症を疑って当院を受診した方で仕事をしている人のうち、約3分割の2の方が勤務形態の変更や休職、離職をしています。今はなんとか仕事ができている患者さんも「いつ仕事ができなくなるかわからない」と不安を抱えています。

新型コロナウイルス感染症後遺症の男女比・年代比

提供:ヒラハタクリニック
【調査概要】対象:2020年11月21日〜2021年11月16日に当院新型コロナ後遺症外来を受診した患者3,019名/方法:問診による聞き取り

――患者さんの通院期間はどれくらいですか?

平畑:一番長い方で1年半以上通われています。倦怠感が主な症状の場合、目に見える改善が難しく、通院期間は長くなりがちです。ただし、味覚や嗅覚障害、脱毛のように改善がわかりやすい症状が主であれば、数か月で治療終了となることもあります。

活動の数時間後から生じる強い倦怠感に要注意

――新型コロナ後遺症が疑われる症状がある場合、どのような医療機関を受診すればよいでしょうか。

平畑:新型コロナ後遺症には漢方薬が効果を発揮することが多いので、できれば漢方医学に明るい医師の診察を受けたほうがよいでしょう。新型コロナウイルス感染症にかかった経験がなくても、気になる症状がある方は積極的に後遺症を疑い、早めに受診してもよいと思います。今は感染者数が落ち着いていますが、夏頃は非常に多かったので、中には無症状で新型コロナウイルス感染症にかかっていた方がいるかもしれません。

――倦怠感があっても多少無理をすれば動ける場合は、動いてもよいのですか?

平畑:それはおすすめできません。倦怠感が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(Myalgic Encephalomyelitis:ME/ Chronic Fatigue Syndrome:CFS)に移行してしまうおそれがあります。この病気は、少し動いただけでも極端に疲れて動けなくなり、日常生活に支障をきたすのが特徴です。2002年ごろに新型コロナウイルスと同じ、コロナウイルスを原因としたSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した後、ME/CFSが多発したことが報告されています3, 4)。新型コロナウイルス感染症の感染後にも同様の症状を生じている人が少なくありません。
ME/CFSの予防のためには、その症状のひとつである労作後倦怠感(Post-exertional malaise:PEM)に注意することが重要です。近所への買い物などのごく軽い行動や、家族とのちょっとしたケンカといったストレスになる出来事の約5時間後〜翌日になると急激にだるくなり、何もできなくなってしまうのがPEMです。この「少し時間が経ってから」というのがポイントです。もしも、こうした傾向があれば「がんばって動く」といった無理は禁物です。だるさが生じない範囲で動くようにして、PEMの悪化を防ぐことが大切といえます。

新型コロナ後遺症の改善に役立つ漢方薬

――先生は後遺症の治療に、どのような漢方薬を使っていますか?

平畑:最も多く使うのは加味帰脾湯(かみきひとう) です。倦怠感、気分の落ち込み、不眠を訴える患者さんの多くに有効です。2~3週間飲んでいただいても効果を感じられない場合は、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) 人参養栄湯(にんじんようえいとう) に変えることもあります。
複数の生薬が配合され、一剤で多様な効能をもたらす漢方薬には、さまざまな原因が複雑に重なって生じている新型コロナ後遺症の改善効果が期待できます。当院ではほぼ全員の新型コロナ後遺症患者さんに漢方薬を処方し、症状の改善に役立てています。

――意外な漢方薬が効果を発揮した例はありますか?

平畑:頭痛に七物降下湯(しちもつこうかとう) が有効でした。七物降下湯は、高血圧に伴うのぼせ、肩こり、耳鳴り、頭重の治療に適応のある漢方薬です。新型コロナ後遺症の頭痛にも同様の傾向があるようで、症状が改善する方が多いです。
この頭痛には西洋薬の頭痛薬(NSAIDs)の効果が出づらいため、七物降下湯を含め、いくつかの漢方薬を用いています。メインの症状である倦怠感がなかなか改善しなくても、頭痛のようにわかりやすい症状が改善していくと、少しずつでも前に進んでいる感覚を得られて、患者さんの励みにもなります。

――治療が長引きやすい分、「治っている」という実感を少しでも得ることが重要なのですね。

平畑:漢方薬を使って後遺症の症状が改善していくと、自己効力感が生まれやすくなります。自己効力感とは心理学用語の一種で、簡単に言うと「自信」です。例えばせき、不眠といった、治っていることを比較的実感しやすい症状をまず改善し、「少しずつでも前に進んでいる」という自信を得ることは、新型コロナ後遺症の改善においてとても大切です。希望を持って治療を続けてほしいと思います。

参考

平畑 光一(ひらはた・こういち)先生
ヒラハタクリニック理事長/院長

山形大学医学部卒業後、東邦大学医療センター大橋病院消化器内科で大腸カメラ挿入時の疼痛、胃酸逆流に伴う症状などについて研究。胃腸疾患のほか、膵炎など、消化器全般の診療にたずさわる。2008年7月、渋谷にヒラハタクリニックを開業。2013年3月には医療向けIT企業、株式会社メイドインクリニックを設立し、代表を務めている。日本消化器内視鏡学会専門医、日本医師会認定産業医、日本内科学会認定医、旧通産省認定 第一種情報処理技術者 LPIC Level 1取得。
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