国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会 漢方医学の「これから」のための提言更新

[漢方ニュース] 2021/03/30

 2021年2月15日、国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会(以下、ビジョン研)の提言更新記者会見が行われました。
 ビジョン研は、超高齢社会の日本において漢方が今後も国民の健康と医療に貢献し続けるための課題解決に向けた検討を進めることを目的に、東洋医学会と日本漢方生薬製剤協会の共催によって、2016年に設立されました。

 これまで、がん領域、高齢者医療、漢方の品質確保や安定供給などのテーマで研究会やフォーラムが開催され、2017年に漢方医療を取り巻く課題と対応策に関する提言書が発表されました。その後、病気を治すことだけでなく、健康寿命を延ばすことの重要性が叫ばれ、漢方薬の必要性が見直されるようになってきた現状を踏まえ、2021年2月に提言が更新されました。

 日本人の平均寿命は年々延び続けており、2020年に厚生労働省が発表した簡易生命表によると、男性が81.41歳、女性は87.45歳と過去最高を更新しています。
 一方で、元気に自立して過ごせる期間である健康寿命と平均寿命の差は、男性で約9年、女性で約12年あることがわかっています。これは、介護や支援を必要とするなど、健康上の問題で日常生活に制限のある期間が9〜12年あるということになります。
 また、65歳以上の人口は3,589万人で、高齢化率は28.4%となっています。

 高齢者の死因となった疾病は、がん、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎の順で、介護が必要となった主な原因には、認知症や脳血管疾患などがあります。
 高齢になると、複数の疾患や多臓器の疾患を持つことが多くなり、心身の虚弱状態から、それらの疾病が重篤化することがわかっています。健康寿命を延ばすためにも、ひとりひとりに合ったオーダーメイドの医療「個別化医療」が重視されるようになっています。

 漢方医学には、体全体を診ることで、症状が起きている原因を追究し、体全体のバランスを整え回復させるという特徴があること、また、複数の症状にも1剤の漢方薬で対応できる場合があることなどから、今後高齢化がさらに進む日本においてますます必要不可欠な存在になってくるといわれています。

 そのために、漢方薬には、有効性や安全性にかかわるエビデンスの集積がさらに進むこと、漢方治療の標準化として、診療ガイドラインへの記載がさらに進むこと、高齢者でも服用しやすい剤形の開発や研究が進むこと、天然物である生薬が安定的に確保し続けられることなどが求められています。

 そこでビジョン研が行った提言が下記の6つです。

1.医療における漢方製剤等の必要性

  • フレイルに対する全身状態の改善
  • がん支持療法に対する全身状態の改善

2.漢方製剤等に係る研究を推進

  • がん領域
  • 高齢者医療
  • 医療経済学的研究の推進
  • 研究支援体制の構築と研究費支援
  • エビデンスに基づく診療ガイドラインへの掲載

3.漢方製剤等の品質確保と安定供給に向けた取り組みを推進

  • 漢方製剤等に関する「リポジショニングや新剤形等のための品質保証および承認申請に資するガイドライン」の整備
  • 原料生薬の安定確保に向けた国内栽培の推進

4.医療保険制度における位置づけ

  • 医療用漢方製剤等の保健医療上の必要性の確保
  • 安定供給に向けた薬価の適正化(基礎的医薬品として位置づけ)

5.日本オリジナルの薬剤である漢方製剤の海外展開の推進

6.産官学・国民との連携

  • 生薬、漢方製剤等に係る研究者・技術者の人材育成
  • 国民(患者)への啓発・アウトリーチ活動の必要性
  • 漢方に係る国内外の諸課題に対応する行政担当官の配置(ICD-11「日中韓の伝統医学(漢方医学)」等)

※WHO(世界保健機関)が作成する、国際的に統一した基準で定められた死因および疾病の分類。正式名称は「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」。

 現在、国内で漢方薬を処方している医師は89%、漢方外来も79の大学病院、103の臨床研修指定病院に設置されています。また、最近では、東洋医学会が主導する新型コロナウイルス感染症に対する臨床研究も複数進んでいます。これは、予防、治療、回復、後遺症といったさまざまな場面での漢方薬の効果を検証するもので、千葉大学や東北大学などが中心で進められています。

 西洋薬の補完、補助的役割はもちろんのこと、西洋医学では解決できない疾患への対応、不定愁訴や全身症状の改善・体質改善など、漢方薬へは多くのことが期待されています。ビジョン研は「提言書の内容を実現するために、今後も活動を継続していく」としています。

 高齢者は同時にいくつもの疾患を抱えていることも多く、超高齢社会を迎えた日本では、高齢者の薬の過剰摂取や、医療費の増大も問題となっています。漢方薬は、複数の症状にも1剤で対応できることがあるため薬の数を減らせる、西洋薬よりも薬価が安く医療費を抑えられる、といった点での期待が高まっています。
 実際に、日本では、2001年から医学部での教育にも漢方に関する知識の習得が示され、現在、多くの医師が漢方薬を処方するようになりました。

 しかしながら、現在、漢方薬の原料となる生薬の価格が上がっています。
 これは中国や日本など、さまざまな国で、漢方薬への需要が増えていることも関係しているといわれています。

 ビジョン研では、こうしたさまざまな漢方薬に対する課題を解決し、私たちの健康に役立つための研究を行っています。
 私たちもこの活動を引き続き見守っていきたいと思います。(大場真代)

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