【抑肝散】レビー小体型認知症の妄想・幻覚に対する改善効果/論文の概要
公開日:2014.07.09
カテゴリー:特集・漢方の実力
論文の概要
- <論文タイトル>
レビー小体型認知症の妄想・幻覚に対する抑肝散の改善効果 - Improvement in delusions and hallucinations in patients with dementia with Lewy bodies upon administration of yokukansan, a traditional Japanese medicine
Iwasaki K, et al. Psychogeriatrics. 2012 Dec;12(4):235-241.
- 目的
- 抑肝散によるレビー小体型認知症の妄想・幻覚に対する治療の有効性と安全性を検証する
- 試験デザイン
- 前向き15施設単群試験
- セッティング
- 東北大学附属病院漢方内科をはじめとする国内15施設
- 対象
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- 国際コンセンサスクライテリアでレビー小体型認知症と診断
- 精神症状評価尺度(Neuropsychiatric Inventory:NPI)によるBPSD評価で各下位尺度のいずれかで4点以上
- 試験開始6週間以内に血清カリウム濃度が測定され、正常上限以内。あるいは患者が自発的に同濃度の測定に同意
- 年齢55~90歳の男女
- 外来患者では家族が介護可能
- 入院患者では2週間以上の服用を必須で介護者がその調整ができる
の基準を満たしたレビー小体型認知症63例(男性30例、女性33例)。症例の平均年齢は78.2±5.8歳。
- 介入
- 対象者全員に抑肝散食前1回2.5gを1日3回、4週間投与。
- 主な評価項目
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- 認知症の精神症状評価尺度・NPI総スコアとNPI各下位尺度(妄想、幻覚、興奮/攻撃性、うつ、不安、無関心、易刺激性/不安定性、多幸、脱抑制、異常行動)の変化
- Zarit介護負担尺度日本語版(J-ZBI)のスコア変化
- 臨床面接による認知症変化印象尺度(CIBIC plus-J)の日常生活動作下位尺度・Disability Assessment for Demetiaのスコア変化
- 認知機能検査・MMSE (Mini-Mental State Examination) スコアの変化
- 血清カリウム濃度(mEq/L)の変化
- 結果
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- NPI総スコアは治療前と比べて4週間後に有意に低下していた(平均低下12.5点、p<0.001)。
- J-ZBIは治療前と比べて4週間後に有意に低下していた(平均低下12.5点、p<0.001)。
- 治療開始後2週間後のNPIスコア取得に同意した患者(n=23)では、治療前、2週間後、4週間後と経過時間依存的な有意な総スコアと下位尺度の妄想、幻覚のスコア改善が確認された(p<0.001)。
- 治療開始後2週間後のJ-ZBIスコア取得に同意した患者(n=22)では、治療前、2週間後、4週間後と経過時間依存的な有意なスコア低下が認められた(p<0.01)。
- MMSEは治療前と比べて4週間後に有意に上昇していた(平均上昇1.1点、p=0.0019)。
- DADに有意な変化はなかった。
- 有害事象は18%(11例)に認められたが、錐体外路症状の悪化などは認められなかった。
- 血清カリウム濃度は抑肝散服用により低下傾向にあったが有意差は認められなかった。ただ、6%(4例)では正常下限3.5mEq/mを割り込む低下が見られ、うち1例では痙攣とBPSDの悪化により服薬を中断した。
- 結論
- 抑肝散は、レビー小体型認知症で認知機能の悪化を招くことなくBPSD改善や介護者の負担軽減をもたらし、BPSDの中でも妄想や幻覚の治療に有用性があると考えられた。ただし、低カリウム血症の発生には万全の注意を払う必要がある。