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【茵ちん蒿湯】肝切除術における虚血‐再灌流障害の軽減効果/論文の意義

[河合清貴先生]

西洋医学では対処法に乏しく困っている領域

肝切除術後の肝機能悪化や死亡をもたらす、「虚血-再灌流障害」を減らすことができる
−茵ちん蒿湯(いんちんこうとう)

 肝臓は再生力の強い臓器で、肝臓病などで部分的に切除しても、残った肝臓が機能を回復できれば、元気な生活に戻れる場合が多いことはご存じですか。しかし、肝切除術には、肝臓だからこそ避けられない手術方法に関連する課題もあります。権威ある米国外科学会の学会誌『Annals of Surgery』の2010年4月号に掲載された、河合清貴先生(名古屋大学医学部腫瘍外科)らのラットを使った研究は、『茵ちん蒿湯』がその問題を解決できるかもしれないという、非常に注目された結果でした。

背景: 肝切除術で出血を抑えるために行わなくてはならない手技は、一方で、残された肝臓の機能回復を遅らせ、時に患者を死亡させる原因となる虚血‐再灌流(さいかんりゅう)障害を起こすことがある

茵ちん蒿湯を手術前に投与すると、肝切除術で問題となる虚血‐再灌流(さいかんりゅう)障害を減らせる可能性が高いことが判明 脳卒中や心筋梗塞、あるいは臓器移植などにおいて、一時的に血流が途絶えた後、再び血流が再開するとき、毒性物質が作られてしまい、その結果、炎症や酸化ストレスが生じて、臓器や組織に障害が起こる場合があることが知られています。これを「虚血-再灌流(さいかんりゅう)障害」といいますが、時にはその障害により死に至ることもあります。脳卒中や心筋梗塞の治療をして一度は助かったのに、その後亡くなってしまったというような場合には、この障害によることも少なくありません。

 実は、外科手術の際にもこの問題が起こることがあります。よく知られているのは、肝切除術です。肝臓は血管の塊ですから、手術には常に大量出血の危険が伴い、一度大量出血してしまうと、止血は大変難しいとされています。そこで、肝臓の手術では、いかに出血を少なくするかがとても重要です。肝切除術では、そのためにプリングル法といわれる手技がよく使われますが、これは、肝十二指腸靭帯を鉗子でクランプ(締め留めること)して肝動脈および門脈系の血流を一時的に遮断する方法で、出血予防に非常に有効とされています。

 しかし、この方法では、一度遮断した血液が再び流れるときに、先ほど説明した「虚血‐再灌流障害」を起こしやすく、そのことが肝切除術後の残った肝臓の機能回復を大きく遅らせたり、時には肝不全を起こして死亡する原因になる場合があります。残念ながら、この問題はまだ十分には解決されていません。

 茵ちん蒿湯は、「茵ちん蒿(いんちんこう)」、「山梔子(さんしし)」、「大黄(だいおう)」の3種を構成生薬とし、古くから黄疸(おうだん)の治療薬として知られています。そのほかの肝臓病の治療にも用いられ、肝臓を保護する働きがあるとされています。

 そこで、河合先生は、もともと肝臓病に有効とされている茵ちん蒿湯が、この問題を軽減できるのではないかと仮定して、今回の検討を行いました。特に、これまでの基礎的な研究から、茵ちん蒿湯には炎症を抑えたり、生体に悪影響を及ぼす酸化ストレスを抑制する効果があることも報告されていたので、肝切除後の虚血‐再灌流障害にも、これらの作用が有効なのではないかと考えたのです。

2010/08/05

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