【当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸】更年期女性の不眠症状改善効果/論文の概要
論文の概要
- <論文タイトル>
不眠症状を有する更年期女性における3つの漢方薬、当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸の効果 - Effects of three Kampo formulae: Tokishakuyakusan (TJ-23), Kamishoyosan (TJ-24), and Keishibukuryogan (TJ-25) on Japanese peri- and postmenopausal women with sleep disturbances
Terauchi M, et al. Arch Gynecol Obstet. December 1, 2010.(オンライン版)
- 目的
- 更年期女性の不眠症状における当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸の効果を明らかにする
- 試験デザイン
- レトロスペクティブ(後ろ向き:過去の記録に基づいて検討する手法)単施設研究
- セッティング
- 東京都内の大学病院
- 対象
- 1995年3月から2009年12月の間に婦人科更年期外来において「系統的健康・栄養教育プログラム」に参加した患者(平均年齢53.0±7.2歳)の中で、初診時に中等度以上の不眠症状を示した747名のうち、追跡期間中にいっさいの薬物治療を受けなかった者および当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸のいずれか1剤を投与された者の計151名。
なお、以下の薬剤を処方されていた患者は除外した。
1)エストロゲン製剤、2)睡眠薬、抗不安薬、3)当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸以外の漢方薬、4)睡眠やホルモン状態に影響を及ぼすことが知られている薬剤(抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、抗痙攣薬、経口避妊薬、性腺刺激ホルモン拮抗薬、タモキシフェン、ラロキシフェン、β遮断薬、糖質コルチコイドなど) - 介入
- 投与を受けた漢方薬により、対象者を以下の4群に分けた。漢方薬の投与は、いずれか1つとした。平均投与期間は144±58日であった。
1)対照群(77名):健康/栄養に関する教育のみで、一切の薬物治療を行わなかった。
2)当帰芍薬散投与群(42名):7.5g/日
3)加味逍遙散投与群(16名):7.5g/日
4)桂枝茯苓丸投与群(16名):7.5g/日 - 主な評価項目
- 対象者のデータベースと診療録をもとに、以下の項目について、介入前後の値の変化、または介入後における対照群との比較を評価した。
1)不眠症状(不眠スコア:更年期症状スコア*1のうち睡眠に関する項目、入眠困難・熟眠障害を訴える患者の割合、中途覚醒の回数)
2)睡眠以外の更年期症状スコア*1
3)健康関連QOL(更年期QOLスコア*2)
4)血圧、体組成などに関してのデータ*1 更年期によくみられる10の症状の出現頻度について、0点(症状なし)~3点(よくある)までの点数で評価する。
*2 更年期におけるQOL(生活の質)について身体的健康、精神的健康、生活満足度、社会的関与の4分野の点数を評価する。点数が高いほど満足度が高いことを示す。 - 結果
-
1)介入前後で有意な変化があったのは、以下の項目だった。
・対照群:不眠スコアの減少(p<0.001*3)、健康関連QOLの改善(p<0.001*3)
・当帰芍薬散投与群:不眠スコアの減少(p<0.001*3)、中途覚醒頻度の減少(p<0.01*3)、健康関連QOLの改善(p<0.001*3)、除脂肪量の増加(p<0.01*4)、拡張期血圧の低下(p<0.01*4)
・加味逍遙散投与群:不眠スコアの減少(p<0.01*3)、中途覚醒頻度の減少(p<0.01*3)、入眠困難を訴える患者の割合の減少(p<0.001*5)、熟眠障害を訴える患者の割合の減少(p<0.01*5)、健康関連QOLの改善(p<0.01*3)
・桂枝茯苓丸投与群:不眠スコアの減少(p<0.001*3)、収縮期血圧の低下(p<0.001*4)、拡張期血圧の低下(p<0.05*4)、脈拍の低下(p<0.05*4)。なお、この群では、投与前の体重、BMI、体脂肪率、除脂肪体重、安静時エネルギー消費量の値が高く、他の群よりも比較的血圧と心拍数が高かった。
2)3つの治療群において、介入後に対照群に比して有意に改善していたのは、以下の項目だった。
・不眠スコアの減少(加味逍遙散、桂枝茯苓丸、いずれもp<0.05*6)
・発汗の軽減(桂枝茯苓丸、p<0.01*7)、
・頭痛の軽減(加味逍遙散、p<0.05*7)、*3 Wilcoxon’s matched pairs test
*4 paired t test
*5 Fisher’s exact test
*6 Mann-Whitney test
*7 Kruskal-Wallis test followed by Dunn’s multiple comparison test - 結論
- 当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸のいずれもが、日本人女性の更年期における不眠症状を軽減した。これらの漢方薬は、患者の症状などに応じて使い分けることにより、不眠症状のみならず、その他の更年期症状への効果も期待できる。