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リハビリテーションと漢方 高齢者の痛みの治療に治打撲一方

公開日:2019.07.18
カテゴリー:漢方ニュース

 済生会形済病院リハビリテーション部の伊藤友一先生は、高齢者のけがや手術後の痛みなどに、治打撲一方(じだぼくいっぽう) 五苓散(ごれいさん) 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) などが効果を示すことを第61回日本老年医学会学術集会のセミナーで発表しました。

 心臓病や血管の病気を抱える高齢者は、胃腸に障害があったり、腎機能が低下していることが少なくありません。そのため、痛みがあっても一般的に使われる西洋薬の消炎鎮痛薬を選択しにくい場合があると、伊藤先生は指摘しました。また、こうした痛みの治療では、抗てんかん薬や、オピオイドと呼ばれる麻薬系の薬が使われることもありますが、「副作用の問題があり、特に高齢者では使いにくいことが多くあります」と説明しました。

漢方薬処方の新しい考え方、「サイエンス漢方」登場

 現在では様々な病気で診療ガイドラインが作られており、科学的な研究結果(エビデンス)に基づいて、標準的な治療方法が定められています。ところが、「ガイドラインに基づく治療が、不十分だったり合わない患者さんもいます。そうした患者さんで役に立つのが漢方薬です」(伊藤先生)。これまでは経験則で用いられてきた漢方薬にも、ついに科学的な研究結果に基づいて処方する「サイエンス漢方」の考え方が登場し、新たな漢方薬処方につながっていると話しました。

 このサイエンス漢方の考え方は、「免疫賦活系/炎症系」、「微小循環系」、「水分調整系」、「熱産生系」という4つの系統で患者さんの病気の状態を把握し、それぞれの系に応じて漢方薬を選択するというもの。伊藤先生は「なかでも熱産生系は、従来の西洋医学の考えにはない、ユニークなもの」と述べ、具体例を紹介しました。

 例えば、手足が冷えている患者さんです。リハビリテーションを行っていると、患者さんの手足の冷えに気づくことがあるといいます。痛みをとるために西洋薬の消炎鎮痛薬を使っている患者さんでは、より冷えが悪化することも。こうした患者さんでは、「消炎鎮痛薬が効いていないことが多くあります。そこで、サイエンス漢方の熱産生系の考え方に沿って、手足を温める漢方薬の処方を行います」と話しました。

外傷後の廃用症候群は、漢方薬で防ぐ

 また、伊藤先生は、脊椎外科の手術後やけがなどによる傷(外傷)では、痛みを取ったり、組織の修復を促すために、漢方薬を処方すると、体力の衰えを防いだり、リハビリの効果が高まった経験が少なからずあると紹介しました。

 まず、具体例として挙げられたのは外傷時の対応です。西洋医学で、外傷時に行う応急処置として一般的なのは「RICE処置」です。RICEとは「Rest(安静)」、「Ice(冷却)」、「Compression(圧迫)」、「Elevation(挙上)」の頭文字をとった略語です。例えば、足のねんざでは、安静にしたうえで、患部を冷やして医療材料で固定し、血流が集中するなどでむくむのを避けるため、足をやや高く挙げた状態にして、一定期間ベッドに横になって回復を待ちます。伊藤先生は、「RICE処置は外傷時の基本ですが、これを何日間も続けると、高齢者の場合は廃用症候群になる恐れがあります」と懸念を示しました。

 伊藤先生は、このRICE処置を行う期間の短縮などを目的に、漢方薬の治打撲一方を紹介。治打撲一方は桂皮(けいひ)、丁子(ちょうじ)、大黄(だいおう)、樸樕(ぼくそく)、川芎(せんきゅう)、川骨(せんこつ)、甘草(かんぞう)で構成される漢方薬で、打撲による腫れや痛みに用いられます。「なるべく早く服薬し始めることがポイントです。骨折、脱臼、打撲に治打撲一方を使うと、使っていない場合と比べて、治るまでの期間が短い印象があります」と述べました。

※廃用症候群…安静にしている間に運動能力が衰えること。回復後に自分で思うように動くことができなくなることに加え、種々の体調不調を引き起こす

外科手術後の早期リハビリ時にも漢方薬で快復を後押し

 外傷の初期治療を行った後は、早期にリハビリテーションを開始します。このとき、腫れや内出血、むくみなどが出現することがあります。伊藤先生は、これらを予防するために漢方薬の五苓散や桂枝茯苓丸が効果的であると話しました。

 五苓散は、沢瀉(たくしゃ)、猪苓(ちょれい)、蒼朮(そうじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、桂皮(けいひ)の5種類の生薬で構成され、口や喉の渇きある人や、尿量が減少する人のむくみ、二日酔い、下痢、悪心、嘔吐、めまい、頭痛の治療に使用されます。最新の研究から、五苓散に含まれる猪苓と蒼朮が、細胞表面の細胞膜にある水分の調節機能を担うたんぱく質「アクアポリン4」に作用して、むくみを改善することが分かっていると、伊藤先生は説明。伊藤先生の専門である脊椎外科の領域では、腰椎椎間板ヘルニアや脊椎の手術後にあらわれるむくみで使われると述べました。

 五苓散の利点について、「西洋薬ではむくみに対してフロセミドという薬がよく使われますが、使い過ぎると、むくみは改善しても、副作用で脱水になる患者さんがいます。これに対し、五苓散の持つ水分調節機能は、むくみを取りながら、水分が不足している細胞を、いわば“潤す”作用があり、多く服用しても脱水などの副作用は少ない」と伊藤先生。

 また、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、桃仁(とうにん)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)の5種類の生薬で構成される桂枝茯苓丸は、漢方医学では血(けつ)が停滞している「お血(おけつ)」を改善する薬とされています。このお血は、西洋医学でいうところの血行障害。桂枝茯苓丸の現在の適応は、体格がしっかりしていて赤ら顔が多く、腹部は大体充実、下腹部に抵抗のある人の、子宮内膜炎などの炎症性疾患、月経不順、月経痛、更年期障害、打撲症、冷え症となっています。伊藤先生は「桂枝茯苓丸は、打撲で起こる微小循環(血行)障害を改善します。婦人科領域や打撲以外でも、応用範囲が広い漢方薬です」と紹介しました。(村上和巳)

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