むくみや頭痛、めまい… 台風、高湿度、長雨の時季の不調と漢方薬
夏の終わり、秋の訪れを感じる時季にむくみや頭痛、めまいなどの不調を感じる方は多いのではないでしょうか。その背景には、湿気(湿邪)による水分代謝の不調があるかもしれません。今回は水分代謝の不調による各症状の発症メカニズムや対処法などについて、慶應義塾大学病院 漢方医学センター 医局長の堀場裕子先生にお話を伺いました。
心身に必要な「水」は、過剰で「水毒」に
東洋医学では、人の体は「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の3つの要素で構成されており、これらのバランスがとれている状態が望ましいと考えます。
簡単にいうと、「気」は心身を動かすエネルギー、「血」はほぼ血液、そして「水」は「血液以外の体液」を指します。水は体を潤し、滑らかにする作用を持ちます。過不足なく、必要量が必要な場所を巡っている状態が望ましく、不要(余分)な水が体にある状態は、バランスが崩れている状態として「水滞(すいたい)」や「水毒(すいどく)」と呼ばれ、心身の不調の原因となると考えられます。
また、東洋医学では、心身の不調を引き起こす外的要因を、「邪(じゃ)」と呼びます。湿邪は高温、低温を問わず多湿な状態を指します。このほか夏の暑さの「暑邪(しょじゃ)」、冬の(昨今は冷房も含めた)寒さは「寒邪(かんじゃ)」など、湿邪も含め、6種類の外邪(外から体に入る病気の原因)を六淫(りくいん)と呼んでいます。
時季の影響が大きい水滞
水の働きは湿気=湿邪(しつじゃ)が多い環境で乱れやすくなる、と堀場先生はいいます。
「湿邪の多さは、やはり5、6月の梅雨時が顕著です。実際、この時季にはめまいや吐き気、頭重、倦怠感などが増える傾向にあると感じています。これらは水の代謝の悪化、すなわち水滞に関連していると考えられる症状です。また、秋のはじめ頃も、残暑で湿度が高く、台風などにより雨量も比較的多いため、水滞が起きやすい時季といえます。また、時季を問わず、気圧の変化も無関係ではないようです」(堀場先生、以下同じ)
水滞で不調が起きるメカニズム
一般的に、水滞で起こりがちな症状は、むくみ、頭痛・頭重感、関節痛、めまい、食欲不振などの胃腸機能の低下、さらに乗り物酔いや二日酔いなど、全身的に、多岐にわたりますが、根本はすべて同じだといいます。
「湿邪によって過剰な水分が体内に生じると、正しく体を巡らず、滞りが生じます。この状態が水滞で、滞った場所に不調が現れます。例えば、頭なら頭痛や頭重、下半身の場合はむくみや関節痛など、耳などであればめまい、胃腸であれば食欲不振、胃もたれ、吐き気、下痢などといった感じです」
さらに、先述した「気・血・水」の3つの要素は、相互に関連しあっていると堀場先生はいいます。
「例えば、普段から血の巡りが悪い、漢方でいう瘀血(おけつ)タイプの人は、水滞が起きやすい傾向が見られます。一般に、水滞は比較的女性に多く、特に気圧の変化を伴う気象病については当院では7割方を占めますが、こうした背景には、女性の生理周期が大きくかかわっていると考えられます。特に生理前になると、血の流れが滞りやすくなったり、むくみやすくなったりする方が多いと、日々の診療から実感しています」
水滞に対する養生のポイント
体を動かしてみる
運動は水の巡りを改善してくれますが、普段から習慣づいてない人には抵抗が大きいかもしれません。「そこでお勧めなのが「ラジオ体操」です。最近はYouTubeなどにも動画が上がっています。バランスよく体を動かす動きが網羅されています。正しい動きで第1・第2ともに取り組むと、実はかなりの運動量になります」
食べ方にも注意
暑い時季に旬を迎えるトマトやキュウリ、スイカなどの夏野菜や果物は、体を冷やす働きが強く、まさに理に適った食材といえます。「一方で、冷え症の方などでは過剰に冷やす恐れもあるため、夜間ではなく昼間に、加熱して水分を飛ばすなど、食べ方には気をつけましょう」
冷えをためない工夫を
どこに行っても冷房が当たり前の現代においては、冷房対策も水滞を予防するポイントのひとつです。「例えば、体温調節ができる膝掛けや薄手の上着などを常備する、冷房のきいた場所に長時間いた日は夏でも湯船に浸かって血行促進を図る、などがお勧めです」
水滞に効果が期待できる漢方薬
養生だけでは治まらないことが多い水滞。そこで実際に使われることの多い漢方薬について、実際に堀場先生の診療を受けに訪れる患者さんのタイプにもとづき伺ってみました。
ケース1【血の巡りの悪さ(瘀血)がベースにあるタイプ】
「水滞で来院されるケースで多いのは、普段から血の巡りが悪い、いわゆる瘀血の状態にある方です。こうしたタイプは、程度の差こそあれ、生理痛や便秘、肩こり、頭痛などの不調を日常的に抱えており、梅雨時や台風、秋の長雨など湿邪の影響が増える時季に症状が悪化したり、他の症状を発症しやすくなったりします。
漢方処方の基本としては、まず、血の巡りを改善する桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などを普段から用いて体質改善を図りつつ、水滞の症状が重い時季に、体の水分バランスを調整する五苓散(ごれいさん)を追加(合方)します」
ケース2【純粋に湿邪の影響だけで悪化するタイプ】
「いわゆる気象病の方に多いケースとして、普段は特に不調はないものの、台風や雨の前後などで体調が変化する方がいらっしゃいます。
そうした患者さんの症状に効果を現すことが多い処方が五苓散です。飲み方としては、症状が出ているときに(※気象病の場合、発症の予兆がわかっている患者さんも多く、その場合は症状が出る前から)、いわゆる頓服という形で服用すれば、十分効果が出るケースがほとんどです」
養生と漢方薬をうまく活用し、湿邪の季節を乗り越えましょう。
(取材・文:岩井浩)
慶應義塾大学病院 漢方医学センター 医局長