医療生協かながわ生活協同組合 藤沢診療所 野本哲夫院長
~漢方薬の新時代診療風景~
漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。
つながる縁に導かれ、独学で始めた漢方診療
横浜市立大学では東洋医学の学生グループが活動していて、また、当時薬理学助教授であった大塚敬節先生のご子息からも影響を受けました。1973年に大学卒業後、当時としては珍しかった「一般内科」コースを選択。そのため、卒業後はすぐに市中病院に出て勤務医としてのキャリアがスタートしました。横須賀の衣笠診療所で研修しながら勤務にあたりましたが、現場で偶然にも先輩方が鍼灸と漢方を外来診療に取り入れていたのです。それでは自分も、と改めて独学で漢方を学び、診療に取り入れるようになりました。北里東洋医学研究所には研究生として半年間専門研修し古方派の重鎮・大塚敬節先生、後世派の矢数圭堂先生の下に学び、横浜市鶴見区の汐田病院院長・野末侑信先生らともご縁がつながりました。野末先生は五行説を重視する漢方の流派「後世派」の重鎮、矢数道明先生のご長男でもあります。こうして、人とのご縁に導かれるように、知見を広げ、漢方薬とのつきあいも深まっていきました。
生薬を煮出す「湯液」から「病名漢方」の時代へ
私が出会った当時の漢方薬は、生薬を煮出して作る「湯液」が主流。保険適用もない時代でしたが、わざわざその効果を求める患者さんに厚く支持されていました。しかし、病院での限られた診療では、脈診・腹診の時間も十分にはとれず、また患者の体質や症状にあわせた生薬の配合も難しい現実があったため、その活用は限定的なものにとどまっていました。その後、保険適用のエキス剤が発売され、適用拡大されると、漢方薬は劇的に広がりました。それが、西洋医学の病名に合わせて漢方薬を処方する、いわゆる「病名漢方」の普及です。時には身体の実情に合わず効果を得づらいこともありますが、手頃な価格で漢方の効き目を得ることができるようになったのは、良いことかもしれません。
西洋薬で対応が難しい症状にも漢方薬を
漢方薬というと慢性的な症状に長く服用し続けて、ようやく効果が得られるものという印象を持っている方も多いようです。しかし、漢方診療の現場では、急性の症状にも効果的であることはよく知られています。西洋薬では対応が難しい副鼻腔炎や、花粉症などのアレルギー性症状の治療では、体質によっては小青竜湯や葛根湯などの漢方薬が、こむら返りには芍薬甘草湯が素晴らしい効き目を発揮することがあります。また、手術後の回復に大建中湯を用いたり、認知症や子どもの夜泣きなどには抑肝散を使うこともありますし、女性の更年期でのホルモンバランスの乱れや自律神経系の症状には、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散などの漢方薬が良い効果を表すことも多くあります。
医学の進歩とともに次々に登場した新しい西洋薬の存在により、医療現場での漢方薬への依存度は低下傾向にあると感じます。確かに漢方薬を使うまでもなく、西洋薬での治療で症状が改善するというケースは増加しています。「病名漢方」的な活用では、すべての方、すべての症状に効果的であるとは言い難いところもありますが、体質によってはとてもよく効くケースが確かにあります。ご自身の体質と薬の特徴がつかめれば、量の増減により、効き目を調整することも漢方薬では可能です。まずは、一度ご相談いただければと思います。
医療生協かながわ生活協同組合 藤沢診療所
医院ホームページ:https://mc-kanagawa.or.jp/network/hospital/369
JR線・小田急線・江ノ島電鉄線「藤沢」駅より徒歩10分。国道467号が交わる「藤沢橋」交差点より徒歩で1分の県道30号沿いにあります。白とさわやかな空色の外壁が印象的な診療所前に3台、傍に4台分の無料駐車場も完備。子育て中の若い世代から高齢者まで、幅広く愛される診療所です。詳しい道案内は医院ホームページから。
診療科目
内科、整形外科、精神科、在宅療養支援診療所
野本哲夫(のもと・てつお)院長略歴
1999年 医療生協かながわ生活協同組合 藤沢診療所所長 内科医
■所属・資格他
神奈川県保険医協会理事