植松耳鼻咽喉科医院 岩崎紀子院長
~漢方薬の新時代診療風景~
漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。
当時画期的だった「女性外来」で漢方と出会う
医師として初めて漢方と出会ったのは、今から10年ほど前のことです。石川県の金沢医科大学で当時新設された「女性外来」に参加したことがきっかけでした。今でこそ知られる存在となった「女性外来」ですが、当時、国内ではかなり先駆的でした。
「女性外来」では婦人科系の疾患や、更年期の女性に特有の症状などを主に診療します。検査をして症状の原因が突き止められるものもあるのですが、なかには原因が特定できない、いわゆる不定愁訴も多くあります。そうした不定愁訴を含め、症状の改善のためには対症療法的な処置だけでなく、全身のバランスを整えることが重要です。そこで、積極的に漢方薬を取り入れるようになったのです。
女性の漢方薬と言われる当帰芍薬散は血流を促進して全身に栄養を送り、体を温める効果があります。体が冷えることによって起こりがちな女性の症状に効果的です。また逆に体に熱がこもりがちな方には釣藤散を処方します。全身の「気」「血」のめぐりを整えることで、めまいや慢性的な頭痛などを落ち着けるのです。
耳鼻咽喉科の各種症状にもさまざまな漢方薬を処方
漢方薬は私の専門領域である耳鼻咽喉科の診療でも多岐にわたり活用できます。先に女性の漢方薬として挙げた当帰芍薬散ですが、これは全身のめぐりを良くして余分な水分の排出を促しますので、蓄膿症や鼻づまりによる嗅覚障害などにも使っています。
また、耳鼻咽喉科で男女問わずよくあるのが、めまいや耳鳴りの相談です。めまいはその原因によって、利尿作用のある小青竜湯や、越婢加朮湯といった漢方薬を使い分けています。耳鳴りにはビタミン剤と合わせて釣藤散、牛車腎気丸を使って、細かい血管の血流障害を取り除く処方が効果的です。
ストレスが原因で起こる耳鳴りも多いのですが、抗不安薬などをお出しすると、「心の病なの!?」とショックを受けてますますストレスを抱える方がいらっしゃいます。そうした方には漢方薬をお出しして、「すぐに効くものではありませんがじっくり治していきましょう」とお話するようにしています。
問診、舌診で見つかる不調にも積極的に漢方を
当院は耳鼻咽喉科ではありますが、耳、鼻、喉に限らずさまざまな不調を抱えた方がいらっしゃいます。また、耳鼻咽喉科の症状で来院された方でも、問診、舌診を含む診察により、別の不調が見つかることもあります。昨今増加している逆流性食道炎などでは、消化不良が起こっているため舌にむくみが生じ、歯型がついている場合が多いのです。そんな胃腸の不調には六君子湯を処方しています。
むせるような咳が止まらないという咳喘息のご相談も最近増えていますが、これはアレルギーや温冷差への反応が原因のことが多いようです。また、原因不明の喉の違和感を訴えて受診される方も多くいらっしゃいます。こうした喉の症状には半夏厚朴湯や麦門冬湯が効果的です。
認知症、アルツハイマーやうつ病、子どものチックにも
大人も子どももストレスの多い時代、イライラや不眠に悩む方、また吃音やチックなどの症状を抱えたお子さまなどもいらっしゃいます。抗不安薬という選択肢もありますが、特にお子さまではそうしたお薬を飲ませることには抵抗が強い親御さんも多いものです。そうした「気」の高ぶりからくる症状に、当院では抑肝散を処方しています。
近年、この抑肝散が認知症の初期症状を抑える働きを持つという報告があり、学会でも注目されています。アルツハイマー病などで衝動性が出ている方にも、比較的即効性を発揮します。同様の効果を持つ西洋薬にありがちな、眠気や虚脱感などの副作用もありませんので、健康な状態にある方でも安心して服用していただけます。
このように、漢方薬は全身のありとあらゆる症状に対応できるものが揃っています。また、全身への作用で諸症状を緩和するため、意図した症状だけでなく、体の別の部分で思わぬ改善が見られることも。たとえば風邪の時によく使われる葛根湯は、肩こりの緩和にも効果的なことがあります。全身を穏やかに整えることで、さまざまな効果が期待できるのが漢方薬なのです。
植松耳鼻咽喉科医院
横浜市旭区上白根1丁目、相鉄線「鶴ヶ峰」駅から歩いて25分ほど。「西ひかりが丘行き(旭11) 」バス「谷戸入口」停留所下車。先代から地域に愛され続けてきたクリニック。1941年より先代院長の娘である岩崎紀子院長が医院を継承。
診療科目
耳鼻咽喉科
岩崎紀子(いわさき・のりこ)院長略歴
2004年 植松耳鼻咽喉科医院院長
2009年 金沢医科大学耳鼻咽喉科非常勤講師
■所属・資格他
日本耳鼻咽喉科学会、金沢医科大学耳鼻咽喉科非常勤講師、咳嗽診断基準検討委員、咽頭アレルギー診断基準評議員 等