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たらお内科・消化器科 多羅尾和郎院長

公開日:2016.08.17
カテゴリー:外来訪問

~漢方薬の新時代診療風景~
 漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
 近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
 漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。

優れものの漢方薬を取捨選択し、幅広い診療に応用

 1986年に消化器内科部長として神奈川県立がんセンターに入ってから、2002年に同センター病院長、2004年にはセンター長を歴任させていただきました。私の専門は肝臓疾患を中心とした消化器内科ですが、センターを辞する際に多くの患者さんに診療継続を請われ、要望に応える形で2005年に開業しました。以来、新しく通っていただく患者さんも増え、現在は消化器内科に限らず広く一般内科診療を提供しています。
 私は「どんな病気でも漢方薬で治す」という方針ではなく、「数ある漢方薬の中から”優れもの”を選択して治療に取り入れる」というスタンスです。中医学を深く学んだ経験もありませんし、漢方薬がどういうメカニズムで効果を出すのかも説明できません。しかし、西洋薬、漢方薬の隔てなく、「効くものは効く」のです。特に漢方薬については、「効くか効かないか」に重点をおいて取捨選択し、治療に活用してきました。

「十全大補湯」の可能性を追求、末期がん患者のQOL向上にも

 消化器内科における漢方薬適用といえば、十全大補湯ではないでしょうか。虚弱時の体力増強に働く十全大補湯は、肝機能異常の疑いを示すGTPの値を下げる力を持っています。すべての人に効果があるわけではありませんが、インターフェロンなど従来の肝炎治療ではかばかしい効果が得られなかった人が、十全大補湯を3か月ほど服用することで、驚くほどスッと数値が下がるというケースもありました。そのうえ、重篤な副作用がないという安全な漢方薬であり、がんセンターでもC型肝炎の患者さんなどに積極的に使ってきました。2010年にはがんセンターでの臨床データをまとめ、『東洋医学雑誌』に「C型慢性肝疾患(慢性肝炎・肝硬変症)難治例に対して十全大補湯は第3の肝庇護剤になりえるか」という論文を発表しました。
 とはいえ、数か月経口で服用するだけで、C型肝炎ウィルスを90%以上の高確率で排除することができる画期的な新薬が開発されたことで、患者さんも減り、結果としてC型肝炎治療薬としての十全大補湯は役目を終えた感があります。しかし、その力は現在でも神奈川がんセンターをはじめとする全国の病院で活用されています。先にもお話したとおり、十全大補湯には体力を増強し抵抗力を増す効果があります。これが、末期のがん患者さんにとって、QOLを高める大きなサポートとなるのです。抗がん剤治療の副作用で体力を奪われたがん患者さんが、十全大補湯を服用することで、食欲を取り戻し、元気が出てくるということは少なくありません。
 こうした治療補佐的な用途でも、十全大補湯は古くから神奈川がんセンターで使用されてきました。私ががんセンターに入った当時には、すでに当たり前のように使われていた記憶があります。長く臨床に生かされてきた実績のうえに、経験による効果が広く知られているのです。

効用を第一理由に、実践的な漢方薬の選択

 これまで多く使ってきた漢方薬は十全大補湯ですが、他にも症状に合わせて経験的に「効く」ことが分かっている”優れもの”の漢方薬を診療で使ってきました。
 肝硬変の患者さんでは下肢が攣りやすいという傾向があります。たとえば、ふくらはぎの筋肉が痙攣するこむら返りは、とても痛いものです。こうした下肢筋肉痙攣に効果があるのが、芍薬甘草湯です。この漢方薬の効き目は素晴らしく、筋肉痙攣の痛みに耐えている人も、服用後30分ほどで楽になるとおっしゃいます。
 さらに、長く続く辛い咳。これには麦門冬湯を処方することが多いです。また、風邪のだるさには葛根湯も素晴らしい効き目を発揮します。胃の不調には六君子湯、便秘には便を柔らかくしてくれる大建中湯も処方しています。さらに頑固な便秘には麻子仁丸や、大黄甘草湯を出すこともあります。
 これらの漢方薬は、私がこれまで使ってきた経験から、効果があるだろうと思われるものをおすすめしています。とはいえ、一度その効果を実感された患者さんからは「また同じ漢方薬をお願いします」と頼まれることもあり、特に高齢の患者さんに漢方薬志向が高いと感じます。

健康を支えるのは「足腰の強化」と「前向きな気持ち」

 医療の一線に居続けるためには、日進月歩の医学についていかなくてはなりません。次々登場する新薬の効果や副作用なども、的確に把握しておく必要があります。現場での診療を長く続けてきましたが、興味を失ったらおしまいだと感じています。睡眠時間も確保が難しいような毎日ですが、気持ちを前向きに保つことで健康維持できているようです。
 特別な健康法を実践しているとは言いづらいのですが、年齢を重ねてから特に「歩く」ことを意識して行っています。通勤も含めて毎日最低30分は歩いています。特に体が疲れていると感じる時こそ、タクシーを止めたい気持ちを抑えて歩きます。あとは、数年前に「四股を踏むのが良い」と聞いて以来、毎夜25~30回くらい四股を踏むことを習慣づけています。下半身と腰の強化はこれからの人生を元気に過ごすために欠かせないものですから。
 こうした日々の積み重ねと常に前向きに挑戦する姿勢のおかげで、開業以来、現在も継続して満足のいく医療を提供できていると感じています。開業後11年で発見した肝がんは36例、早期がんは20例にも及びます。これからも長年の経験を生かして、地域のみなさまの健康な生活に寄与していきたいと思っています。

たらお内科・消化器科

医院ホームページ:http://www.myclinic.ne.jp/tarao/pc/index.html

横浜市旭区、相鉄線「二俣川」駅南口より徒歩3分。西友ストア前の大洋ビル3階。神奈川県立がんセンターのセンター長を務め、2013年に日本医師会 最高優功賞も受賞した多羅尾和郎院長が、センター時代の患者からの要望に応えて2004年に開院したクリニック。詳しい道案内は医院ホームページから。

診療科目

内科、消化器科

多羅尾和郎(たらお・かずお)院長略歴
昭和40年 横浜市立大学医学部卒業
昭和45年 横浜市立大学医学部大学院卒業 医学博士取得
昭和53年 米国ノースウェスタン大学客員助教授
昭和54年 横浜市立大学第3内科助教授
昭和61年 神奈川県立がんセンター 消化器内科部長
平成14年 同センター 病院長
平成16年 同センター センター長
平成17年 同センター 顧問
平成25年 日本医師会 最高優功賞 受賞
■所属・資格他

日本消化器病学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本内科学会認定医、日本消化器病学会功労会員、日本消化器内視鏡学会功労会員、日本癌学会名誉会員、日本肝癌研究会特別会員など

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