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さっぽろ麻生クリニック 谷岡富美男先生

公開日:2015.02.18
カテゴリー:外来訪問

~漢方薬の新時代診療風景~
 漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
 近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
 漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。

突然の脳梗塞で寝たきりになった祖母

 私は昔からものづくりが好きで、ずっと建築を学びたいと思っていました。中学までは静内町(現・新ひだか町)で過ごし、全寮制の函館ラ・サール高校へ進んで大学は建築学科と決めていましたが、高3のときに大好きだった祖母が脳卒中で倒れましてね。命は取り留めたものの、それまで元気に動いていた人が、突然目の前で寝たきりになったことに強いショックを受けました。
 その体験をきっかけに、進路を医学部に変更して青森の弘前大学に入学しました。専門は全国的にも先進的なレベルだった麻酔科に入り、卒業後もそのまま麻酔科の医局に7年、さらに集中治療部の専門医として5年所属しました。

集中治療室で感じた生命力の不思議

 麻酔科医である私たちは、手術中に起こるさまざまなことを瞬時に判断し、対応しなければなりません。弘前大学の集中治療部には、生きるか死ぬかといった重症の患者さんが運び込まれてきます。本当に凄まじい現場で、いろんなことを考えさせられました。
 中でもいちばん強く感じたのは、「ひとの命が助かるかどうかは、本人の持っている生命力による」ということです。例えば、同じケースの患者さんに対して同じ治療を施しても、生きる人と、命を落とす人がいる。我々がどんなに一生懸命やっても、です。生命力とは、体力とか、生きる気力とも違うんですね。野生動物のように体が持っている回復力、または生きるための総合力とでもいうんでしょうか。そういった計り知れないものの存在や、医師ができることには限界があり、我々は最善を尽くすのみであることを深く悟りました。

西洋薬は引き算、漢方薬は足し算


治療室にはベッドが10台ある

 私が30代後半のころ、両親が高齢になってきたこともあり、学生時代から18年間過ごした弘前を離れて北海道に戻りました。勤務先は、大学の先輩が院長をしていた恵庭市の恵み野病院です。内科や外科もある総合病院で、麻酔科医としてだけでなく人工透析の管理も行いました。そこで私は、これからは一般的な診療に対して漢方薬も役立つのではと思い、漢方で有名な松田邦夫先生のセミナーへ通うようになりました。
 透析部門にいて驚いたのは、患者さんが飲む薬の多さです。それこそ、西洋薬が何十種類もありました。人工透析の後には、頭痛を起こす患者さんもいます。ある時、そんなひとりの患者さんに呉茱萸湯を飲ませたところ、その痛みが見事に解消しました。その後も便秘の患者さんに大黄甘草湯を処方するなど、漢方薬を使うようになりました。
 西洋薬は高熱を下げる、痛みを取るといった、過剰なものを取るのが得意です。いわば引き算ですね。先ほど挙げた大黄甘草湯も引き算の薬といえますが、漢方薬の多くは、その人に足りないものを補う、つまり足し算をするという特徴があります。体が冷えやすいとか、気力がなく疲れやすいといった「足りないがゆえに痛みがある人」には呉茱萸湯のような漢方薬が非常によく効きます。

片頭痛になりやすい体質には漢方薬が効く

 1997年、元北海道大学助教授で恵北病院の後藤康之院長に勧められて、私は札幌市北区に「痛みの外来・さっぽろ麻生クリニック」を開業しました。
 当院には、肩、首、足、腰などの痛み、それから片頭痛、帯状疱疹痛の方などが来られます。個々のクリニックはたいてい得意分野があるものですが、私の場合は片頭痛で、約9割の方に漢方薬を処方しています。片頭痛は本来その人が持っている体質によって起こりますが、漢方薬はこういった体質の治療にとても適しています。
 私が学会にも発表した、片頭痛の患者さんに処方した漢方薬をまとめたデータがあります。割合の多いものは当帰四逆加呉茱萸生姜湯、呉茱萸湯、桂枝人参湯、五苓散ですが、必ず腹診と舌診をして判断しますので、患者さんにより種類は多岐にわたります。また、気うつがある場合には、抑肝散加陳皮半夏などの漢方薬も併用します。もちろん、西洋薬も使っていきます。
 片頭痛で悩んでいる方は、胃腸が弱い、冷え性、下痢をしやすいといった体質であることが多いですね。もう1ついえば、漢方でいう肝、つまり自律神経の交感神経が緊張しやすい傾向もあります。治療をして良くなると、診察室に入ってきた患者さんの顔を見ただけで分かります。寝込んでしまうほどの辛さがなくなって、日常生活がラクになる。だから、表情がすごく明るくなるんです。

人間には本来回復力が備わっている


待合室の奥には、腰痛などの患者さんが横になって待てるように3畳ほどの小上がりもある。移動がつらい患者さんのためには車いすも用意している

 足腰といった整形外科の領域で来られる高齢の患者さんには、よく「私の痛みは完全に治りきりますか?」と聞かれます。でも、私の答えは残念ながらノーです。人間は本来回復力を持っており、何もしなくても自然と治る痛みもありますが、加齢に伴う痛みがなかなか取れないのは、自分の回復力が及ばない何らかの原因があるということです。
 当院では神経ブロックや西洋薬、漢方薬で痛みの悪循環を断ち切り、その人の持っている回復力を高めて痛みを軽減してあげることができます。でも、そこからはご自身の努力が必要です。ですから、痛みが再発しないように、運動することや適正な姿勢を保つこと、体を冷やさないといった日常生活での努力が大切なことをお伝えしています。私もオフの日は、自宅近くの森林で夏はノルディックウォーキング、冬は歩くスキーをしています。南米の縦笛、ケーナも好きで、森の中で吹くときもありますね。気持ちいいですよ。
 最近は、中国伝統医学の古典『傷寒論(しょうかんろん)』の研究会に参加しています。実は漢文が大の苦手なんですが、いつも一生懸命に読み解いています。山に登るのもアプローチが1つではないように、自分の道しか知らなければ視野が狭くなってしまいますから。今の当院は神経ブロックが中心ですが、私自身がさらなる力をつけて、漢方治療も本格的に掲げていきたいと思っています。

医療法人社団 さっぽろ麻生(あさぶ)クリニック

札幌市営地下鉄南北線麻生駅2番出口からJR新琴似駅方向へ徒歩2分。JR学園都市線 新琴似駅下車、徒歩5分。近くに提携駐車場(麻生商店街駐車場)がある。

診療科目

麻酔科(ペインクリニック)

谷岡富美男(たにおか・ふみお)院長略歴
1978年 弘前大学医学部卒業
1982年 同大大学院医学研究科修了
弘前大学医学部附属病院麻酔科、集中治療部を経て
1990年 恵み野病院麻酔科麻酔科部長
1994年 さっぽろ麻生クリニック開設
■所属・資格他

日本麻酔科学会、日本ペインクリニック学会、日本東洋医学会

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