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東京医科大学病院 漢方医学センター 及川哲郎先生

公開日:2023.11.27
カテゴリー:外来訪問

~漢方薬の新時代診療風景~
 漢方薬は、一般に知られる処方薬(西洋医学)では対処が難しい症状や疾患に対して、西洋医学を補完する使われ方も多く、今後の医療でもますます重要な役割を果たすと考えられます。
 近年、漢方薬の特性については科学的な解明が進んだこともあって、エビデンス重視の治療方針を取る医師の間でも漢方薬が使用されることが増えています。
 漢方薬を正しく理解して正しく使うことで、治療に、患者さんに役立てたい。日々勉強を重ねる、身近な病院の身近なドクターに、漢方活用の様子を直接伺いました。ドクターの人となりも見えてきます。

漢方医学センターの歴史と特徴

東京医科大学は、多くの高名な漢方医を輩出してきた、いわば漢方の名門です。その筆頭ともいえる矢数道明(やかず どうめい)先生のお孫さん、矢数芳英(よしひで)先生が中心となり、2007年に東京医科大学病院(以下、当院)に開設した漢方外来が、漢方医学センター(以下、当センター)の前身になります。

当センターは2019年の新病院開院を契機に、新たな当院の特色のひとつとして、より一層の症状改善や生活の質向上を目指し、開設されました。

当院に通院、入院中の患者さんを中心に、現代医学的な視点と異なる、古くからの日本の伝統医学「漢方医学」による診断、治療法を今の時代に生かし、様々な症状で困っている患者さんの役に立てるよう、鋭意治療にあたっています。

スタッフは全員、現代医学の専門分野を修得しているとともに、漢方専門医の資格を持った漢方治療のエキスパートです。幅広い症状に対する的確な治療が受けられ、さらに必要に応じて外部の施設とも連携し、鍼灸の併用も可能です。

一方で、現代医学的な検査や診断も十分に行いつつ、漢方による治療を併用しています。こうした、漢方医学と西洋医学を融合した統合医療的なスタンスが取れるのは、当センターが大学病院内にあることが大きいといえます。

漢方が拡げてくれた治療の可能性

私は元々、消化器内科を専門とする医師でした。しかし、患者さんに接するうち、世間一般的な西洋医学だけの治療に物足りなさを感じるようになっていきました。

多くの病気には、専門医たちが作った一般的な診断・治療の進め方の指針(以下、ガイドライン)が存在します。ガイドラインに基づくことで、エビデンス※1の高い治療を広く普及できるメリットがあります。

一方で、ガイドラインどおりに治療しても上手くいかない患者さんもいます。例えば、胃の痛みに対して胃カメラの検査を行ったところ、結果は「異常なし」、でも痛みは歴然としてある。こうした場合、ガイドラインに沿った治療で症状が改善しないと西洋医学だけではほぼ次の手がありません。

ですが、そうした状況に漢方などの東洋医学的な対処法を加えることで、治療の幅は大きく拡がり、つらい症状の緩和・改善の可能性も高まります。そうした点に惹かれて漢方治療に携わるようになっていきました。

※1:薬や治療方法などに対し、それがよいと判断できる証拠、科学的根拠のこと。

漢方医学センターの患者像と具体的な治療例

① 患者像

2019年4月より2022年12月までの漢方外来初診患者431名について、解析を行いました。その結果、初診患者さんについて見ると、男性が145名、女性が286名で、年齢層は8歳から94歳までと幅広く、平均年齢は50.8歳でした。

患者さんの紹介元は、当センターを内設する総合診療科が193名と圧倒的に多く、次いで、消化器内科32名、乳腺科25名、麻酔科22名、そのほか耳鼻咽喉科や乳腺科などでした。

患者さんが訴える主な症状としては、腹痛、胃部不快感などの消化器系が最も多く、次いで腰痛や下肢痛などの痛み(疼痛)、さらに倦怠感、しびれ、めまいなどが続きます。

このほか、難病患者さんを専門に受け容れる大学病院ならではの対応として、アレルギー性疾患の症状軽減、体質改善や、抗がん剤などの副作用の軽減にも漢方治療が有効活用されています。

② 具体的な治療例

27歳 女性

主な症状(主訴)
左胸鎖関節痛、倦怠感
現病歴
数年前から主訴があり他院で精密検査を受診済。膠原病などの可能性は否定されたが診断つかず。仕事への支障から月1程度のブロック注射(対症療法)を実施するも軽快せず。
漢方による治療と経過
漢方の考えに基づく診断の結果、後述の職場環境や慢性的な強い痛み、冷えのぼせほか瘀血(おけつ)※2の徴候が見られたことから「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) 」を処方。1か月で倦怠感が大きく改善し、平時の体温も上昇。胸鎖関節の痛みも改善して仕事に集中でき、休むこともなくなった。

及川先生のコメント

漢方治療では大きく4つの診断方法を用いますが、この患者さんには特に問診(もんしん)※3を重視しました。症状の背景を深く広く探るべく、十分時間をかけて詳しくお話をうかがったところ、「魚介を扱うお仕事で1日8時間も冷水を体に浴びる職場」にお勤めされており、痛みには強い冷えが関わっていることが判明しました。まさに西洋医学だけでは判断が困難な状況に対して、漢方医学的な視点・診断が功を奏した一例だといえます。

※2:体の隅々まで血が行き渡らない血行不良、末梢循環不全を表す言葉。手足が冷えて頭がのぼせる(冷えのぼせ)、こりや痛み、しみ・そばかす等の症状が現れることが多い。
※3:漢方治療における診断方法のひとつ。患者さんやその家族などから、自覚症状はもちろん、西洋医学の問診ではあまり重視されないような普段の生活習慣や食生活、趣味嗜好など心身にかかわる詳細な情報を収集する。

患者さんにも医師にもメリットのある漢方治療の拡がりを目指す

開設から5年目を迎え、所属医師の数も増えた当センターですが、センター自体の規模拡大以上に、当院で働く医療従事者やスタッフの漢方医学に対する興味・関心の惹起、知識・経験の底上げが、私の究極の目標です。

言い換えれば、当院の医師なら、少なくとも自身の診療科に関わる漢方処方はある程度行えるようになっていただきたい。そのうえで、より困難な状況に対して当センターを利用するという形になっていけばと考えています。

そのための取り組みとして、定例のカンファレンスにおける症例紹介、さらに初学者から専門医を目指す方まで階層別の勉強会やセミナーを定期的に実施しています。その甲斐もあってか、本年の東洋医学会の一般演題の発表数は当院が全国一位でした。漢方の専門医資格を取得する医師も増加傾向にあります。

とはいえ、病院全体で見れば、まだまだ漢方の浸透度合いは低いのも事実です。そこで、「“自身の臨床の幅を拡げる一環として漢方治療に携わってみたい医療従事者”にとっても、“西洋医学だけでは治しきれない不調や症状を東洋医学で補完する統合的な治療を受けたい患者さん”にとっても、当院なら満足のいく治療が行える」、そうした評判が拡がっていくよう、今後も引き続き、院内外への啓発などに取り組んでいきたいと考えています。

(取材・文:岩井浩)

東京医科大学病院

医院ホームページ:https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/

地下鉄丸ノ内線「西新宿」駅よりすぐ、都営大江戸線「都庁前」駅より徒歩約7分。詳細は公式ウェブサイトへ。

各科診療部門

総合診療科、血液内科、呼吸器内科、循環器内科、糖尿病・代謝・内分泌内科、リウマチ・膠原病内科、脳神経内科、消化器内科、腎臓内科、感染症科、高齢診療科、臨床検査医学科、メンタルヘルス科、小児科・思春期科、呼吸器外科・甲状腺外科、心臓血管外科、消化器外科・小児外科、乳腺科、眼科、脳神経外科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、整形外科、形成外科、麻酔科(ペインセンター)、皮膚科、歯科口腔外科・矯正歯科、産科・婦人科、泌尿器科、放射線科、臨床腫瘍科、病理診断科

及川 哲郎(おいかわ・てつろう)先生略歴
東京医科大学教授、東京医科大学病院 漢方医学センター長
1986年浜松医科大学卒業後、国立がんセンター研究所細胞増殖因子研究部リサーチレジデント、藤枝市立総合病院消化器科医長、東京専売病院(現国際医療福祉大学三田病院)内科部長、北里大学東洋医学総合研究所副所長を経て、2019 年より東京医科大学総合診療医学分野准教授(2021年より教授)、同大学病院漢方医学センター長に就任。日本内科学会認定総合内科専門医、日本専門医機構総合診療専門研修特任指導医ほか。日本消化器病学会本部評議員および関東支部評議員、日本東洋医学会理事・代議員、和漢医薬学会理事・代議員、東亜医学協会理事、日本漢方医学教育振興財団理事。

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