高齢者と漢方 vol.1

[病気と漢方] 2020/02/28

 日本は現在、全人口の28.4%1)、およそ3人に1人が65歳以上という超高齢社会を迎えています。高齢化率は今後も上昇を続けると予測されており、2065年には約40%にもなると見られています2)。こうした背景をふまえ、筑波大学附属病院臨床教授で野木病院副院長の加藤士郎先生は、「元気な長寿を目指すには、漢方薬が必要」と話します。その理由についてお伺いしました。

高齢になると薬が増える

 若い頃に比べると「体力が落ちたな」「俊敏性がなくなったな」と感じることは、30代くらいの人でもあると思います。加齢に伴い、筋力や肺活量、病気に対する抵抗力が低下することを老化といいますが、早い人であれば20歳過ぎ、遅くとも30歳を過ぎた頃から少しずつ老化が始まります。老化のスピードは生活環境により変化しますが、一般的には40代から加速します。老化が進んでいくと、全身の臓器の機能が低下し、さまざまな疾患が複合して起こるようになります。これを老年症候群といいます。老年症候群は高齢者の多くに見られます。

 例えば、80歳の男性の場合を見てみます。この方は、眼には白内障があり、腰は腰椎症、下半身には脱力感や冷え・しびれがあり、夜間の頻尿、軽い高血圧があります。この方が、一般的な診察を受けるとなると、内科、眼科、整形外科、泌尿器科と少なくとも4つの科を回ることになり、結果的に7~8種類もの薬を内服することになります。福岡県でのレセプト調査3)でも、70歳以上の高齢者が平均で6種類以上の薬をふだんから服用していることがわかっています。

転倒からの骨折で寝たきりや認知症になるリスクも

 薬の種類が増えることで、医療費が増えることはもちろん、薬同士の相互作用や飲み忘れ、飲み間違いなどによって薬物による有害事象(副作用)が起きやすくなります。また、高齢者は生理機能が衰えてくるため、若い人と同じ薬を飲んでいても効きすぎてしまうこともあります。

 東京大学大学院の秋下雅弘先生の調査では、5剤以上のお薬を服用しているとお薬による副作用が起きるリスクが高くなると報告されています4)。高齢者に多い副作用は、ふらつきや転倒、物忘れです。秋下先生の同じ調査では、お薬を5剤以上使う高齢者の4割以上に転倒やふらつきが起きている報告されています。高齢になると骨がもろくなるため、少しの転倒で骨折してしまい、それがきっかけで寝たきりになったり、寝たきりが認知症を発症する原因となる可能性もあります。そのほかに、うつや、せん妄、食欲低下、便秘、排尿障害などが、薬の副作用として起こりやすくなっています。

漢方薬を用いれば薬の数を大幅に減らすことができる

 一方、漢方医学は、「心身一如(しんしんいちにょ)」という考え方を基本としています。これは、心と体はひとつで、心の症状、体の症状と区別するのではなく、社会的背景も含めたその人全体を診るという考え方です。

 高齢者の多くは、漢方医学でいうと「腎虚」の状態です。腎虚とは、生きていくための生命力(腎)が少なくなる(虚)という概念で、全身の機能が低下した状態をいいます。疲れやすくなった、目がかすむ、夜間の頻尿、手足の冷え、足のしびれや皮膚の乾燥などが腎虚の代表的な症状です。

 漢方薬は、いくつかの生薬の組み合わせでできています。ひとつの漢方薬に複数の成分が含まれており、複数の症状の改善にも効果が期待できます。これが西洋薬とは異なる点です。そのため、前述の80代の男性の場合、漢方薬を用いることで大きく薬の量を減らすことができます。

 高血圧以外の症状が、加齢を主な原因として起こっている場合には、降圧剤と八味地黄丸(はちみじおうがん) の二種類を処方します。疲労感が強く、気力が低下していたり、食欲が落ちている、風邪をひきやすかったり、夏バテ気味というときには、八味地黄丸の代わりに補中益気湯(ほちゅうえっきとう) を、皮膚や口の乾燥が気になる場合は麦門冬湯(ばくもんどうとう) を、冷えやうつ傾向が強く出ていれば六君子湯(りっくんしとう) が有効です。このように、西洋医学的に診れば同じ疾患でも、漢方医学では、どの症状が強く出ているか、またはどの症状に一番困っているかで、お薬が変わるのも特徴です。つまり、本当にその人に合ったお薬を見つけることができるのです。

冷えやしびれなどの症状も漢方薬で改善できる

 漢方薬のメリットはそれだけではありません。西洋薬では改善がなかなか難しい冷えやしびれなどの症状にも対応でき、検査には現れにくいちょっとした不調の改善にも役立ちます。また、漢方医学では、生活指導もよく行われます。

 例えば冷え性の場合、緑茶やコーヒーなど体を冷やす飲み物を避けること、食事は和食で、温野菜をよく食べるようにする、腹巻きやカイロで体を冷やさないようにすること、少しずつでもいいので運動をするなどです。

 血圧を下げたり、細菌を殺す、精密検査をするなど、西洋医学のほうが得意な分野はあります。西洋医学のほうが得意な分野は西洋医学で対応し、それに漢方診療を併用することで、高齢者には多くのメリットが生まれます。いくつもの診療科にかかる必要性がなくなり、お薬の数も減らすことができます。西洋医学にはない日常生活の指導も受けることができ、西洋医学が苦手とする症状にも対応が可能になるうえ、医療費も削減できます。長寿のためには、心身ともに健康でいることが大切です。漢方薬を上手に利用して、元気な長寿を目指しましょう。

加藤士郎(かとう・しろう)先生
野木病院副院長/筑波大学附属病院臨床教授

1982年獨協医科大学卒業。2009年野木病院副院長、筑波大学非常勤講師。同年、筑波大学付属病院総合診療科に漢方外来開設。2010年から筑波大学付属病院臨床教授。

参考

  • 1)総務省:統計トピックスNo.121(2019年9月15日)
  • 2)内閣府:平成30年度高齢社会白書(全体版) 第1章 高齢化の現状
  • 3)寳滿 誠ほか:産業医科大学雑誌 2001;23(3):285-205
  • 4)Kojima T et al.:Geriatr Gerontol Int 2012;12:425-420
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