高齢者のポリファーマシー対策について考える 国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会2019 

[漢方ニュース] 2020/06/19
高齢者と多剤併用

 2016年に日本東洋医学会と日本漢方生薬製剤協会が共同で立ち上げた「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会」。2017年には超高齢社会の日本における漢方医療を取り巻く課題と対応策についてまとめた提言を発表しました。この提言を受け、研究事業などがそれぞれ進められています。2020年2月5日(水)に行われた「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会2019」では、高齢者のポリファーマシー対策やフレイルに対する漢方での治療について、講演と医療関係者の意見交換会が行われました。その内容をレポートします。

高齢者の薬物有害事象は6剤以上で高頻度に

 会では、東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授の秋下雅弘先生から高齢者のポリファーマシー対策について基調講演が行われました。

 ポリファーマシーとは、「Poly(複数)」+「Pharmacy(調剤)」を組み合わせた言葉で、必要以上の数や種類の薬が処方されることで、身体に何らかの害が及んでいること(薬物有害事象)をいいます。特に高齢者のポリファーマシーが問題となっており、2018年には厚生労働省からポリファーマシー対策として「高齢者の医薬品適正使用の指針」が発表されています。また、日本老年医学会からも、高齢者への処方を適正化するため、特に慎重な投与を必要とする薬のリストや開始を考慮すべき薬のリストなどをまとめた「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」、患者さん向け啓発冊子「高齢者が気を付けたい多すぎる薬と副作用」(日本医療研究開発機構研究費「高齢者の多剤処方見直しのための医師・薬剤師連携ガイド作成に関する研究」研究班、日本老年薬学会と共同で作成)が発表されています。

 秋下先生らが東大病院老年病科に入院している2,412名の患者に対し、処方薬剤数と薬物有害事象の頻度を解析したところ、6剤以上で高くなり、また都内診療所に通院する165名への追跡調査では5剤以上の服用で転倒発生頻度が上昇していたといいます1)

 高齢者のポリファーマシーが問題になっている背景には主に、1)いくつも疾患があるために複数の医療機関を受診していること、2)処方カスケードがあります。処方カスケードとは、服用している薬による有害事象を新たな病気の症状と誤認し、さらに薬を処方することで薬がどんどん増えていってしまうことです。「その結果、予期しない悪影響が起こる可能性もある」と秋下先生は言います。特に高齢者では、睡眠薬や抗不安薬、抗うつ薬などが認知機能の低下を引き起こすことがあり、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」にも慎重に投与するべき代表的な薬剤が紹介されています。

フレイルに対して多くのエビデンスをもつ漢方薬

 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」では、「高齢者の処方適正化スクリーニングツール」として、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」のほか、「開始を考慮すべき薬物のリスト」をあげています。さらに、それぞれの疾患領域別に指針を立てており、「漢方薬・東アジア伝統医薬品」もその1つとして取り上げられています。ただ、漢方薬は「特に慎重な投与を要するリスト」と「開始を考慮すべきリスト」のいずれにおいても、エビデンスレベルが十分ではないことから含まれませんでした。

 しかしながら、健康な状態と要介護状態の間で、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態である「フレイル」は、漢方医学の概念である「腎虚」と似た概念であり、漢方が得意とする治療分野だといえます。実際、漢方薬には、フレイルのさまざまな要素に対するエビデンス報告があるだけでなく2)、ひとつの薬でいくつもの症状を改善することも期待できます。

 秋下先生は「高齢者のフレイルに対して、漢方製剤は不可欠」だと言います。そのために、漢方薬のエビデンス構築を加速していくこと、また、現在の粉状の薬から剤形を変えるなど、高齢者が服用しやすくする工夫も必要になってくると締めました。

参考

  • 1)Kojima T, Akishita M, et al. Geriatr Gerontol Int 2012; 12(4): 761-762
  • 2)日本老年医学会ほか編. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015, 2015; メジカルビュー社. P139-151
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