在宅介護と漢方薬(2)介護疲れにこそ漢方を役立ててほしい理由

[病気と漢方] 2022/03/14

前回は、認知症があり、自宅で療養している高齢者に対して、漢方薬をどう役立てるかについて紹介しました。しかし、介護の現場では、在宅で介護を受ける人だけでなく、介護を担う側の心身のケアも解決すべき重要な問題です。在宅介護を受ける人や希望する人が増える一方で、終わりが見えない介護の負担は、介護を担う家族に重くのしかかってきます。そこで今回は在宅で家族の介護を担い、心身の疲れに悩む人に対して、漢方薬をどのように役立てられるのか、漢方医学に長年携わっているあきば伝統医学クリニック院長・秋葉哲生先生に伺いました。

心と体の両方を治療できる漢方薬

――漢方薬は介護疲れで悩む人にも有効なのでしょうか。

秋葉先生:有効なことが多いでしょう。漢方薬は、生薬と呼ばれる成分を複数組み合わせて作られています。そのため、多くの漢方薬は、一剤で心と体の両方に作用してくれます。介護を担うご家族には精神的な負担と肉体的な負担、その両方が大きくのしかかるので、イライラしたりパニックになってしまったりする人もいます。そうしたときに漢方薬を服用すると、身体症状だけでなく、心のつらさも軽くしてくれることがあるでしょう。当院でも最近は、漢方薬に心の不調の改善を求める人が増えています。

――2020年の調査では、新型コロナウイルス感染症の影響で半数程度の人が何らかの不安などを感じていたという結果1)も出ていました。介護の現場でも、緊急事態宣言等の影響でヘルパーさんがなかなか訪問できなかったり、家族への負担が増えたりしたのではないかと感じます。それも影響してもいるかもしれませんね。

秋葉:それもあるでしょうね。私がこの場所で漢方医学による診療を始めた昭和54年頃は、漢方薬といえばリウマチ、ひざ、腰などの痛みの改善や、ぜんそくの治療が圧倒的でした。現在、これらの治療は西洋薬が第一選択になっていますが、当時はまだそれらの薬が認可前で使えなかったこともあり、代わりに漢方薬を使うことが多かったのです。
最近では、問診の途中で泣き出してしまうなど、明らかに精神的な症状で受診される人が増えました。コロナ禍もそうですし、身内などを在宅で介護している人がストレスを抱えていらっしゃることも多いです。

「介護疲れ」にこそ、漢方薬を役立ててほしい

――厚生労働省が以前行った調査でも、介護を理由に離職した原因として「自分の心身の健康状態が悪化したため」をあげている人は多かったようです2)

秋葉:そうした、ご家族などの介護疲れで悩む人にこそ、漢方薬を役立てていただきたいと考えています。

――具体的にどのような漢方薬が役立つのでしょうか。

秋葉:抱えている疲労の種類によって異なります。精神的疲労が強いのか、それとも肉体的疲労が強いのか、さらに症状の特徴によっても用いる漢方薬が変わることがあります。代表的なものを一覧にしました。

介護疲れに役立つ漢方薬

主に精神的な介護疲れに役立つ漢方薬

抑肝散(よくかんさん)
興奮しやすい、イライラ、怒る、不眠などの精神神経症状を訴える場合に用いられる、代表的な漢方薬。イライラした気持ちが強くなっている場合などに効果を発揮しやすい。
古くから子どもの夜泣きに使われてきたが、子どもと一緒に、ストレスを抱えた母親にも使うと症状が改善しやすいため、「母子同服」が勧められることもある。介護の場でもそれと同じように、介護する側・される側に一緒に用いると、改善しやすいと考えられる。
抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
抑肝散と同様、神経過敏、興奮しやすい、怒りやすい、イライラ、不眠などの精神神経症状に用いられる。抑肝散の症状に加え、消化器系の不調がある場合、こちらのほうが適している可能性がある。
甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)
不安感、悲壮感、驚きやすい、寝つきが悪い、眠りが浅い、頭がボーッとするなどの症状に加え、食が細い、あくびがよく出るといった特徴がある場合に適している。とてもつらくて泣きたくなったり、気持ちに余裕がなく、パニックになったりするときに効果を発揮する。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
甘麦大棗湯と同じく、泣きたいほどつらくなった場合に用いるとよい漢方薬。神経質で几帳面な傾向があり、のどに何かつかえるような気がするときに服用すると、症状の改善につながることがある。

主に肉体的な介護疲れに役立つ漢方薬

加味帰脾湯(かみきひとう)
精神的疲労と肉体的疲労、その両方を改善する働きをもっているといわれる。一般的には不安、焦燥感、不眠、うつ状態、胃腸症状などが強い場合に用いられる。
帰脾湯(きひとう)
疲労回復に効果があるといわれる人参(にんじん)と黄耆(おうぎ)という2つの生薬が入った、参耆剤(じんぎざい)といわれる種類の漢方薬。加味帰脾湯と同様、精神的疲労と肉体的疲労の両方を改善する働きがあるといわれる。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
補中益気湯も参耆剤の一種で、疲労回復に効果を発揮しやすい。滋養に効果的で、なおかつ胃の負担になりにくい生薬で構成されているため、疲労回復をしたいけれど胃腸があまり丈夫でないという人には、補中益気湯がよいといわれる。
十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
補中益気湯と同様、疲労回復に効果的といわれる代表的な漢方薬のひとつ。体力低下、疲労倦怠感、食欲不振などに加えて、貧血の改善効果もあるといわれる。そのため貧血の症状がある人には十全大補湯が効果的だが、胃腸が弱い人にはあまりおすすめしない。
人参養栄湯(にんじんようえいとう)
全身の栄養状態を改善する漢方薬といわれており、遠志(おんじ)という生薬が不安・不眠などの精神神経症状の改善にも効果を発揮する。十全大補湯の適応があり、さらに不安・不眠などの症状が強い場合、人参養栄湯を用いることがある。

漢方薬で、早めに介護疲れの軽減を

――介護疲れに役立つ漢方薬にもさまざまなものがあることがわかりました。こうした漢方薬を用いることで、介護をされる人の心身の状態が少しでも楽になれるとよいのですが。

秋葉:その通りです。在宅介護の現場を拝見すると、介護をする側が疲れ切っていて、認知症を患っているご本人のほうが元気というケースが多々見受けられます。ですから、介護をする側のご家族に向けたサポートはとても重要です。世間ではまだまだ「家族なら介護くらいやって当然」といった、心ない言葉をぶつけてくる人もいます。疲れがたまった状態でそうした言葉をぶつけられると、余計にぐさりと刺さって、気力がなくなってしまうこともあります。そうしたことにならないよう、早い段階で漢方薬を使って、できるだけ心と体の不安を改善していただけたらよいと思います。

――ご家族が介護をされている場合、元気なときを知っているがゆえに、今の姿が情けなく感じられて、つらさが増すこともあると聞いたことがあります。

秋葉:体の状態はあまり変わりないけれど、認知症になってから性格が変わったように怒りっぽくなったり、疑い深くなったり、何度も同じ話に付き合わされたりというケースもあります。そうした状況に対応するのは大変なことです。また、コンロの火をかけっぱなしにしてあやうく火事になりかけたり、一度家から出ると帰ってこられなくなったり……となると、気が休まるときがありません。「家族だから」という責任感だけで乗り切れる問題ではなくなってくるのです。最期まで住み慣れたわが家で過ごすことを望む人が増えているのはたしかですが、実際に在宅介護をかなえるのは、決して簡単なことではありません。とはいえ、在宅での介護が難しいからといって、すぐに施設に入所できるものでもないというのが現状です。ご家族の介護を担っている人の多くは、大きなストレスを抱えながら日々を過ごされていることでしょう。
プロの力を借りて、介護の負担を軽減することはもちろんですが、漢方薬には、介護に携わられている人の心身の負担を軽減できる可能性があるということを、今後も伝えていきたいですね。

秋葉哲生(あきば てつお)先生
あきば伝統医学クリニック院長

医師。医学博士。千葉大学医学部卒業。国保旭中央病院を経て、1979年あきば医院を開院、1989年より現職。漢方は藤平健先生に師事。日本東洋医学会 漢方専門医・指導医/千葉大学大学院和漢診療学講座 客員教授を務める。
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