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シリーズ:季節の漢方 「夏の疲れを解消する養生法」

[病気と漢方] 2019/09/18
 1972年に日本初の漢方医学の総合的な研究機関として設立された北里大学東洋医学総合研究所。長い歴史を通じて、日本の気候や風土、日本人の体質や気質にあった形に発展してきた漢方には、季節ごとに生じる悩みを乗り切る知恵が詰まっています。そこで、北里大学東洋医学総合研究所の広報・医療相談室室長で薬剤師である緒方千秋先生に、季節にあった漢方の知恵を教えていただきます。第1回目は夏の疲れを解消する養生法です。

身体を動かし適度に汗をかくのが夏の養生法

 いよいよ夏も終盤にさしかかり、暑さや湿度に身体も心も疲れてしまっている方が多くいらっしゃるかと思います。これからの秋を健やかに迎えるためにも、夏の疲れを解消し軌道修正しておきたいものです。
 漢方における基本書である三大古典(中国・漢代)のひとつ、『黄帝内経』(こうていだいけい)「四気調神大論」(しきちょうしんたいろん)には四季の養生についての記載があります。

 同書では季節ごとの肉体的・精神的生活態度を論じ、人は天地の気に調和して生活するべきであると述べています。“春は発陳(はっちん)、夏は蕃秀(ばんしゅう)、秋は容平(ようへい)、冬は閉蔵(へいぞう)”とあり、夏である蕃秀は花咲き栄える季節と表しています。

 夏は天地の陰陽の気が活発に交流し、生きるものすべて花咲き実る盛んな時。人々は夜更かしせず、朝は早起きし、日の長いのに倦むことがないようにする。精神的にのびのびし、肉体的にはうっとうしさを除いて陽気を外へ出す。発散させ、鬱積しないように気をつける。

 これが、成長を特長とする夏の天地の気に相応じることであり、夏の養生法です。夏の養生を実践できないと、秋になると不都合な症状が現れると記載されています。外へ出て身体を動かして、適度に汗を流して気分的にも発散する、サマーバケーションなどという言葉が、夏の養生法に相応しいかもしれません。

 ここで汗について考えてみましょう。汗をかかないように冷房をつけて生活をして、身体がだるいと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。逆に暑い中でも頑張って外出し、適度に汗をかいた方が身体はすっきりすると感じることがありませんか。そう考えると夏は汗をかかないように冷房の中で過ごすより、適度に行動して汗をかいた方が良いのかもしれません。
 汗を出すことの目的のひとつに、体温調節があります。適度に汗を出すことで体温を下げて調節をしています。しかし汗を出しすぎると、かえって身体が冷え過ぎてしまいます。また夏には、冷房が効いている部屋から暑さの激しい外への移動により、身体が温度差にびっくりし、自律神経にも強いダメージを与えてしまうことが考えられます。身体の内外の温度調節には充分に注意を払う必要があります。

 夏を不快に感じさせるのは、気温(暑邪)だけでなく、湿度(湿邪)があります。例えばハワイは、暑いですが湿度が日本ほど高くないので、心地よく感じられ、日本人のリピート率が高いといわれています。湿度は身体の外の環境ですが、身体の内部にも湿度と同じ水分をさす概念があります。“水”(すい)や“津液”(しんえき)などと表現されています。
 夏にはこの“水”や“津液”が極端に過剰になりすぎたり、不足したりすることがあります。

 漢方では、身体の一部または全身に水が多くなった状態を「水毒」「水滞」「湿」「痰」といい、逆に不足している状態を「水虚」「津液不足」「陰虚」と表現します。夏場には、冷たい飲み物を好んで氷まで入れてたくさん飲んでしまうという経験はありませんか。それで逆に身体を冷やしてお腹をこわしてしまうこともあるでしょう。身体の水の異常としてすぐに現れるものは浮腫(むくみ)です。靴がきつくなったり、衣類の跡が身体についたり、顔が腫れぼったくなるなどです。
 漢方では、寝返りすると胃のあたりでぽちゃぽちゃする音がする、関節の腫れ、嘔吐、痰がでる、頭痛、めまいがするなども、身体の水の偏在によって引き起こる症状と考えられています。水が不足すると喉が渇く、声が枯れる、咳、肌の乾燥などがあげられます。さらに夏の暑さがプラスされると脱水症状、日射病や熱中症といった重篤な状態に陥ることがあります。

 このような暑さや湿度が厳しいなかで、どのようなことに気をつけたらよいでしょうかという質問を良く受けます。中には「熱帯夜だから眠れないのではないか」と不安や恐怖を感じてしまうなど、身体だけでなく心にも症状が現れている方もいらっしゃいます。実際に「熱中症で病院に搬送された」などというニュースがテレビなどで連日放送されていると、不安も一層増してしまうかもしれません。

 残暑がきびしい季節におすすめのハスとビワを紹介します。

ハスの話

 暑さを解消するには水辺の散歩をおすすめします。京都などでは、川の水の冷たさを利用して、川の上や側に座敷をつくって涼む、「川床」という夏の風物誌があります。東京では、7月~8月に花を咲かせる、ハスで有名な不忍池を、早朝に散歩するのもおすすめです。
 ハスの実は、漢方では「蓮子(れんし)」や「蓮肉(れんにく)」と呼ばれ、不安を除き、食欲不振や下痢を改善する生薬です。まさに夏にはもってこいの生薬です。蓮肉の中心に入っている緑色の芯を生薬名「蓮芯(れんしん)」と呼び、ベトナムではお茶として活用しています。精神を安定させ、ストレス緩和やリラックスさせさせる作用を期待して、就寝の前に飲むことがあるようです。カフェインは入っていませんが、苦味が強いのが特徴です。苦さには、熱を冷ます作用があると言われています。

ビワの話

 今でこそ冷暖房が完備されていますが、かつては、暖房はあっても冷房はありませんでした。人間だけでなく、食品を保管する冷蔵庫も昔はありませんでした。そのなかで打ち水をしたり、ツル性の植物でグリーンカーテンをつくったり、風鈴の涼しげな音、流しそうめんや水羊羹など水と関わりのある食物、浴衣やうちわといった、生活上の工夫をしていたことがうかがえます。現在と江戸時代では自然環境や衛生状態が同じではありませんが、夏の食あたりや暑気あたりには、関西・関東ともに枇杷葉湯(びわようとう)が庶民の強い見方でした。
 ビワの葉は「枇杷葉」という生薬名で、江戸時代にはこれを煎じて「枇把葉湯」と呼び、暑気払いの飲料としていました。関西では天秤棒を肩に担ぎ「暑気払いと霍乱(下痢)にたいしていかがですか」と言葉巧みに茶碗一杯を売って歩いていました。一方、江戸などの関東では、薬輔の店先でやかんに枇杷葉茶を煮立てて道行く人に振る舞いました。茶色の液体を、汗をかきかきフーフー冷ましながら飲んだとされます。冷たい物でなくても、温かい飲み物でも夏バテに用いることができるのです。

 一人一人の体質や体力などを考慮して、困っている症状を改善できる漢方的な工夫を考えながら、秋に向けての身体と心の軌道修正に努めましょう。

残暑がきびしい季節の漢方

自然環境:高温多湿に立ち向かう

  • サマーバケーションで気分転換をしておく
  • 適度に汗をかくことも必要である
  • 体温・気温の差にも注意を払う
  • 水の概念を理解する(多くても少なくてもダメ)

食養生:暑さに負けない。水の過不足に注意。食欲と体力の維持。

 漢方での理論「五行」で「夏」を考えてみましょう。「夏」は木火土金水の「火」、肝心脾肺腎の「心」に該当します。
 「火」は明るい熱のエネルギーですので、草木は成長していきます。私たちの身体も熱エネルギーにより活動的になりますが、一方身体に熱がこもりやすく不調をきたす原因にもなります。
 「心」は血を全身に巡らせる作用と精神を安定させる作用があります。心の働きが弱まると血を循環させる機能が低下し、血行障害が生じ、動悸や息切れの症状が現れることもあります。また精神状態が不安になり、イライラ、判断力低下や睡眠障害が現れることがあります。

  • 暑さや高湿度による体調不良
    → 苦瓜・冬瓜・キュウリ・緑茶・コーヒー など (苦味は清熱作用)
  • 暑さによる睡眠障害、イライラ
    → ハスの実・ナツメ・ハチミツ など
  • 発汗による水分不足、潤いを与える
    → スイカ・トマト・ハトムギ・白きくらげ など
    ※スイカやトマトに塩をかけることでミネラル分も補給
  • 水の偏在による浮腫を改善
    → タマネギ・マイタケ・トウモロコシ・小豆・なす など
  • 気の巡りを改善し食欲を増進
    → 赤紫蘇・ハッカ・ジャスミン茶・レモン など
  • 倦怠感や疲労回復
    → 豚肉・ウナギ など (ビタミンB1を含む)

漢方の知恵:病気でなく人を救う。心身一如、消化器症状や心の改善

緒方千秋(おがた・ちあき)先生
北里大学東洋医学総合研究所 広報・医療相談室室長、薬剤師。

北里大学薬学部を卒業、1年半医療機器メーカーに勤務後、現・北里大学東洋医学総合研究所薬剤部にて30年間、生薬を用いた漢方薬の調剤に携わり、様々な生薬に触れ、また多くの患者様と接してきました。その経験を活かし、現在広報・医療相談室を立ち上げ、これまで以上に患者様に向き合う漢方医療を目指しています。
子供の頃から伝統的なことが大好きで、周りからは少し変わり者扱いをされてきました。小学生で生け花をはじめ、中学生の時に師範を取得し、社会人になったのを機に茶道をはじめこちらも師範を取得しました。今も気づくと伝統医学を専門に扱う薬剤師になっています。一貫して伝統医学を重んじた生活スタイルを保っています。

【監修】

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