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花粉症(アレルギー性鼻炎)に対する漢方治療

公開日:2024.02.01
カテゴリー:病気と漢方

いまや日本国民の42.5%が抱えている1)という花粉症。例年、春先を目前に憂鬱になる方も少なくないのではないでしょうか。国民病ともいわれる花粉症について、漢方薬による治療が有効なケースや診断法、さらに処方の使い分けについて、なのはな耳鼻咽喉科 院長の境修平先生にお話を伺いました。

アレルギー性鼻炎で漢方薬を使うケース、使わないケース

アレルギー性鼻炎とは、Ⅰ型アレルギー(※1)に分類されるアレルギー反応で、私たちの身体に備わった免疫機能(IgE抗体)の過剰反応によるものです。大きく季節性と通年性に分けられ、中でも最も多いとされるのは、スギやヒノキなどに代表される季節性の花粉によるアレルギー、いわゆる花粉症です。

こうした花粉症などのアレルギー性鼻炎の患者さんに対しての漢方治療について、境先生は、「妊娠している方などを除き、基本的にまずは抗ヒスタミン薬やロイコトリエン拮抗薬、ステロイド点鼻薬などによる(西洋医学的な)治療を行います」と前置きしたうえで、「効果がみられない場合、漢方治療に切り替えることで、良好なコントロールを得ている患者さんもおられます」と話します。

さらに、漢方薬を処方する際に留意されていることについて、境先生は
「西洋薬で効果が得られなかった方の中で、漢方薬で効果が出そうな人(後述)に漢方薬での治療を提案します。ただし、粉薬(散剤)が飲めない方もそうですが、特に漢方に不安、懐疑をお持ちの方には、ある程度説明しても気が変わらない場合、無理には勧めません」と話します。
この対応は、患者さんの意志の尊重もありますが、アレルギー性鼻炎という病気の特質による部分が大きいといいます。

「アレルギー性鼻炎は、比較的、プラセボ効果(※2)が強い病気といえます。これは新薬を創るときに行う臨床試験のデータからも明らかで、他の疾患と比べてプラセボの効果が高くなっています。つまり、『この薬が効く!』との思いが強ければ効きやすい反面、『本当に効くの?』と疑っていると、薬理学的には効果が出るはずなのに、効かない可能性が高まるおそれがあります」(境先生)

(※1)最も多いとされるアレルギー反応のタイプで、花粉やダニ、ハウスダウトなどがアレルゲン(アレルギーを引き起こす原因)となる。体内にアレルゲンが侵入して短時間で症状が出る(即時型)という特徴がある。
(※2)本物と見分けがつかないが有効成分を含まない(効果を持たない)偽薬(プラセボ)を飲んでも効果が出てしまう状態。臨床試験ではプラセボと試験薬の効果が比較されるが、これは試験薬の有効性を科学的に証明するために行われている。

漢方薬の見極めと診断は鼻粘膜の望診で

漢方医療では、望診(ぼうしん)(※3)・聞診・問診・切診の4つの診断方法(漢方で四診という)が多く用いられます。この中で、境先生は特に望診を重視します。

「耳鼻咽喉科医としては、体格や顔色といった一般的な望診よりも、鼻の粘膜の状態を見るのがもっとも分かりやすいと思います。もちろん漢方に限らず、一般的な耳鼻咽喉科の診察でも鼻鏡(びきょう=鼻の穴を広げる器具)や額帯鏡(がくたいきょう=鼻や耳などの狭く奥深いところを観察する器具)などを使った鼻粘膜の診察は行いますが、その結果を漢方的視点から捉えるということです」(境先生)

境先生いわく、診断のポイントは『鼻粘膜の状態による寒熱の判別』とのことです。

「処方を選ぶ際は、いろいろなタイプ分類(漢方で証という)によって判断します。アレルギー性鼻炎では寒証、熱証(※4)というタイプ分類を用いるのが、患者さんの症状改善により適した処方選びに役立ちます」(境先生)

次の項では、寒熱をベースに選んだ具体的な処方を紹介します。

(※3)視覚的な診察による診断方法。体格や顔色、皮膚の状態、挙動・動作、舌の状態などが代表的。
(※4)漢方では、相対する考え方を物差しに病状等を判断する「陰陽(いんよう)」という考え方があり、その1つが「寒熱証(かんねつしょう)」。簡単にいうと、寒証は胃腸虚弱、体力虚弱などの傾向があり冷えやすい人、一方で熱証は元気で体格も良く(良すぎて肥満傾向の場合も)、ほてりやのぼせ、イライラなどが起こりやすい人と分類される。

診断結果に基づく『アレルギー性鼻炎に用いられる主な漢方薬』


図 アレルギー性鼻炎に効果的な漢方薬の使い分け

寒証タイプに有効な処方例

「最も代表的な処方が小青竜湯(しょうせいりゅうとう)です。アレルギー性鼻炎の診療ガイドラインでも使用が推奨されており、効果を裏付ける論文や文献も複数公表されています。
配合生薬の麻黄に含まれるエフェドリンという成分は西洋薬にも使われており、効果の要とされます。それ以外に、五味子、細辛など温める生薬が配合されている点も非常に重要だと思います。
基本的には鼻粘膜が白く腫れている、いわゆる寒証タイプに用いますが、熱証との中間に近い範囲までをカバーするため、アレルギー性鼻炎のファーストチョイス的な漢方薬という位置づけとなります。また、比較的高齢の方や遺伝的にアレルギー素因のある腎虚(※5)の傾向がある人は特に効果が得られやすいと感じています。
寒証の程度(冷えの症状)が強く、小青竜湯では効果が弱い患者さんには、温める作用がより強い葛根湯加川きゅう辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)などを用いています」(境先生)

熱証タイプに有効な処方例

「望診の際、鼻粘膜が赤く腫れ上がり、炎症を起こしている状態が熱証タイプとなります。
寒証が温める処方だったのに対し、熱証では冷ます処方を用います。その代表的な有効生薬の1つに石膏があり、石膏と麻黄を配合することで強力に熱を冷ます作用が得られます。
具体的には、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)や五虎湯(ごことう)などがあります。また、より熱の症状が強い場合には、五虎湯と小青竜湯を組み合わせた虎竜湯(こりゅうとう)や、さらに冷やす力の強い大青竜湯(だいせいりゅうとう)(麻黄湯と越婢加朮湯の組み合わせで代用)などを用います」(境先生)

(※5)漢方で使う「腎」という言葉は、臓器自体のほか、成長、発育、生殖などにかかわる泌尿器や生殖器、腎臓などの機能の総称の意味も持ち、そうした機能が低下した状態を腎虚という。腎に蓄えられたエネルギー(腎気)は通常加齢とともに減少するため、高齢者は腎虚の傾向が高い。また、腎気は親から受け継ぐ部分(先天の気)も大きく、そもそも先天の気が少ない(遺伝的要因など)場合、子どもであっても同年代に比べれば腎虚の傾向ということになる。

対症療法から根本治療へ ~ 今後のアレルギー性鼻炎に関する漢方治療への期待

一方、アレルギー性鼻炎に対する漢方治療のスタンスについて、境先生は次のように指摘します。

「今回紹介した漢方薬は即効性が高く、症状の緩和・改善など効果も上がっているのは事実なのですが、一方で、いずれも対症療法(漢方で標治という)であり、根本的な治療法(本治)ではないんですね」

最終的には漢方薬による本治を目指す境先生は、すでに新たな取り組みを始めているそうです。

「同意が得られた患者さんと一緒に、比較的長期の、体質改善に向けた治療を行っています。まだ数人程度で、期間も短いですが、中には、胃腸の消化吸収機能(漢方で脾という)を改善する処方を8カ月ほど飲み続けたところ、血清中の総IgE値(※6)が急激に下がった、つまり効果が出始めている方もいます」

詳細はまだ公表できる段階にないそうですが、アレルギー性鼻炎に対する新たなエビデンスの確立には大いに期待が膨らみます。

(※6)アレルギー検査に広く用いられる指標の1つ。一般的に、アレルギー疾患の患者の血清中総IgE値は高くなる。

(取材・文 岩井浩)

参考
  1. 松原篤ほか. 日鼻医 2019; 123: 485-490

境修平(さかい しゅうへい)先生
なのはな耳鼻咽喉科 院長
筑波大学医学専門学群卒業後、筑波大学附属病院で研修を開始。茨城県立中央病院耳鼻咽喉科、筑波大学附属病院耳鼻咽喉科、日立製作所水戸総合病院耳鼻咽喉科、独立行政法人国立病院機構 水戸医療センター耳鼻咽喉科、日立製作所ひたちなか総合病院耳鼻咽喉科 医長、茨城県立中央病院 耳鼻咽喉・頭頚部外科部長を経て現職へ。耳鼻咽喉科専門医・指導医、身体障害者福祉法指定医、難病指定医、茨城県東洋医学研究会世話人、北関東摂食嚥下リハビリテーション研究会世話人

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