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【連載】心身の養生と保温がポイント 漢方医学の観点で読み解く肌の乾燥│漢方医学の知恵で心と体が整う養生カレンダー

公開日:2024.02.29
カテゴリー:病気と漢方

肌の乾燥が気になる季節「冬」。保湿剤を塗ってもなかなか肌が潤わない、化粧が乗らない、そのような悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。今回のテーマは「肌の乾燥」です。

肌の乾燥を語るうえで、大事なことが2つあります。それは

  1. 「肌の潤いは心の潤い」
  2. 「肌の乾燥は冷えにより引き起こされる」

です。

肌の潤いは心の潤い

漢方医学には「気」「血」「水」という考え方があります。その「血」の概念を平たい言葉で説明すると、「心と体の栄養」といえます。「熱き血潮」、「血気盛ん」などの言葉で分かるように、「血」は感情の素であり、同時に「血肉」といった言葉から分かるように、身体の素でもあるのです。

血が熱を持つ「血熱」により、いら立ちや不安の感情が強まります。一方、血が足りない「血虚」になると、いわゆる抑うつ状態になります。さらに血の流れが滞った「瘀血」では、ある場所では血熱が起きたり、別の場所では血虚が起きたりと、興奮も抑うつも同時に引き起こされます。
「心と体の栄養」が足りていない血虚の状態では、心はささくれ立ち(=前向きになる気持ちが起きず、抑うつ傾向にあり、いじけた感情の状態)、皮膚は乾燥してしまいます。同じく、体の栄養不足により筋肉が減って身体が細ると、心も栄養不足となり感情の動きも低下してしまいます。

漢方医学の、「心と体は表裏一体である」という考え方を下敷きにしますと、体の変化は心の変化となって現れ、心が変わると体も変わるということになるということがお分かりになるかと思います。

肌の乾燥は冷えにより引き起こされる

肌の乾燥は空気の乾燥によって引き起こされると思っている人は多いと思います。しかし、伝統医学的な考え方では、実は「冷え」と関係が深いのです。特に足元が冷えると足元から戻ってくる冷えた血流によって内臓が直接冷やされます。内臓が冷えると消化機能が低下します。すなわち「冷えている人」=「基本的に消化力が低下している人」です。消化力が低下すると栄養吸収が低下して、皮膚に届けられる栄養が減ります。また、寒い風にさらされることで、末梢血管が収縮して皮下組織への血流が滞りがちになります。さらに、潤いをなくしはじめた皮膚に寒風が当たると皮膚から水分が奪われていきますので、追い打ちをかけるようにますます皮膚が乾燥することになります。このように内外両面から挟み撃ちされるかたちで皮膚への栄養が減少することにより皮膚は潤いを失います。冷えによる消化力低下は皮膚以外にも気力など、全身に影響を及ぼします。つまり、保湿より保温というわけです。

肌の乾燥に対する養生の具体例

このようなことから、心と皮膚(体)の潤いを保つためのポイントは以下になります。

防御

① 足元が冷えないように防寒に気をつけること
② 風に当たらないように耳当て、帽子、襟巻き、手袋など、しっかり皮膚を防御すること

温存

③ 夜更かしをせず、22時くらいには就寝すること
④ パソコンやスマートフォンの使用をなるべく控え、忙しくしないでゆったり過ごすこと

回復

⑤ 足湯をして足元を温めること
⑥ 消化力を落とさないように甘いものを控えること

以上をまず、可能な限り実行するのが理想的です。
これらを実行してもなお、肌の乾燥が強い場合には、漢方薬を少々使います。

その場合、消化力の低下と皮膚乾燥は直結していますので、消化力を上げるための四君子湯(しくんしとう) (食べ過ぎていたら、四君子湯の効果は半減してしまいます!)、冷えた末梢を温める当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう) 、そして最後に少しだけ血を増やす働きを持つ四物湯(しもつとう) 当帰飲子(とうきいんし) 、などの処方を個人個人の状態に合わせて選択します。

養生をするうえでの注意点

体を温めればよい、という観点で、足湯の代わりにコタツや遠赤外線のヒーターで温める、などの方法もあるのでは?と思われる方もおられるかと思いますが、実はコタツや遠赤外線では、かえって乾燥しますのでご注意ください。熱は体から水を奪う性質を持っています。充分な湿気を保ちながら下肢を温めるのが大事なので、面倒でも足湯を実行してください。
また、つるつるのお肌を目指し、サプリなどでコラーゲンを摂取する人がときどきおられますが、やはり基本は消化力。消化力を安定させなければコラーゲンも効果を発揮しません。

1年間くり返してお伝えしてきたことですが、病気があるわけではないけど調子が悪いときは、まず、基本的な養生を守るところから始めてみてください。養生を続けると、そのうちそれが、自分の体を意識することであると気づくと思います。養生が自分と向き合うこと、また人生を考えるきっかけとなることを願っています。

中田 英之(なかた ひでゆき)先生
泉州統合クリニック 院長
1995年防衛医科大学校卒業。防衛医科大学校病院産婦人科、慶応義塾大学医学部漢方医学講座、練馬総合病院 漢方医学センターを経て、2021年に泉州統合クリニックを開院。ライフワークである「養生」を重視した臨床を行っている。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本産科婦人科学会専門医。

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