Vol.2 疲れやすい、だるい、息が切れる……「なんとなく不調」の影にひそむ「隠れ貧血」と漢方

[病気と漢方] 2022/07/29

疲れ、だるさ、頭痛、冷え、イライラ……病気ではないけれど、なんとなくいつも感じる不調。このような症状を感じる人は、男性と比べ女性に多く、その理由として月経による“自律神経の不調”が関係している、というお話を伺いました(Vol.1参照)。
Vol.2では、このような「なんとなく不調」を引き起こす、もうひとつの原因を解説。健診で見逃されることも多いという、女性特有の「隠れ貧血」について、引き続き、霞が関ビル診療所の婦人科医、丸山綾先生に伺います。

体が重い、階段で息が切れる……本当に歳のせい?

Vol.1では、「西洋医学では病気と診断されない不調に対しても治療できるのが漢方。ささいな不調でも気軽に相談してほしい」と話していた丸山先生ですが、女性に医療機関を受診してほしい理由は、他にもあると言います。

「実は、そのような症状に病気が隠れている可能性があるのです。特に心配なのは、20~40代の女性に多い『隠れ貧血』です。なぜ“隠れ”なのかというと、一般的な血液検査では貧血と診断されないからです。検査結果は問題なくとも、だるさが続く、疲れやすい、頭痛もある。そこで、詳しく検査してみると、体内の貯蔵鉄が不足していた、というケースがとても多いのです」

なんとなく体が重い、階段を上ると息が切れる、週に何日かは頭が痛い……このような症状があるとき、私たちは『歳のせい』『体力が落ちた』などと片付けてしまいがちです。「でも、隠れ貧血とわかれば、治療で体調がよくなることがほとんどです。不調を歳のせいと思い込まず、まずは受診してみてほしいです」(丸山先生)

一般的な血液検査ではわからない「隠れ貧血」=「潜在性鉄欠乏症」

「『隠れ貧血』は、正確には『潜在性鉄欠乏症』といいます。一般的な貧血(鉄欠乏性貧血)が血液中のヘモグロビンの濃度でみる(成人女性は12.0g/dL未満)のに対し、隠れ貧血はフェリチンの値で診断(12ng/mL未満)します。『フェリチン』とは、肝臓などに蓄えられた貯蔵鉄の指標です。ヘモグロビン値は正常だけどフェリチンが不足している、というのが、いわゆる『隠れ貧血』です」(丸山先生)

血液の重要な働きとして「酸素を全身に運搬する」ことがあります。その酸素を運ぶ役割を担っているのが、赤血球に含まれるヘモグロビンです。ヘモグロビンは鉄を材料にして作られますが、まずは血中の鉄が使われます。それでも足りないときは貯蔵鉄が使われます。つまり「隠れ貧血」は、ヘモグロビン濃度は保たれているものの、備えである貯蔵鉄が不足した状態です。その状態が続くと、月経時や妊娠時など血液の需要が高まる時期に、本格的な貧血になりやすくなってしまいます。

しかしながら、この貯蔵鉄不足は「見逃されてしまうことが多い」と丸山先生は説明します。会社など、一般的な健康診断で行われる血液検査では、多くの場合フェリチンの値は測定されません。また、貧血を疑って血液検査をしてもフェリチンまでは測らない医療機関もあり、ヘモグロビンが基準値内であれば「正常」と診断されるケースも多いといいます。

「ですから、思い当たる症状があるときは、検査前に『フェリチンも測れますか?』と申し出てみましょう。『隠れ貧血というのを見たのですけど…』などと言えばよいでしょう」(丸山先生)

「ダイエット」と「過多月経」が、隠れ貧血のリスクに

もともと女性は月経の出血で毎月鉄分を失うため、自覚症状はなくても貧血気味の人が多い傾向にあります。失う分を上回る量を食事で補給するのが理想ですが、近年の食生活の変化により、1日の鉄の摂取量は減っているのが現状です。

また、必要以上のダイエットで欠食したり肉類を摂らない食生活を送ったりする人も多いといえます。ヘモグロビンの合成にはたんぱく質も必要なため、肉や魚の摂取量が少ないと、貧血症状は進んでしまいます。

さらに、丸山先生がリスクと指摘するのは、経血量の多さです。
「貧血は『過多月経』の人に圧倒的に多いです。といっても経血量を測れるわけではないので客観的な評価が難しいのですが、『レバーのような塊は出ないか』『昼間に夜用のナプキンを多用していないか』などが、判断基準になると思います。また、月経期間は3~7日が正常とされていますが、8日以上ダラダラと続く『過長月経』もリスクになります。少ない経血量でも長く出続けていたら、同様に鉄を失うので、思い当たる場合は気をつけてほしいです」と訴えます。

過多月経や過長月経には、その影にホルモンの分泌異常や婦人科疾患が潜んでいることもあり、注意が必要です。「子宮筋腫や子宮内膜症が原因で経血量が増えると、貧血を引き起こすことがあります。『月経量が変わった』と感じたら、早めに医師に診てもらうことが大切です」(丸山先生)

貧血の治療と、漢方の併用も効果的

隠れ貧血(潜在性鉄欠乏症)と診断された人には鉄剤が処方され、食事から効率的に鉄を摂取するための栄養指導、生活習慣の改善指導などが行われます。

一般的によく使われている鉄剤には、吐き気や便秘などの副作用を認める場合があります。また、それほど副作用は出ない場合でも、飲みにくさを感じる人は多いようです。その場合は、処方量を減らしたり、胃薬との併用をすすめたりする、と丸山先生はおっしゃいます。

一方、「漢方で貧血は『血虚』という診断になります(Vol.1参照)。そこで『補血剤』といわれる漢方薬を処方します。漢方薬では血液そのものを増やすことはできないので、貧血の治療というより、貧血によってあらわれている症状を緩和させる、という考え方です」

「隠れ貧血」に役立つ漢方

十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)

全身が弱って、「気」も「血」も著しく不足している人に向く漢方薬。疲労倦怠感、貧血、皮膚の乾燥、食欲不振、寝汗、手足の冷えなどがある場合。「疲労・衰弱している人の気力と体力を補うとともに免疫力も整えてくれます」(丸山先生)

四物湯(しもつとう)

女性の不正出血・過多月経・出産後の出血などがある場合。「血虚に対する基本的な方剤で、多くの漢方薬のもとになっている古くからの処方です。十全大補湯の中にも入っています」(丸山先生)

きゅう帰膠がい湯(きゅうききょうがいとう)

冷え症で、痔出血や月経障害にともなう貧血がある場合。「過長月経のダラダラ血を止めてくれます。ふらつきなどの症状にも効きます」(丸山先生)

鉄不足を治療すると、メンタルや美容にもよい効果が

隠れ貧血で鉄が不足すると、「疲れやすい」「だるい」「息切れ」など、さまざまな症状があらわれるというのは前述した通りです。しかし、体内での鉄の働きは多彩で、メンタル面や美容面にも大きな影響があるといいます。

「鉄不足の症状で見落としがちなものが『落ち込みやすさ』や『うつ症状』。鉄は、セロトニンなどの脳内神経伝達物質の材料にもなっています。鉄不足によりそれらの分泌が低下すると、イライラ、意欲低下、不眠などを引き起こすこともあるのです」(丸山先生)

さらに、鉄はコラーゲン合成にも欠かせないため、鉄不足が進むと「肌荒れ」や「爪割れ」、「脱毛」や「白髪」などの症状が出ることもあるそう。思い当たる症状がある場合は、貧血をきちんと治療することで改善することが可能だと丸山先生はおっしゃいます。

「女性は概して身体の不調に対し我慢強く、不調を感じても『このくらい病気じゃない』『これくらいならいつも通り』と、具合が悪いことに慣れてしまう傾向があります。身体が冷えているのはいつもだし、頭が痛いのもあたりまえだし、肩は凝っているのが普通だし、と。でも、不調が解消されるとそこで自分の体調不良に気づくのです。体ってここまで元気にすることができるんだ、と。
この気づきは、きっとこれからの人生を豊かなものにしてくれるはずです。少しの不調も我慢する必要はありません。適切に対処し、ぜひ不調のない日常を取り戻しましょう」

丸山 綾(まるやま あや)先生
霞が関ビル診療所 婦人科

1999年日本大学医学部卒業。駿河台日本大学病院、丸の内クリニック等を経て、現在、霞が関ビル診療所で婦人科医師として勤務。専門分野は産婦人科一般、漢方治療。日本東洋医学会(専門医)、日本産科婦人科学会(専門医)所属。
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