Vol.1 病気ではないけれど「なんとなく不調」……自律神経の乱れやすい女性に対する漢方治療

[病気と漢方] 2022/06/30

新型コロナウイルス感染症の拡大から早3年。テレワークや行動制限など生活スタイルの変化から、心身の不調を感じる人が増えています。株式会社ツムラが行った「第2回 なんとなく不調に関する実態調査」(2022年1月)1)でも、77%がなんらかの「なんとなく不調」を感じると回答しており、特に女性においてその割合は83%にもなりました。
疲れ、だるさ、頭痛、冷え、イライラ……病気ではないけれど、なんとなくいつも感じる不調。このような症状の原因や対処法について、霞が関ビル診療所の婦人科医、丸山綾先生に伺いました。

※本調査ならびにツムラが定義する「なんとなく不調」とは、自覚しながらもつい我慢しがちな症状や、調子が悪いものの病名の診断がつかない症状の総称です。また、スコアは「なんとなく不調」を感じることが「非常によくある」「時々ある」「たまにある」の合計値です

女性の「なんとなく不調」、背景に自律神経バランスの乱れ

本調査では、男性よりも女性のほうが、「疲れ・だるさ」「頭痛」「イライラ感」を多く感じている結果となりました。その理由として、これらの原因は “自律神経の不調”であることが多く、その背景には女性のからだ特有の働きがある、と丸山先生は指摘します。

「女性には月経がありますが、それをコントロールしているのはエストロゲンなどの女性ホルモンです。ホルモンの分泌量は、脳の『視床下部』によって司られています。視床下部→脳下垂体→卵巣という流れで「ホルモンを出せ」という命令(=卵胞刺激ホルモン:FSH)を出し、エストロゲンを増減させることで月経を起こしています。

そして、実は自律神経の中枢も同じ『視床下部』に存在しています。つまり、女性ホルモンと自律神経の司令塔は同じ、ということです。そのため、月経で女性ホルモン増減の司令が出るとき、すぐ近くの自律神経も連動して刺激されてしまうのです。それが毎月起こる女性は、自律神経のバランスが乱れやすいといえます」

頭痛、めまい、倦怠感…自律神経のバランスが乱れることで起こる症状

自律神経は、その時々の状況に応じて、自分の意思とは無関係に働き、体内を常にベストな状態に保ち続けます。対照的な働きを持つ交感神経と副交感神経の2つが互いにバランスを取りながら、血流・血圧・心拍・発汗・体温など、生命を維持するうえで重要な全身の機能をコントロールしています。

そのため、自律神経のバランスが乱れると、頭痛・めまい・発汗・のぼせ・動悸・倦怠感・便秘・下痢・むくみ・手足の冷え・しびれ・イライラ・不安感など、体のあらゆる場所で多様な症状が引き起こされます。

西洋医学では打つ手がない「なんとなく不調」にこそ漢方治療を

これらの症状は、20~40代の女性に起こりがちなうえ、自覚がありつつも、我慢しがちなものでもあります。仕事や育児を後回しにしてまで病院に行くほどでもないと考えたり、受診したとしても検査で異常がなければ「しばらく様子を見ましょう」とか「生活リズムを整えて」と言われ、心掛けたけど治らなかった、という経験から、治療を諦めていたりする人も多いのではないでしょうか。
しかし「そんなときこそ漢方の出番です」と丸山先生は言います。

「東洋医学では体を局所的に診ることはせず、人そのものを診て総合的に診断します。つまり、西洋医学的には病名がつかないような場合でも、その人の体質・症状に合った、薬が処方できます。もちろん、ひと通り検査はしますが、そこで何の病気も見つからなかったからといっても、何もしないで様子を見る、ということはなく、何らかの改善案をご提案します。ささいな不調でも、ひとり一人に寄り添える『漢方』をぜひ頼ってほしいのです」

漢方なら体質・症状などから「今の状態」に合わせた処方が可能

漢方の診断は「西洋医学とは異なる“ものさし”で診ていく」(丸山先生)といいます。

漢方の主な診断方法

「虚実」=体力、病気に対する抵抗力のものさし

その人の状態(体質・体力・抵抗力などの個人差)をあらわすものです。
実証:体力や免疫力が充実している人(筋肉質でガッチリした体型、血色がよい、など)
虚証:反対に、体力のないような人(細くて華奢な体型、顔色がよくない、など)

「気・血・水」=不調の原因を探るためのものさし

漢方では、「気・血・水」が体内をうまく巡ることによって健康が維持され、これらが不足したり、滞ったりしたときに、不調や病気が起きてくると考えます。
「気」=生命エネルギー
「血」=血液、栄養
「水」=体液、水分
診察でこれらの状態を診て、どこに問題があるのかを探っていきます。

「気」の不調:気虚(疲労感・だるさなど)、気滞(頭重・のどの詰まり・息苦しさなど)、気逆(のぼせ・発汗・不安感など)
「血」の不調:瘀血(月経異常・便秘など)、血虚(貧血・皮膚の乾燥・脱毛など)
「水」の不調:水滞・水毒(むくみ・めまい・頭痛・下痢・排尿異常など)

漢方では、主にこれらの「証」というものさしを診て、処方を決めます。その人の「体質」と、「今の状態」にあわせた処方ができるというのが特徴です。

それに加えて、「複数の症状に一種類の薬で対応できるというのも漢方のよいところ」だと丸山先生はおっしゃいます。「例えば『頭が痛くて、下痢があって、むくんでいる』という状態のとき、西洋医学だったらその症状に対してひとつずつの薬が処方されるところを、漢方なら『そういう状態の人に効く薬』という処方ができるのです」

「自律神経の不調」に役立つ漢方

実際に、丸山先生が処方している漢方薬を教えていただきました。

加味逍遙散(かみしょうようさん)

更年期のイライラや倦怠感、また、生理前のメンタルの不調など、「気」に関係する症状がある場合。「守備範囲が広い漢方薬。血虚にも瘀血(おけつ)にも気の不調にも効きます。PMS(月経前症候群)、更年期ではファーストチョイスです」(丸山先生)

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

足腰の冷え、生理不順、また、足がむくみやすいなどの症状がある場合。血の巡りを改善する「当帰」などに加え、体の「水」の巡りを整える効果が期待できる。「細身で白くて、めまいやむくみがある人にはこちらです」(丸山先生)

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

下半身の冷え、のぼせ、生理痛など、「血」の巡りが滞っている状態が重い場合。「赤ら顔でがっちりした人、のぼせ・発汗がある人にすすめています」(丸山先生)

この他にも、不眠にも効く加味帰脾湯(かみきひとう) 、イライラを抑える抑肝散(よくさんかん) 、それより少し胃に優しい抑肝散加陳皮半夏(よくさんかんかちんぴはんげ) 、慢性疲労や倦怠感には補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 、不安感の強い人には半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) 、むくみ・頭痛などに効く五苓散(ごれいさん) などを使い分けているそうです。

「いわゆる不定愁訴や気象病のような、西洋医学では病気として診断されない不調に対して治療ができる、というのが漢方の強みです。『こんなことで医者にかかるのは気が引ける』などと思わず、ぜひ気軽に受診してほしいと思います」(丸山先生)

丸山 綾(まるやま あや)先生
霞が関ビル診療所 婦人科

1999年日本大学医学部卒業。駿河台日本大学病院、丸の内クリニック等を経て、現在、霞が関ビル診療所で婦人科医師として勤務。専門分野は産婦人科一般、漢方治療。日本東洋医学会(専門医)、日本産科婦人科学会(専門医)所属。
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