新型コロナと嗅覚障害 前編 「みそ汁から泥のようなにおい」新型コロナ後遺症の嗅覚障害

[病気と漢方] 2022/03/31

嗅覚障害は、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の特徴的な症状や後遺症のひとつとして、たびたび話題になりました。オミクロン株に置き換わってから、嗅覚の異常を訴える人は減ったといわれますが、それでも1割以上の人が嗅覚障害を訴えているという調査1)もあるほか、長引く嗅覚障害の後遺症に悩む人もいます。そこで前編となる今回は、新型コロナに関連する嗅覚障害とその影響について、金沢医科大学耳鼻咽喉科学 主任教授の三輪高喜先生に伺いました。

においが感じにくくなる3つの要因

――嗅覚障害は、デルタ株が主流のころまでは、新型コロナの特徴的な症状でした。嗅覚障害があるかどうかで、新型コロナなのかどうかを判別していた人もいたのではないでしょうか。

三輪先生(以下、三輪):嗅覚の異常は、新型コロナの症状のひとつです。オミクロン株が主流になってからは、のどの痛みを訴える人のほうが多いようですが、「においがしない」と訴える患者さんは、今でも少なくありません。また、いわゆる新型コロナの後遺症としての嗅覚障害に悩んでいる人もいます。嗅覚は、鼻にある、においを感じる細胞(嗅細胞)で感じたにおいの分子を脳で処理することで起こる感覚です。この、鼻から脳までのにおいを感じる回路(嗅覚路)のどこかに異常が生じると、嗅覚障害が起こります。

嗅覚障害の症状は大まかに2つに分かれます、ひとつは量的嗅覚障害と呼ばれる「においがしない・感じにくい」というタイプ。もうひとつは、質的嗅覚障害と呼ばれる「においは感じるけれど、本来のにおいとは違うにおいや、どれも同じにおいに感じられてしまう」というタイプです。新型コロナの初期に生じる嗅覚障害は、「においがしない・感じにくい」量的嗅覚障害が多いです。

においを感じにくくなる原因には大きく分けて3つあります。

  1. 鼻づまりや炎症により、においの分子が嗅細胞に到達できない
  2. ウイルス感染や薬物の影響、頭や顔のけがなどにより、嗅細胞がダメージを受ける
  3. 頭のけがや、アルツハイマー病などの脳神経系の病気により、においを感じる神経回路に異常が生じる

新型コロナによる嗅覚障害は、「2」のウイルス感染により嗅細胞がダメージを受けることで生じていると考えられます。

「においがしない」が「変なにおいがする」に変わる

――「新型コロナの初期に生じる嗅覚障害は、『においがしない』という量的嗅覚障害が多い」とおっしゃいましたが、後遺症の場合は違うのでしょうか。

三輪:私たちの研究によると、どうやら違うようだということがわかっています。新型コロナ後遺症の嗅覚障害では、質的嗅覚障害と呼ばれる「においは感じるけれど、本来のにおいとは違うにおいや、どれも同じにおいに感じられてしまう」という症状に変わっていることが多いです。シャンプーやボディソープが全部同じにおいに感じられたり、みそ汁から泥のようなにおいがしたりすることがあるといいます。
このように同じ感染症でも感染の段階によって症状が変化する原因は、においを感じる嗅細胞が再生する段階でなんらかのエラーが起き、うまく細胞が再生できていないことではないかと推測されています。ヒトの体には、肺の細胞のように、一度壊れると再生できないものもありますが、嗅細胞は壊れても再生ができます。ですが、受けたダメージが大きい場合などでは、細胞の再生がすぐにはうまくいかず、その影響でにおいを正しく感じられない可能性があります。

感染症に伴う嗅覚障害は若い世代に多く、後遺症は50代以上に多い

――新型コロナウイルスによる嗅覚障害が生じやすい人に、何か特徴はありますか。

三輪:まず男女で比較すると、女性のほうが多く、感染初期に生じる嗅覚障害は若年層2)、後遺症としての嗅覚障害は50代以上の、比較的年齢の高い人に多い傾向があります。
また、新型コロナの症状が重い人のほうが、後遺症が重くなりやすいといわれることがありますが、今までのところ、新型コロナの重症度と嗅覚障害の有無やその重症度には、関連性が見いだせていません。
ただ、嗅覚障害と並んで新型コロナの特徴的症状とされていた味覚障害については、少し興味深い関連性がわかっています。新型コロナによる味覚障害を訴える人の味覚と嗅覚と同時に調べたところ、実は多くの人の味覚検査の結果は正常、つまり味覚には異常が生じていませんでした2)。新型コロナによる味覚障害の多くは、味覚そのものに異常があるわけではなく、嗅覚に異常が生じて、においを正しく感じられなくなった結果、味を感じにくくなっている可能性が高いようです。

においを感じる神経は「壊れても再生する」 希望を持ってリハビリを

――新型コロナの後遺症は、改善までに何か月も要することもあるといわれます。それほど長い間、嗅覚に異常が生じていると「このまま治らないのではないか」と不安になる人もいるのではないでしょうか。

三輪:
においを感じる嗅細胞は再生します。ですから、時間がかかり、少し回り道をしているように感じるかもしれませんが、嗅細胞がいずれ正しく再生されるようになれば、嗅覚の異常は改善されていくはずです。そう考えて、ぜひ希望を持っていただきたいです。
患者さんご自身でも、嗅細胞の再生を促す方法がいくつかあります。ひとつは漢方薬の服用です。嗅細胞の再生増強にかかわるとされる漢方薬を服用することで、再生が促されることが考えられます。もうひとつは、においを感じやすくするためのトレーニングをすることです。リハビリのように強いにおいをかぐことで、においを感じやすくなることがあるという研究結果が、海外で報告されています3)
後半へ続く)

参考

  • 1) Brandal LT, et al. Euro Surveill 2021; 26(50): 2101147
  • 2) 厚生労働行政推進調査事業費補助金 厚生労働科学特別研究事業「新型コロナウイルス感染症による嗅覚、味覚障害の機序と疫学、予後の解明に資する研究」令和2年度 総括研究報告書(研究代表者:⾦沢医科⼤学⽿⿐咽喉科教授 三輪⾼喜)
  • 3) Hummel T. et al. Laryngoscope 2009; 119: 496-499

三輪高喜(みわ たかき)先生
金沢医科大学副学長/耳鼻咽喉科学 主任教授

医師。医学博士。富山医科薬科大学卒業後、金沢大学大学院修了。専門分野は耳鼻咽喉科学。主な研究テーマは嗅覚・味覚障害の臨床、基礎研究。日本鼻科学会「嗅覚障害診療ガイドライン」作成委員会委員長。金沢医科大学病院副院長などを経て、2016年より金沢医科大学副学長を務める。
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