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マスクによる肌荒れと漢方治療 症状の背景にあるものが治療のカギ

公開日:2021.11.19
カテゴリー:病気と漢方

木枯らしが吹き、寒さも厳しくなってきました。気温が低くなってくると気になるのは肌の乾燥です。ここ数年、マスクが手放せない生活が続いています。それに伴ってマスクによる肌荒れが気になってくる方も多いのではないでしょうか。特に乾燥がひどくなると症状が起こりやすくなってきます。どのように対策を行えばよいのか、よしき皮膚科クリニック銀座の吉木伸子院長に、マスクによる肌荒れの対策について伺いました。

マスクによる肌荒れが増加

新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で、マスクをつけることが習慣になりはや二年近くが経とうとしています。最近では、マスクの素材も「肌に優しい」とうたわれているものが多く出回るようにはなりましたが、マスクによる肌荒れに悩んでいる人も少なくないのではないでしょうか。
「実際にマスクで肌が荒れるという訴えはとても増えています。ですが、すべての人がマスクによって肌荒れを起こすわけではありません。マスクによる肌荒れには、2つのパターンがあります」と吉木先生はおっしゃいます。

マスクによる肌荒れの大きな原因は肌表面の角層のダメージとにきび

ひとつめは「摩擦による肌のダメージ」です。
「マスクの着脱時、口を動かして話しているときマスクが動いて肌が擦れるような感じがあると思いますが、ただマスクと肌が接触しているだけでも、摩擦は生じてしまいます。摩擦を受けると肌はどうなるでしょうか。
まずは肌の表面の構造を知ることが必要です。肌は、表皮という厚さ約0.2mmの薄い膜で覆われています1)。表皮は外側から角層、顆粒層(かりゅうそう)、有棘層(ゆうきょくそう)、基底層(きていそう)の4つの層で構成されています。一番外側の角層は、厚さが約0.02mm 2)ととても薄いのですが、ホコリや菌などの外部刺激が体内に入るのを防いだり、体の水分が蒸散するのを防ぐ2つのバリア機能を持っています。
しかし、マスクで摩擦を受け続けると、この角層が剥がれてしまい、バリア機能が損なわれてしまうのです。その結果、肌は外的刺激に弱くなり、かゆみが出たり、化粧水がしみるなどの過敏症状を引き起こしてしまいます」

そしてふたつめは「ざ瘡(にきび)」です。
マスクで覆われた部分は、主に吐く息によって高温多湿な環境になります。「乾燥が防げてよいのでは」と思いがちですが、それがにきびを引き起こすこともあるそうです。
「高温多湿になることによって、角層を構成している角質細胞が、水分を含んで膨らむことで、皮脂腺が塞がれ、にきびができやすくなるのです」

肌荒れの背景にあるものを治療目標に

ではこのようなマスクでの肌荒れに対して、どのような対策を取ればよいのでしょうか。
「摩擦」によって起こる肌荒れの場合、まずはスキンケアの見直しが大切だと吉木先生は言います。
「クレンジング剤の洗浄力が強いと、角層のバリア機能を損ないます。そのため、洗浄力がおだやかなクレンジング剤を選ぶか、もしくは肌荒れがひどいときは使用しないようにすること。また、保湿には、角質の潤い成分であるセラミドが配合された化粧水や乳液、クリームなどを用いるとよいでしょう」
また、顔だけでなく、全身の皮膚が薄く、乾燥しやすいという方には漢方薬が有効なこともあります。
「肌が本来持つ機能を強くするという意味で、補中益気湯(ほちゅうえっきとう) を用いる場合があります。補中益気湯は、免疫力を高める漢方薬で、アトピー性皮膚炎の治療でも用いられています3)。アトピー性皮膚炎ではないけれども、全身の皮膚が薄く、乾燥しやすいという方でも、補中益気湯などを使うと、全身の肌の状態が改善することもあります。ただし、顔だけが乾燥しやすい方は、スキンケアの問題であることが多いので、スキンケアの改善をおすすめしています」

また、マスクによるにきびに対しては「もともとにきびができやすい体質の人が多く見られるので、塗り薬のほかに、まずは通常のにきびに対する漢方治療を行います」と吉木先生。
「にきびの他に、冷え性、むくみやすい、たちくらみがある、月経前や低気圧が来たときに頭痛があるといった人には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん) を、やや便秘がちでイライラしやすい、胸がつかえて苦しい感じがあるといった人には加味逍遙散(かみしょうようさん) を、顔に赤みがあり、冷えのぼせがある、過多月経である、PMSがあるといった人には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) を処方することが多いです」

漢方治療では、漢方医学独自の「体質」を見極め、それに合わせた処方を行います。けして「マスクによる」肌荒れ、という症状に特定の漢方処方があるというわけではないと吉木先生は話します。
「マスクによって起こる肌荒れの背景には、体質や生活習慣などが原因となっていることが多くあります。体も肌も健康な状態であれば、マスクをつけていても肌が荒れることはないということを覚えておきましょう。その体質を改善する手段のひとつとして、漢方薬があることを知っていただきたいですね」

参考
  1. 清水宏. あたらしい皮膚科学 中山書店 p.3-5
  2. 日本化粧品技術者会│角層<2021年11月4日閲覧>
  3. 小林裕美. 日薬理誌 2008: 132(5); 285-287

吉木 伸子(よしきのぶこ)先生
よしき皮膚科クリニック銀座 院長

1993年横浜市立大学医学部卒業後、慶応義塾大学病院 皮膚科学教室に入局。1994年浦和市立病院(現さいたま市立病院)皮膚科勤務、1996年埼玉県大宮市(現さいたま市大宮町)のレーザークリニック勤務。その間、米国オハイオ州クリーブランドクリニック形成外科、日本漢方研究財団附属渋谷診療所にて、美容医療および東洋医学の研修を行う。日本美容学校皮膚科非常勤講師を兼任。1998年よしき皮膚科クリニック銀座開業、現在にいたる。

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