めまい経験者のめまい専門医・新井基洋先生に聞く Vol.3 吐き気、うつ、難聴……めまいとともに起こる症状と漢方薬

[病気と漢方] 2021/10/07

 日本人の5人に1人以上1)が、めまいの症状を抱え、そのつらさに悩んでいます。「めまいのつらいところは、めまいそのものだけでなく、頭痛や吐き気、肩こりといった、めまいと一緒に起こる症状にも悩まされること」だと話すのは、めまいの治療に長年携わっている、横浜市立みなと赤十字病院 めまい・平衡神経科部長の新井基洋先生。新井先生は、めまいのみならず、めまいと一緒に起こる症状の改善にも漢方薬を活用されているそうです。

 Vol.3となる今回は、めまいと一緒に起こりやすいつらい症状と、それらの改善に有効な漢方薬について伺いました。

めまいと一緒に起こる症状とは

――これまで、めまいについていろいろ教えていただきましたが、めまいとともに起こる症状に悩まされているケースも多くあることがわかりました。そこで、めまいと一緒に起こる症状について、あらためて教えてください。

新井:めまいと一緒に起こる症状は、専門用語で「めまい随伴症状」といいます。いくつかありますので、代表的なものを順に説明しましょう。

緊張型頭痛と片頭痛(=肩こり)緊張型頭痛はストレスが関連するめまいと一緒に発症することが多い症状で、めまい患者には必発です。緊張型は頭痛でつらいときでも寝込むことはなく、片頭痛とは異なります。支障は出るものの、日常生活はなんとか可能なのが緊張型頭痛であり、めまいも頭痛も「中等度」から日常活動が続けられない「重度」までの片頭痛の症状とは異なります。前庭性片頭痛のめまい発作の持続時間も数分間、数時間、数日単位から、頭の位置を変えた後などに起こる数秒単位のものまで、さまざまです2)。前庭性片頭痛は女性に多く発症し、閉経後は片頭痛がやわらぐことが多いですが、緊張型頭痛は閉経とは無関係です。片頭痛や頭痛には呉茱萸湯(ごしゅゆとう) も治療の選択肢となります。半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう) も頭痛にも適応があります。

難聴と耳鳴り主にメニエール病の患者さんに生じる症状です。めまいとともに、耳が詰まったような感覚と難聴を伴います。耳の内部にある内リンパ液が過剰になることで、難聴が生じると考えられています。苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)が治療には用いられますが、内リンパ水腫軽減に五苓散(ごれいさん) を用いることもあります。ときに、前庭性片頭痛や片頭痛がある人も耳鳴りや耳痛を訴えますので、この場合は片頭痛の治療を行い症状の軽快に努めます。

不安とうつめまいとめまいに伴うのは、前庭眼反射、前庭自律反射、前庭脊髄反射の3つの反射のいずれか、または複数に異常が起こることで生じる症状です。中でも自律神経の反射では、吐き気や嘔吐、血圧の上昇、冷や汗や動悸まで生じ、患者は不安や不眠が生じます。慢性化するとうつや、治らない自分へのいら立ちなど怒りの症状が生じることがあります。怒りの軽減に用いる漢方には抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんちんぴはんげ) や更年期のイライラには加味逍遥散(かみしょうようさん) を使います。うつ症状が生じ、抗うつ薬が必要なケースはPPPD(持続性知覚性姿勢誘発めまい)のみではありません。めまいはどの疾患でも慢性化するとうつを併発する可能性があるのですが、残念ながら漢方にはうつの治療適応はありません。しかし、その手前の抑うつ傾向には漢方薬で改善できることが多々あります。とくに更年期の不安には加味帰脾湯(かみきひとう) 等もよいでしょう。その他はのちほど詳しく解説します。

睡眠障害不安やうつ、イライラといった精神症状から、不眠などの睡眠障害が起こることがあります。睡眠不足はめまいの症状を悪化させる要因でもあるので、早めの改善が大切です。最近はベンゾジアゼピン系の睡眠剤は使用しない傾向にあるため、漢方薬の抑肝散加陳皮半夏などの有用性が着目されています。

肩こり、首こり(=緊張型頭痛)耳の中にある前庭の異常は前庭脊髄反射を通して骨格筋緊張の左右差を起こします。とくに耳に近い、首や肩の筋肉に左右差を生じやすいため、首や肩のこりがめまいに伴う症状として起こることはたいへんよくあります。緊張型頭痛とほぼ同義で、めまいには必発の症状です。葛根湯の葛根が肩こりに効くのは有名な話です。

吐き気めまい患者さんの中には胃腸虚弱の症状がある場合も少なくありません。そうした場合は吐き気や嘔吐の症状を伴うことがあります。漢方では五苓散がおすすめです。

めまいとともに起こる症状の改善に有効な漢方薬

――このようなめまいとともに起こる症状の改善に、先生は漢方薬を役立てているそうですね。どんな症状にどんな漢方薬が役立つのか、教えてください。

新井:私が普段、めまい随伴症状の改善のため、患者さんに処方しているのは、補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 人参養栄湯(にんじんようえいとう) 、抑肝散加陳皮半夏、五苓散などです。それぞれ、どんな症状の改善に適しているのかは、以下の通りです。

補中益気湯:改善するめまい随伴症状:うつ補中益気湯は虚弱体質、慢性疾患、術後などといったさまざまな原因により体力が低下した状態に広く用いられる漢方薬です。慢性のめまいを抱える患者さんは、十分な改善を得られないことに怒りや不安、イライラなどの感情を持つことがありますが、それらの軽減に役立ちます。めまい患者を、めまいのリハビリとめまい治療薬を処方した群と、めまいのリハビリと補中益気湯を処方した群とに分けて比較したところ、補中益気湯を使った群では、情緒不安定の検査結果が改善し、めまいに伴ううつ症状も改善して活気が戻り、怒りも減るという結果になりました3)。そのほか、食欲不振の改善にも有効性が見られます。

人参養栄湯:改善するめまい随伴症状:フレイル人参養栄湯も補中益気湯と同様、めまいそのものの改善というより、高齢者に合併するフレイルの改善を目的としています。人参養栄湯には、筋肉量や筋質4)、骨格筋率5)の改善作用があるといわれる生薬が配合されています。めまいのリハビリと併用することで、フレイルによるめまいの改善に、効果を発揮します。

抑肝散加陳皮半夏:改善するめまい随伴症状:睡眠障害、不安、怒り抑肝散加陳皮半夏は一般的に不眠、イライラといった興奮性の症状に使用されています。ピッツバーグの睡眠質問票という世界的に有名な睡眠の検討項目を用いて調べたところ、抑肝散加陳皮半夏の服用により入眠障害が、約1か月で改善したという結果が出ています6)

五苓散:改善するめまい随伴症状:片頭痛、難聴五苓散は比較的急性期に使うめまいの薬で、難聴を伴うめまいにも使います。上半身の水分調整に役立つ働きがあり、服用すると耳の内リンパ液の流れを改善し、片頭痛や難聴の改善に役立ちます。

半夏白朮天麻湯:改善するめまい随伴症状:吐き気めまいには消化器症状である吐き気、嘔吐、食欲不振を伴うことがあります。それらの症状が改善できると、トータルの苦痛が減り、楽になったという感覚を得ることができます。半夏白朮天麻湯はめまいそのものの改善にも有効ですが、それだけでなく消化器症状を治す薬としても役立ちます。

めまいは治せる――原因を突き止めるまで根気よく治療を

――最後に、めまいに悩む患者さんにメッセージをお願いします。

新井:めまいにはさまざまな原因があり、症状の強さや起こる頻度は人それぞれです。そのため、治療も一筋縄ではいかないことがあり、なかなか治らないことも少なくありません。原因を突き止めるまでに時間がかかることもあります。ただし、適切な治療とリハビリで、めまいは必ず改善できます。希望を持って、治療を続けてください。

新井 基洋(あらいもとひろ)先生
横浜市立みなと赤十字病院 耳鼻いんこう科/めまい・平衡神経科 部長

北里大学医学部卒業後、北里大学耳鼻咽喉科に入局。国立相模原病院耳鼻咽喉科を経て、健常人OKAN(めまい研究)で医学博士号取得後、横浜赤十字病院(現・横浜市立みなと赤十字病院)に赴任。耳鼻咽喉科副部長、同部長に就任した後、2016年より現職。日本耳鼻咽喉科学会耳鼻咽喉科専門医、日本めまい平衡医学会専門会員・評議員。著書に『めまいリハビリ実践バイブル―めまいと不安を治す12分の習慣』『めまいは寝てては治らない 実践! めまい・ふらつきを治す23のリハビリ』(ともに中外医学社)

参考

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